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三話

 

 

 ユハ・ミシュテア。

 ここが、今俺の生きている世界だ。

この世界には四つの大地があるらしい。俺がいるのは気温が暖かくとても和やかな大地だ。

この大地にはセオリアのような魔女や魔法使いが存在するらしい。

……そう考えるとちょっと恐ろしいが、それはさておくとして。


 この大地に街は一つ。というか規模がやたらでかいらしい。

10のエリアに分かれているらしく、セオリアの店『悠久の休日』があるのはヲルドマ区というエリアだ。

ちなみに街の外は、街から離れて行けばいくほど未開の大地が広がっている。

ま、そんな土地、俺には当然縁のない話なワケで。

 

 今何をしているかというと店の窓辺で優雅に寝そべっている。


「 チュンチュン! 」


『 おぉ、そうかそうか。で、 結局その子には(こく)ったのか? 』


「 チュン…… 」


『 なに!? ほかの(ヤツ)に邪魔されただと!? ンなもん(つつ)いて追い返せよ! 』


「 アンタ一体どんな会話してんのよ…… 」


俺以外の動物の声はまったく聞こえないらしいセオリアが店の中の掃除をしながら変なものを見る目で俺に話しかけた。べつに変な話はしていない。

あ、チュン助が飛んでってしまった。また来いよー。


『 恋愛相談に乗っていた 』


「 アンタに恋愛相談ねぇ…… 」


『 ……何だよ 』


「 いや。なんでも。鳥までもが猫の手を借りたいとは世も末ねぇ…… 」


そんな溜息つきながら言うな!こうみえてもなぁ、俺には彼女がいたんだよ!前世はだけど。

もう、会えないけど。二度と……会えないけど。

俺はフルフルと頭をふってその苦い思いを隅に追いやる。


『 それよりセオリア。もう今日は店じまいか? 』


今はちょうどおやつの時間だ。俺の腹時計が正しければだが。

アリシアが遊びに来るからいつもより早い閉店だ。


「 うん、まあね。商品も無事に持って行ってもらったし、客足も途切れてるし。美味しいお茶の準備しないとね 」


そう言いながらセオリアは店の中に粉を一握り蒔いた。

きらきらと輝くそれは彼女が調合した部屋の浄化作用効果のある粉だ。

ふわりとハーブの香りが漂い、粉は文字通り空気に溶けた。


『 その"まじない"にも慣れたな。今では意外と気に入ってる 』


「 ああ、これ?最初はラヴィ驚いてたからね 」


そうなのだ。彼女と同居し始めた最初の頃は魔法やまじないの存在に驚いてばかりいた。

とくにこいつは魔女だからな。それが普通の家よりも顕著だった。


「 『粉をまいたら部屋が粉だらけになるだろ!』って。あれはなかなか新鮮な反応だった 」


もう何も言うな……。

まじないはどうやらモノを媒介にするらしい。だからまじないをすると使ったモノは消えるんだとさ。

ちなみに彼女たち魔女や魔法使いが使う魔法については俺も理解不能だ。

なんでも生まれつきそういう感覚があるらしいが……。さっぱりだな。


セオリアは鼻歌を歌いつつテーブルの上にティーカップを並べている。

店内は本や、棚がたくさんおいてあるがさして散らかっているようには思わず、むしろアフタヌーンティーでもしたいほど爽やかに整頓されている。

もともとキレイ好きなセオリアはこういうところも手を抜かないらしい。

というか何故俺が"アフタヌーンティー"なんて洒落た単語知ってるかというとだな。

元主が好きでよく言ってたのさ。まぁ、あのじぃさんの場合「緑茶とせんべい」だったがな……


そんなことを考えていたら何か食べたくなってきた。お腹は全くすかないけど。


『 なぁセオリア。俺にも美味い菓子くれ。口が寂しい 』


そんな俺の要求に対して、ちょうどテーブルに菓子を用意していた彼女は訝しげに視線を返す。


「 口が寂しいって、アンタ食物の摂取はいらないんじゃなかった?……猫缶食べる? 」


『 そんなモンいるか!猫だけど猫じゃねぇんだよ!菓子が食いたいんだよ!猫缶とかまずいんだよ!!というか無味なんだよ! 』


俺はこちらに生を受けてからというもの、あちらでは食べたことのない美味なモノにはまっていた。

どうやらこの体は何でも食べられるようなのだ。

たかが猫缶では満たされないぜ!


