幼女さんのターン
び、美人さん…良い事言うじゃねえか。
それにしても、美人さんにそんな過去があったとはな…
「ロレッタ」
ん?幼女さんが……ものすっごく冷めた目をしてる。ど、どうした?
「この前の新聞小説で、まったく同じ事言っている登場人物いたぞ?」
「え!!」
………もしかして、美人さん………
「あはは〜♪なにそれ〜?「妹の為に」っていう小説なんて知らないわよ〜?パクってもいないし〜?」
パクったな!!
…つか、どうでもいいがここまで嘘だって解りやすい誤魔化し初めて見た。むしろ存在したのかこれ。
………あ、やばい、幼女さんから怒気が漂って来ている。
と、取り敢えずごまかすか!
『と、ところでロレッ「ロレッタア!!」ひいっ!?』
幼女さん、突然の一喝。40代の貫禄がにじみ出ている恐ろしさよ……
顔もなんだか大人に見えてくるのが不思議だよな…いや、でもなんでそんなおこ
「は、はい!!」
美人さんが返事のお手本みたいな返事をした。はいってなんだよはいって。
めっちゃくちゃ縮こまってるじゃねえか、美人さん、上目遣いで涙目だとだんだん幼女に見えて来たぞ……
「貴様は『妹の為に』をパクるほどおちぶれていたのかっ?!」
幼女さんが叫んだ!
あのちょ、幼女さん?いや、たしかにパクるのはいけないと思うけども?
落ちぶれるって…言い方が…
『あ、あの「だまっとれぇえええええ!!」申し訳ございませんでしたッ!!』
口を挟んで即座に謝る。美人さんのいいお返事を超えた気がする。
「妹の為にというあの名作はパクっていいものではない!」
「あ…もしかして、好きな小説だった?」
「あったり前じゃ!あの素晴らしい名作は三文で虜になるぞ!まずな、いたずら好きの暗殺者明が生き別れの妹に会うシーンから始まるのじゃ、あのな、明は妾の子でな、神社に引き取られているが殺人狂、という悲しい少女なのだが、しかし!妹は何不自由なく暮らして来たセレブお姫様!キラキラ輝く金髪が魅力的で、生徒会でハイスペック男子にモテまくっているのじゃ!!その上妹は自分の事を忘れている。もう二度と合えないと思っていた最愛の妹に合えた喜びと、忘れられた悲しみ、寂しさ。そして妹を取り巻く青年達への強い憎しみ、そして高い地位にあがってしまった妹へのほんのわずかなわずかな妬みーーーーそれらが見事に表現さ」
その後幼女さんの語りは2時間続いた、もうなんなんだ幼女さん!!
「ふぅ…やっと終わったわね!」
達成感あふれる表情で美人さんが笑った。
『はい!終わったというより終わらせたって感じですけどね!』
今。俺たちは暗い路地裏を通り、美人さんのおすすめだと言う宿屋に向かっている。
あの地獄の2時間、頭に休憩する暇すらもなく詰め込まれる情報に限界だった美人さんが、突然俺を引っ張って走り出し…無事逃げ出せた俺たちは、とりあえず休むことにしたのだ!…勝手に入って勝手に出てくる、それが美人さんクォリティ。
そのため今俺は手を引かれ、知らない通りを歩いている。
「でもミーラも悪いのよ!」
美人さんがひどく苛立ったように叫んだ。
『えっと、えっと?ミーラって…』
「あれ?言ってなかったけ?あの学園長よ。ミーラ・フジワラって言ってねぇ」
ん?ルグレ…とかなんとか言ってなかったけか?ん?俺の思い過ごしだったか…?
ミーラ学園長…か。異世界っぽいな、なんか。
てゆうか俺と幼女さん同じ名字だったのか!すげぇ偶然だ…!
『藤原ですか?』
「ううん、フジワラよ!名門貴族のご令嬢でねー」
またもやフジーラと勘違いされたようだ。
『へ、へーそうなんですかぁー」
「うん!あ、もうすぐ路地裏抜けるわよ!ごめんね☆こーんな暗いとこ通らせちゃって…」
『い、いいで「きゃーーーーーー!!!」』
突然の悲鳴、轟く騒音。
『び、美人さん!?どうしぎゃーーーーーーー!!!』
後ろから、なぞの霧が被さってきた。な、に…が?
突然霞み始めた視界に、俺たちを上から見下ろす人影が映った気がした。




