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九話





深い、深い闇のなか。

息苦しくて息苦しくて。

いくら逃れようとしても手は届かない。

ーーーーいやだ!そっちには行きたくない!

それでも暗く淀んだ澱は手足に絡み付いてくる。

捕まった!そう思ったとき。


「.....ャ.....ヴニャアッ!」


..........頬に衝撃が走った。


*****


現在、オレはセオリアの部屋にいる。

そして今は夜である。


あの後セオリアは、少年を背負って運び出し、ここに連れてきた。

それから傷の有無を確認したり治療を施したり、少年の身ぐるみを剥ぎ、体を清潔にした後はベッドに寝かせた。そして簡単なスープとパンをベッド近くのテーブルに置くと、彼女は外へ出掛けて行った。

おそらくガーディアンのとこに行ったんだろうが、まだ帰って来ない。

そして少年は、あれ以来意識を取り戻すことなく青ざめた顔のまま眠り続けている。

オレは特に眠くもなく、暇だったので少年のすぐ傍でその様子を眺めていた。

.....のだが。


「ぁ.....ぁ..........ぐっ」


荒い息が聞こえたかと思うと、少年は己の腹を痛みに耐えるかのように抱え出した。

手で押さえているところはあの呪いが刻まれている場所だ。

これはまずいと思い、慌てて身を起こす。


『おい、大丈夫か!?』


鳴いても聴こえている感じはないため、まだ意識が覚醒していないのだと知る。

どうやら呪いは容易に解けるものではなかったらしく、呪いの印は彼の身体に刻まれたままだ。

こんなときどうすれば!?と混乱していると不穏な気配がした。よく見ると少年を黒い煙のようなものが取り巻いている。

本能的に少年が連れていかれる!と理解すると、


『ええい、起こしたところで収まるかはしらないが.....仕方ない!』


オレは思い切り少年の頬にネコパンチをいれた。


『オイッ!起きろっ!目を!さませっ!!』

「.....ぁ........ぅう?....ちょ...痛っ!?」


するとどうだろう。少年は呻きながらも跳ね起きたではないか!

我ながら恐るべし、ネコパンチ。


『おわっ!?』


.....その反動でオレはベッドの足の方まで転がったがな。

うん、落ちなくて良かった。


「あれ.....?ここはどこだ.....?」


まぁ目が覚めたんならそう思うだろうな。覚醒したようで何より。

少年の目がオレを捉える。意識もしっかりしてそうで良かった。


「お前は.....?」


そう訊かれたので、間抜けな自分の体勢を立て直し、若干警戒している様子の少年に歩み寄って軽くネコパンチをかます。

オレがお前を起こしてやったんだぜ。そんなに構えんなって。

そんな意志が通じたのか、少年は理解したようにため息をついた。


「そうか、お前が起こしてくれたのか.....ありがとな」


そう言ってオレの頭を撫でた。

うおっ、ちょ!まぁ.....仕方ない。相手は怪我人(?)だし、好きなようにさせるか。

しばらくされるがままになっていると、突如少年の腹から低音が響いた。

一瞬、手が止まる。


「あー、腹.....減ったなー.....ていうかいつの間に着替えてんだ?俺」


赤みがかった茶色の髪をポリポリと掻きながらまたもため息をつく。

あ、そうだ。セオリアが用意していったスープが。

オレはベッドからスープとパンが置かれたテーブルに乗ると鳴いた。


『これ食えよ。おまえに用意したんだぜ、あいつが』

「.....?それを食べろって言ってるのか?」


そうだ、と尻尾を一振りして返す。

すると少年はおそるおそるスープが入った容器の蓋をあけた。


「!.....あったかい.....?作りたてなのか.....?まさかお前が?」


違う。だからそれはセオリアが作ったものだし魔法具だからいつでも作りたてだ、と言ったところで言葉が通じないので黙殺する。

いいから早く食って寝ろ。子供はよく食ってよく寝ろってじいさんも言っていたぞ。

アリシアよりちょい上くらいの歳でそんなに痩せてちゃこの先辛いぜ。

オレは鼻先でパンも勧めた。


「これ、本当に食べて大丈夫なんだろうな.....頂きます」


少年はスープの入った器をベッドに引き寄せ、パクっと一口含んだ。

彼が今食べているのは細かく刻まれた野菜の入ったイモのスープだ。

消化にはいいはず.....

ところが少年はそこで止まった。


『どうした?マズかったのか?』

「..........旨い」

『え?.....オイッ、泣くなよ!』


オロオロしている間も少年の目からは涙が零れていく。

まさか泣くとは思わなかった。

こんなときどうすればいいんだ!!と、オレは過去の記憶を必死で探る。

はっ、そうだ!!

おいこら!こっちを向けい!!


「う.....グスッ.....?なんだ.....?」


ペロリ。


「..........!」


ペロリペロリ.....う!しょっぱい!

だが、こうすると大抵は泣き止んで.....


「.....う」


う?


「..........うぅ.....うああああん!!」


泣き止んでねぇーー!!

何故だぁ!あのじいさんの孫娘はこうやるとすぐ泣き止んだのにぃ!?


『ちょ、おま泣き止めって!ほらご飯食えご飯!なぁっ?』


焦りつつもちゃんと食べるようにとスプーンを鼻先で押す。

泣くと余計腹が減るぞ!

すると再び少年の腹から低音が響いた。ほらな?

.....しかも今度は先程よりも大きい。


「うぅ、グスッ、食べろって.....言ってるのか?」


そ、そうだ、と一鳴きする。

何があったかは知らないがほら、あれだ。腹が減っては戦は出来ぬ.....ん?これでいいのか?

ともかく、そんな状態ではなにもできない。よく食って寝ろ。


そうして少年はしばらく泣いたり食べたりしながらついには完食し、うとうとと眠りについた。

緊張状態であったろうこの少年が眠り始めたことに一瞬驚いたが、そういえばセオリアのやつ青い液体状のなにかを入れていた。

あれ、眠り薬だったのか。

.....食べたり泣いたり眠ったり。忙しい奴だぜ。





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