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四話


 女子ふたりが紅茶とクッキーを味わいながら、最近はまっていることやおいしいケーキ屋の話をしているうちに時間はあっという間に過ぎていった。

そして。


「 ほうらラヴィッド! おいでおいで! 」


名前を呼ばれた俺が、今何をしているかと言うと。


「 ぅニャア~ 」


「 フフ、アリシア様は本当にラヴィが好きですね 」


アリシアの絶妙テクによって悶えていた。


「 うん! だってね? とてもやさしいし、お腹さわらせてくれるし、温かくて気持ちいいんだよ! 」


それにとってもきれい!と称賛してくる。

そう。俺の名誉のために言うが断じて撫でてもらっているのではない。

これは俺が仕方なく看板役としてのサービスをしてやっているだけなのだ。

ここを間違えてはいけない。


『 そそ、そんなに褒めたってぇ~なんにも出ないんだからな~? 仕方ない、もっと触らせてやるよほうらもっと触るがいい! 』


「 ラヴィ、あんた…… 」


「 どうしたの? シェリー 」


「 ……いえ、少し頭痛がしただけです。 大丈夫ですよ 」


といいつつ、セオリアは片手で額を抑えている。

セオリアとの接する時とのあまりの違い様に、猫もどきの矜持はどこにいった、とその目が問いかけてくるが、意味がわからない。こういう時こそ猫は愛嬌だろ?

こほん、それにこれは先述のとおりサービスだ。

言わんとしたことが伝わったのかセオリアはため息を吐きだした。


「 はぁ、もうなんでもいいわ。 ところでアリシア様。 今日もお一人で来られたのですか? 」


「 え!? いや、うん。 ち、ちゃんとお供の人といっしょに来たよ。 途中までは 」


途中まで……まさか護衛を巻いたのか。なかなかやるな、このお嬢さん。屋敷からここまでそれなりに距離があるだろうに。

セオリアは乾いた目であらぬ方を見ている。


「 あはは、やはりそうでしたか。その行動力は立派ですが……アリシア様。今度からはちゃんとお供の方も一緒にこのお店にいらっしゃってくださいな 」


「 え!? ……やっぱり一人できちゃだめなの? 」


うーん。自立するのはいいことだが、なにぶんまだ子供だからなー……それもようやっと10歳になったばかりの……

それに、アリシアは気が付いていないと思うが、彼女に気を遣って外から見守っている奴らもいるしなー……これじゃいざという時大変だろう……


「 はい。 やはりまだ一人歩きは危ないですし、皆さんも心配していらっしゃると思いますよ? 」


『 だいぶな 』


「 でも、せっかく今まで二人きりでたのしかったのに…… 」


アリシアが悲しげに眉をさげた。

まぁ屋敷に帰ったら嫌でも人はいるからな。使用人とかお付きの者とか。小さいうちは仕方ない。


「 そう言って頂けてとても嬉しいです。 ただここ最近、なにやら物騒なんです。 アリシア様くらいのお歳の子どもの誘拐事件なども起きているんだそうですよ 」


トポポポ……と紅茶を空いたカップに注ぐ音が聞こえる。


「 ゆうかい? 」


「 はい。 なにやら黒髪の少女ばかりさらわれるとか。 まぁ、今のところ警備隊(ガーディアン)のおかげで事なきを得ているようですが。 アリシア様の身に何かあってからでは遅いのです 」


そういえば今朝の朝刊にも書いてあったな。

それならなおさらアリシアみたいな子供が一人で出歩くのは確かに危ない。

それにコソコソされるのもいいかげん疲れるしな……

アリシアに大事がないように影から守っているんだろうが……。ま、つぎは表からちゃんと来てもらうとしてだ。


『 お前もなんだかんだ言って甘いよな 』


セオリアに向かって言うと彼女はふっと口の端を上げた。


「 アンタもね 」


持っていたティーポッドを置いたと思ったら俺の頭をくしゃりと撫でた。

思わず喉が鳴る。それは不意打ちだぜセオリア。


「 ねぇ、シェリー 」


「 はい、アリシア様 」


「 もし……もしも私が誰かにさらわれちゃったら、お父様とお母様はやっぱり悲しむのかしら…… 」


「 はい。 お家の方々もお付きの方々も。 僭越ながら、この私も 」


『あと俺もいるぞ』


一応アリシアに向かってひと鳴きした。


「 ……分かった。 シェリーの言うとおりにする。 ちゃんとついてきてもらうわ 」


アリシアは渋々ながら首を縦に振った。


「 ………… 」


そんなアリシアの様子を見て、セオリアは少し考える素振りを見せた。

口もとに手をやり、目を伏せている。

するとしばらくして、自分の目線をアリシアの高さに合わせるようにしゃがみ、ある一つの提案をした。


「 アリシア様。 もしよろしければお手紙を交換いたしませんか? 」


「 お手紙? 」


アリシアがきょとんと目を瞬かせた。そんな仕草すら愛らしい。


「 はい。 もし、アリシア様が私と二人で話したいことがある時は手紙に書いてください。 そうすれば秘密のお話も可能でしょう? 」


セオリアが悪戯っぽく笑うと、アリシアはその目を輝かせた。

うんうん。素直なのはいいことだ。でないとセオリアのようになってしまう。


「 ………… 」


心を読んだかのようにセオリアが俺を睨む。

……い、いや、失礼なことはまったくこれっぽちも考えてないから疑う目でこちらを見るな!セオリア!!全て気のせいだからな!あはは……


「 ひみつ! たのしそうだわ! 分かった、さっそく書くね! 」


こうして二人は手紙交換をすることになり、アリシアは次回からちゃんとお供をつけてこちらに来ることになった。これでひとまずは安心だろう。お付きの護衛も。


「 あ、なんならラヴィッドに手紙を届けさせましょうか 」


「 にゃ!? 」


「 本当!? うれしい!! 」


おい、ちょっと待て。それは俺がパシリになるって事か!?

な、なんという事だ。

俺は小声で文句を言おうとした。が。


『 おい!勝手に決め…… 』


「 報酬はお菓子にしようかなぁ 」


『 よし!任せろ 』


ハッ……つい菓子につられてしまった。

悔しいことにセオリアは相変わらず食えない笑みをしていたが、アリシアは心の底から楽しそうに笑っている。

へっ、俺も人の事言えねーぜ。

 


  

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