「 猫もどきのくせに生意気言うわね。っていうかアンタさっき魚食べたじゃん 」


私の癒しのためのお菓子なのにぃ、とセオリアはぶつぶつ呟いている。


『 あれは食べたに入らない。……ただの習慣の一つだ 』


「 あっそ。まぁいいわよ、仕方ない 」


なんだかんだ言いながらセオリアは椅子から立ち上がり戸棚を開けた。

そこには紅茶やらお茶請けやらがたくさん詰まっていた。彼女曰く『 秘密の宝箱 』だそうだ。

思わず尻尾を一振りしてしまう。


「 なに、どうしたの? 」


『 お前は美食家だからな。これから出してくれる菓子に期待している 』


「 おいおい、褒めても何も出さないぞ~ 」


「 出ない 」ではなく「 出さない 」というところがなんとも彼女らしいというか。


『 いやそこは出せよ! 』


とりあえずツッコんでおいた。


「 ああはいはい。分かってるって。でもいいの?今食べちゃって。もしかしたらアリシア嬢が何か持ってくるかもよ? 」


『 ふん。そんな子供だましは通じないぞ。アリシア嬢はたしかにお嬢だがまだ子供だぞ?そんな気遣いが出来るわけ…… 』


「 こんにちわー!!シェリー!!約束したお菓子持ってきたよっ!! 」


唐突に玄関の鈴が鳴り、黒髪にくりくりとした目の可愛らしい少女が乱入してきた。


( な、なんだと!?この子……出来る!! )


というかいつのまにそんな約束をしていたんだ。

セオリアが得意顔で見てくるのが少し苛ついた。


「 あーらアリシア様!いらっしゃいませ~。あ、いい香りですね!ありがたく頂きます 」


アリシアから紙袋を受け取り、彼女を招き入れる。

そ、それを俺に!と視線を送るがあえなく素通りされる。ううっ……。

と、そんなことをしていてふと気が付いた。


『 ………… 』


俺は開けっ放しの玄関の戸を出て外を眺めた。

そして扉を閉めに来たセオリアの肩に跳び乗った。


『 またか…………お前も何か感じるか? 』


「 …………そうね 」


彼女は神妙な面持ちで頷く。


「 とても重いわ。アンタ太ったんじゃない?食べすぎで 」


『 そういうことちゃうわボケッ!! 』


ポカッと肉球で頭を殴る。まさにネコパンチである。


「 いったいなー。なにも殴ることないでしょおー 」 


『 うんよしわかった次から爪を使う 』


「 あーはいはい私が悪かったわよ。……でもまぁ 」


若干不機嫌そうだが半ば諦めたように目を伏せた。


「 このくらいなら全く持って平気でしょうよ。少し増えたようだけど 」


『 まぁいつものことか。変な奴に狙われても困るしな。見張りも大変だ……って、ここは護衛と言った方がいいのか 』


「 どっちでも。だけどそろそろ中に入れてあげるべきかしら? 」


『 いっそアリシアに聞けよ 』


「 それもそうね 」


そういってアリシアは扉を閉めた。

中に戻るとアリシアは興味深そうに店の品々を眺めていた。


「 何か欲しいものはありましたか?アリシア様 」


「 どれもこれも面白そうで素敵だわシェリー! 」


「 まぁ!ありがとうございます 」


っとまぁこんな感じに、アリシアが来ると店はまさに貸切状態になるのだが。

セオリアもそれは特に気にしていないようだ。


「 ねぇ、あそこの高い戸棚にある桃色の小瓶は何? 」


「 え!?あ、あはは、よく見つけますね……。あれはまだアリシア様には少し早いものですよ 」


ってまんま惚れ薬じゃねぇか!なんてもん堂々と出してんだ!

っとはいえ子供の手に届きにくい高いところに置いたのはセオリアの良心か。


「 ま、まぁなにはともあれ、お茶にしましょうか。せっかく頂いたアリシア様お手製のクッキーもはやく食べたいですし 」


「 ほんと?嬉しい! 」


こんな調子で茶会もとい女子会が始まった。

俺は美味い物が食えればそれでいいや。



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