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六話



空気がひんやりとすずしい。

まるで外界とを隔てたかのように静かなその場所はオレ達の住む街の付近の山だが、実は人が好んで入らない魔境の森『 境目の森 』とも呼ばれる場所である。


『 ったく.....本当になんでこんなところにきたがるんだか..... 』


オレは目の前に迫ってきた羽虫を容易にかわし、文句を言った。

いや、言っても効果が無いことは分かっているがオレの精神衛生上言わずにはいられない。

セオリアのあれを探せこの匂いを辿れという要求に答え続け、かれこれ三時間以上はたっただろう。


「 だからここでしか採れない薬草とか野草とか美味な山菜とか 」


『 あ.....! あと貴重な素材だからーとかいってオレを毒熊の囮にするのはやめろよ! 二度とやらないからな!! 』


嫌な記憶が蘇ったがあれは本当に恐ろしかった.....。

そう、それはここにきて三年くらいたった頃だった。

普段のオレは毒熊ごとき敵ではない。再度言うが今生のオレは愛玩動物の猫ではなく魔獣だからな。

だが信じられないことにセオリアの奴はオレの身体を魔法で縛り、ごちそうよろしく腹の空かせた毒熊の目の前に差し出しやがったのだ!

抵抗するもむなしく、あの毒牙と毒爪が眼前に迫ったときは一瞬お花畑が見えた.....。

が、気絶から目が覚めたオレが見たのは鼻っ柱を叩かれ白眼を剥いて倒れていた毒熊だった。

疑問符を浮かべたオレが毒熊を解体しているセオリアを見るとコイツは「ああ、目が覚めたの?」と何食わぬ顔で言ってきたため、腹が立ったオレはあいつの顔めがけて猫キックをお見舞いし、そこから壮絶なバトル(?)を展開していったのだった。

結局セオリアは勝利し、オレは無駄に体力を削っただけだったが。


当時を振り返ったオレは思わず苦虫を噛み潰したようにうめいた。

セオリアはそんなオレを横目で見ると肩を竦めてみせた。


「 べつにいいじゃない。 結界は張ってあったし、怪我くらい私が治せるわよ 」


いや、そんなむっとして言われても。

というかそれは理不尽というものでは.....?


『 いや、囮になるオレの身にもなれ。 つかこの場合怪我じゃすまねぇだろうが!! 』


「 あー聞こえない聞こえない 」


『 聞けよ!!年増!! 』


「 何ですって!?馬鹿猫!! 」


そんな阿呆らしい会話をしはらく続けているとオレはふと、あることに気がついた。

立ち止まり、嗅覚に神経を尖らせる。

ーーヒトの臭いだ。


『 セオリア、ヒトの臭いが 』


「 気にしない気にしない 」


『 いやだから聞けよ。 臭いが2つ.....いや3つくらいするんだが 』


オレがそこまで言うとセオリアは歩みを止めた。


『 おい、急に立ち止まってどうし..... 』


「 子供が倒れてる 」


『 .....子供!? 』


驚きつつもセオリアの身体ごしに先を見ると、確かに子供が倒れていた。

セオリアがためらいなく子供に近づき、数歩先で止まった。

その子供はみたところ12、13才くらいに見える。

服はボロボロ、髪はぼさぼさ、顔はうつ伏せになっているのでみえないが、服から覗く体の肉付きからみて、あまり栄養状態が良いとは言えない。

不穏な空気が漂った。


「 スラムの子供かしら。なんでこんなところに..... 」



その時後方から草を踏む物音がした。


「誰?」


セオリアが、鋭く投げ掛けた。

こんな森の中でしかも子供が倒れている状況で後ろから気配がするなど不審なことこの上無い。


「さあて誰だと思う?セ・オ・リ・ア」

『なにコイツ気持ち悪い』


後方からこの場の雰囲気にそぐわない明るい声が聞こえた。


「なんか面白そうなことしてんじゃん。殺っちゃたの?いけないんだぁー、しょっぴくよ?」


その軽快な態度に対し、セオリアは目を閉じて深くため息をついた。

出来れば関わりたくないという思いがひしひしと伝わってくる。


「 人聞きの悪いこと言わないでくれる? そして..... 」


調子の良さげな声の方を向いて、鬱陶しそうに言い放った。


「 性懲りもなく後をつけくるのは悪趣味よ、ノイズ 」


「 あらら。 これはまた手厳しい。つれないこと言うなよセオリア 」


そこには右頬にアザのある男がにやにやと笑いながら立っていた。





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