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八話

この場をお借りして。読んでくれた方、ブクマしてくださった皆様ありがとうございます。



セオリアは子供を木に凭れ掛けさせ、結界を張って森の獣等が近寄らないようにし、オレを臭いのするところまで案内させた。ちなみに山菜を摘んだカゴも子供と一緒に置いてきた。

何かあったら水の泡だからな。.....オレの苦労が。

そしてやはりノイズも後をついてきた。薄暗い森のなかで銀髪は目立っている。

奴と一緒にいるのはすこぶるいやだが仕事だというならばどうしようもない。


『あー.....こいつどっか行かないかな.....』

「ん?なんだ?ネコ助。構って欲しいのか?」


にやりと笑った声にぞわりと毛が立つ。


『そんなワケあるかボケ!その首噛み千切るぞ!』

「ほーらおいでおいでー。なぁ、こいつ撫でて良い?」

「.....首を噛み千切られてもいいなら、どうぞ」


オレが嫌がっているのを知ってか知らずか、嫌がれば嫌がるほどノイズは手を伸ばしてくる。

あれか、ドSってやつか。嫌がるネコもどきをからかって一体何が楽しいんと言うんだ!!カラスのせせら笑いの方がまだマシだと思え.....うん、ないな。思えない。

あいつら、オレが塀を登ってる途中で脚を滑らせてゴミ収集スペースに転落したときなんかあの憎たらしい声で爆笑していた。許せん。

まぁ、どうでもいい過去の話はさておき。


『いい加減次にやったら顔に三本傷つけてやろうか.....』


こっちが大人しくしていれば調子に乗りやがって.....!と、独り対策を考えながら進み続けると、ふっ.....と柔らかな甘い香りがした。


『.....?この匂いは.....』


が、次いでムワッと血の臭いが強くなった。思わず顔をしかめる。


「どうかした?ラヴィ」

『いや、大丈夫だ。なんでもない』


あまり血の臭いを嗅ぐと鼻がおかしくなるから嗅ぎたくないが、仕方がない。嗅覚を遮断することも出来るがそれでは意味がないのだから。


そうして臭いをたどり続けたたその先には、女性が1人倒れていた。

あたりには血溜まりが広がり、血の臭いはより一層濃く漂う。しばらく鼻は利かないだろう。

女性は子供と同じようなあちこち破れた服の格好をしており残念ながら.....こちらは既に手遅れだったようだ。

セオリアが、女性の脈を計ったが首を横に振った。


「.....あーらら。二人揃って八区の人間か?」

「そうみたい。でも変ね、八区からここまではかなりの距離がある」


八区とはいわゆるこの国を十に分けた区域のうち、貧困街を指す。

街の名はスタルという。


「ああ。ということは心中か、何かに巻き込まれたか.....お前はどう思う?」


ない話ではない。森は深く、獣も多い。何よりこの森に普通の人間は寄り付かない。

セオリアは.....人ではなく魔女だし。一応。

だからひっそりとしたこの場所は死を隠すのにはもってこいだ。

だが彼女はノイズと一緒になって考える気はないのか、あっさりと思考を放り投げた。


「さあ。第一発見者はあなたなんだから、それを解明するのはあなたたち(ガーディアン)の役目でしょう?嫌ならさっさと警備隊の方に回すことね」


私に聞くなと一蹴され、一見チャラ男なこの男は唇を尖らせて軽く舌打ちした。


「ちぇっ.....精々仕事に励ませて頂きますよーだ。.....ん?ってことはあの呪い持ちのガキ、うちで保護した方がいいのか。ま、誰か適当な奴に押し付けよー。オレ、ガキ嫌いだし」


ノイズがぼやく。いわく、ただの迷子なら保護した後、親を探す間はどこぞの孤児院に預けられるのだが、今回のようになにかしら問題がある子供はガーディアンの管理下に置かれるらしい。

それを考えるとセオリアにとっさの一撃を与えたあの子供が少し哀れになった。


『ガーディアンの管理下、か。オレだったら絶対やだね。そもそもこいつらが守ってるものは国でも人でもないし』


ガーディアンには全ての街、国中の情報が集まるが、犯罪など治安を治めるのは警備隊の仕事だ。

守護者(ガーディアン)自体が守っているのはもっと別なものだ。


「あの子ども.....」

「ん?」

「あの子ども、私が預かってもいいわよ」

『..........おい!?』


思わず声を上げる。セオリアが、預かる.....?子供を!?

実験でミュッドを爆死させ部屋を血染めにしたセオリアが.....?

本当に大丈夫なのか、心配だ.....子供が。


「へぇ、これは意外だ。とって食う気?それとも泣く子も黙る魔女様が情でも湧いた.....とか?」

「放っておくとあの子、呪いで死ぬわよ」

「.....マジか!それはちょい面倒だな......。で?犯人は?どんな奴だと思う?」

「そんなこと自分達で調べなさい。まぁ.....」


一拍おいて、遠くを見た。


「誰であれ、ろくなもんじゃないでしょうね」


また感情の見えない目が遠く景色を見ている。

いや、本当は何も写していないのかもしれない。

セオリアは時折こういう表情をした。

何を思っているかは分からないし、特に聞いたこともなかった。


『何か、あるのか?』


心当たりが、確信が。

問いには無言だった。


「じゃあ、とりあえず任せようかなー。お前ほどの魔女なら腕は確かだろうし?」

「ええ。命に関わる呪いだけに厄介ではあるけれど、見過ごせないもの」


どうやら少年をセオリアが預かる方向に話が進んだようだ。

この先彼がセオリアの実験台にならないことを祈ろう。


『ところでこの人間はどうするんだ』

「ああ、そうね.....。ノイズ、彼女はあなたが運びなさい。私はあの子を運んで森を出るから」

「りょーかい、いくら魔女様でもレディに負担はかけられないからね」


その物言いにセオリアは眉をひそめた。


「念のため言っておくけど遺体は丁寧に扱いなさい。私が口を出すまでもないけれど、あの少年もこの女性も一応、関係者なのでしょう?」

「はいはーい。それにお前もだからね、セオリア。一応後で呪いの報告をしに来なよ、(おさ)も顔を見たがっていたし」

「.....あらあら、あの坊やもまだまだ甘えん坊ねぇ?私には全く少しも用はないのだけれど。分かったわ、後でいく」


セオリアが呆れた様子で言うと、ノイズは肩をすくめた。


「お前から見ればあの怖い人も子供同然かぁ。相変わらず得体の知れないというか.....恐ろしいよ。セオリア」


二百数歳は伊達ではないと言いたいようだ。

普通の人間なら眉をひそめるような言葉だが、セオリアは悠然と唇を歪め極上の笑みを浮かべた。


「あら、最上の誉め言葉として受けとるわ」


彼女はそう言い残し、少年を置いてきた方へと歩き出した。

そういうところが恐いって言われるんだよなー.....と思いつつも、遠ざかる背中をぼーっと見送っているとノイズがぼそりと呟いた。


「ネコ助。お前のご主人が厄介ごとに自分から首突っ込むなんて珍しくない?」

『知らん。.....気まぐれじゃね?』


その呟きにオレはニャア、と思ったことを返した。

彼女が気まぐれを起こすのはいつものことだ。自由気ままな魔女。

何にもとらわれない女。それが数年間見続けたセオリアの姿だ。

今回もまた、何か思うことあっての気まぐれだろう。

もっとも、ノイズがそんなオレの意思を読み取れたかは知らないが。




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