七話
この国には『守護者』と呼ばれる人間たちが存在する。
かれらはとある存在に選ばれたエリートらしい。が、オレは特に興味もないのでセオリアには深く聞かなかった。だから知っているのは、そのガーディアンという連中は総じてアザがあるってことだけだ。
この胡散臭い男のように。
『 何しに来たんだよ!! 』
はっきり言おう。オレはコイツがあまり好きではない。
あれだ、可愛い可愛いと言ってくるが目が笑ってないって奴だからだ。
だが、奴はどういうことか店の常連、いわゆるお得意様だ。
そこに漬け込んでセオリアに仕事を依頼してくることも1度や2度ではない。
つくづく厄介な奴だと、オレは認識している。
「 シャーーーーッ!! 」
「 あれ、お前のネコ助がすごく威嚇してくるんだけど。 なんで? 」
「 そんなストーカーの相手することないわよ、ラヴィ。 目が腐敗する 」
『 だってこいつに近付くとろくなことない! 絶対!! 』
「 ストーカーは酷いじゃないか。 お前ってほんとつれないよ女だよねぇ 」
「 鏡を見てから言いなさい。 私はあんたに釣られてやるほど趣味は悪くない 」
「 ええー?こう見えてもウケはいいんだぜ?俺 」
絶対零度の眼差しを向けられるも、当人は意に介すことなく飄々としている。
こういうところも腹立たしい。もう一度はっきり言おう。うざい!
「 んで、このガキなに? 」
「 それは私が知りたいわ 」
ノイズの質問を煩わしげにあしらい、セオリアは倒れている子供に触れようとその身をかがめた。
が、その時。
「 ..........っ! 」
「 おっと 」
『 セオリア! 』
気を失っていると思われていた子供が跳ね起き、なんとセオリアの手を鋭く払ったのだ。
あげられた顔はよく見れば少年だ。ただじっと拒絶するように彼女の目を睨んでいる。
その眼差しはとても苛烈で、まるで手負いの動物のようだ。
彼女の手の甲につけられた引っ掻き傷からは血がどんどんと滲み出している。
「 あんた..... 」
しばらくお互いを無言で見つめあう。
セオリアはそれ以上なにも言わない。
やはり驚いたのだろうか。
一方、ノイズは一瞬驚いただけで、あとは彼らのやりとりを見学している。
本当に何しに来たんだコイツ.....
「 ぅ..........ぁ..... 」
何か呻くように口を動かすと、子供は気力が尽きたのか再び意識を失った。
すげぇガキんちょだな.....ちょっと、いやかなり痛々しいが。
セオリアの手からは相変わらず血が流れ続けている。
「 セオリア、血が出たままだ。はやく止血しろ 」
「 ええ、分かってる 」
魔女の血は力を持っている。悪用されないよう出血したらちゃんと処置を行わなければならない。
ノイズは暗にそれを含み、忠告した。
セオリアは自分の手を見つめ、かるく振って血を消した。
一体どんな仕組みなんだ.....
オレのとりとめのない疑問をよそにセオリアは子供の腹を探りはじめた。
ぼろの上着をめくりあげる。
って、唐突に何やってんだコイツ!
『 おいおい!何やってんだ! 』
「 うるさいわね、ちょっと黙ってて 」
「 わーお、大胆 」
「 舌抜くわよ 」
ドン引きとまではいかなくも、軽く引きながらはらはらとその様子を眺めていると、セオリアは子供の体に何かを見つけた。
「 これは..... 」
この場の目線は全て子供の右の腹部に注がれている。
そこにはなにやら複雑な模様が傷のように刻まれていた。
ただでさえ痛々しい見てくれなのにこの子供に一体何があったのか。
「 ん?なんだ?この模様 」
「 呪いよ 」
『 呪い!? 』
呪いは呪。
だが呪よりも呪いの方がたちが悪い。
そこには悪意や害意が込められていており、そういった負の念は相手が呪いによって障りをうけても満足することはないからだ
「 気に入らない 」
セオリアが眉をしかめて呟いた。
険しい顔だが一体どんな呪いなんだ.....?
ノイズが興味深そうにセオリアに尋ねた。
「 これ、どんな呪いなんだ? 」
「 まぁ教えてもいいけど、今はそれよりも..... 」
セオリアは顎に手を当てて何かを考えているようだ。
まだ何かある可能性を探っているのだろうか。
彼女の思考が深くなる前に先程言ったことをもう一度言う。
『 セオリア 』
「 何? 」
『 この近くでまだヒトの匂いがする。.....血が混じってる 』
オレが嗅ぎとったヒトの臭いは三つ。
一つは行き倒れの子供。二つ目はこのストーカー男だ。
つまり残るヒトの臭いのもとはあとひとつ。
「 ..........ふぅ。 仕方ないわ、案内して頂戴ラヴィ 」
「 え、なに?どっかいくの?セオリア 」
セオリアは立ち上がり、何の感情も込めない目で振り返る。
「 喜びなさいノイズ、あなたの仕事よ。多分.....ね 」