【彼女の見た今日】 中編
いつ見ても豪華な、王宮の端っこにある貴族の屋敷みたいな建物にアーリを連行してその中の一部屋に入る。
「アーリ殿、こちらが取り調べし…いや、少し話を聞くため連れてきた人がゆっくりできるように用意した部屋だ。」
やっぱり長いわね、取り調べ室っていっちゃえばいいのに。罪人に気を使わないで欲しいなぁ。箱入り令嬢(仮)だとしても町の秩序を乱し、許可なく王都に入ってきたんだし。
「おすわりください。あの、これを書いていただけますか?」
いつ見ても可愛い服を着たメイドが椅子を引いて、アーリにアンケートを渡す。名前とか年齢とか身分とか住所とか書くの。ここまではいつも通り。
でもね、騎士長様が罪人の前の椅子に座ったのは我慢できない。いつもは私が前に座ってるのに。あんな綺麗な女と向かい合う形で取り調べしたら、なんかドキドキなことがおきそうで嫌。あ!顔ちかい!
「別に向かい合わなくてもいいじゃない!」
騎士長様が「それは規則だ」とかどうたらこうたら言ってくる。いつもは向き合ってなかったのに、どの口が…。
「いいじゃない!」「だめだ」「いいじゃない!」「だめだ」
あぁもう!騎士長様強情!そんなにあの女と向かい合いたいのかしら…?
「ならばお前がやれ!」
「いいわよ!やってやります!!」
…………はぁ、なんであんなこと言っちゃったんだろ。
それで今取り調べてるとこなんだけど、年齢も身分も住所もわかんない奴をどう取り調べろって…!あたしにどうしろと!?
「済まない…私がロレッタに任せたばっかりに…」
ぐぅっ!騎士長様、ひどい、ひどい!
「はい、でも苗字はありますよ?藤原です。」
「は?先に言いなさいよ!」「わかった、フジーラだな。」
あっ!スルーされた。騎士長様!…なんで罪人まであたしをスルーしたの…?あたしをスルーできる状況じゃないわよ!?副騎士長よ?おーい!
「…っ、無視しないでよ!あんたなんか死刑よ、死刑!」
騎士長様を取られたような気になって、そんな言葉が口から漏れる。だって、騎士長様は私の大切な…っ!
「今のところ無実だ。ロレッタ、落ち着け。」
むぅ、騎士長様も頭に血が上ってたじゃない。あ、でも今のところって!
「あ!今のところっていった?わかった!頑張れば、死刑にできるわね!」
…そうね、この子がもしも《呪われし罪人》だったりしたらそれで死刑よね!暴くわよ!
「よーし、取り調べするわよー!あんた住所不定ってことは旅人ね?ギルドランクどれぐらい?」
「ぎるどらんく…?なんですかそれ?」
「「「「えっ!?」」」」
「ギルドランクも知らないの!?そんなの知らないの今時箱入り娘ぐらいよ!?」
う、うわあ…
もしかして本当に箱入り娘?ワケありかも!
なんとなくアーリ以外の人と集まって話し合ってしまう。
「もしかしてワケありお嬢様じゃない?あの子!」
「女だとしられないようにみたいなこといってましたし!」
「ふむ…もともと箱入り娘だったのだろう。なにか事情があって…」
「「「逃げてきた!とか?」」」」
きゃ、きゃー!本当にいるのね、そんな子!めっずらしー!あ、でもワクワクしていい状況じゃないわよね……………うぅん、なんか騎士長様難しい顔。
「アーリ殿…そなたはこの国の常識をあまりご存知ないようだ。もしよければ王国を案内しようか?」
「えっ、いいのですか!?お願いします!ありがとうございます!」
「あぁ、それ意外にも色々と支援はさせてもらう。…大変だったんだな。もう、大丈夫だ」
「え?箱入りだって確定してないわよ?ギルドランクを偶然知らなかっただけなら‥‥根拠、少なくない?」
思わず呟いたあたしに騎士の一人耳打ちしてきた。
「アーリさんの今までの発言を思い出してください。」
はぁ?えーっと
(「俺は…」あれ?俺?そういえば最初自分のこと俺って言ってたわねぇ
「アーリだ。よろしくな。」うん、これも男言葉。
「これでいいですか?」ここで女の子の喋り方。無理してたのかしら?
「王国騎士ってなんなんですか?」
あー、もう。そんなのも知らないのかしらって思ったのよねー。
「違います!そういう訳ではなく、あなたたちがどういった職業をしているのか純粋にわからないのです。
ただのおっさん…失礼しました、おじさんの集まりなのか、それとも偉い方々なのか、私にはわかりません。」
ふ、ふふふふ‥おっさん‥あぁ、思い出すだけでイライラする!
なんでそんなのも知らなかったのかしら、本当に!
「ダスガ様は騎士長なんですよね?ということはかなり高い地位をもっているのですか?」
騎士長様を名前呼び‥‥ほんっと非常識!
「あの、女扱いはやめていただけないでしょうか?お気持ちは有難いのですが、女だと思われたくないの で…」女だと思われたくない‥‥訳あり?
「ありがとうございます!」あぁ、嬉しそうだったなぁ、うーん‥‥)
‥‥‥ああああああああああ!なるほど、そっか、そっか!
「訳ありだかれ男に見られようとして男言葉使ったけどうまくできなくていつのまにかなおってて箱入りだから王国騎士知らなくて地位がわからないからおっさんなんて言っちゃって名前呼びも非常識だって知らなくて!箱入りだから!自分の言葉づかいがなおってるのに気づいて女だと言われないようにたのんでダメもとだったけど了承してくれて嬉しかった!」
「小声で叫ぶとかすごいテクニックですね…でも、その通りだと思います。我々にできることは心と体と生活支援、ただそれだけです。」
「そうね…心の傷は特に‥…どうしよう、ひどいことしちゃった。」
「大丈夫ですよ、これから優しくしていけば。」
「…そうね!ありがと、ロバート!」
ふふん、優しくしてあげるから、覚悟なさい!
…なんて、この前の新聞小説で見たセリフを心の中で復唱し、決意を固めた。




