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二話

      


  

「ニャア」


よう。寅之助だ。

正確には元、だが。


今の俺の日課は、エサを漁ること。

そうして今日も俺は特技を活かして猫らしく、特に好きでもない魚を乞う。


「あら~また来たのね? ネコちゃん。この魚持っておいきよ」


「ぅニャア」


「ほぅらよしよし~。いい子いい子」


ふっ。ちょろいぜ。

やはり人とはたいがい庇護欲を掻き立てるモノには甘いものだ。

まぁ稀に例外もいるが……今はいいだろう、うん。


しかしなんだ、やっぱりまずいな、魚。

どうにもこちらの魚は身があまりなく骨ばかり……臭いも不味い。

あぁ……美味い魚が懐かしいなぁ……。


そんなことを考えながら魚を()んでいると、俺を呼ぶ声が聞こえた。


「おーい、ラヴィッド! ってアンタ、またエサを漁ってたの? ホラ、帰るよ」


「あらシェリーちゃん。こんにちは。お店の調子はどう?またハーブを買いに行かせてもらうよ」


「こんにちはマチルダさん。ぼちぼち……と言ったところですかね。いつも本当にありがとうございます。ウチの猫のエサまでいただいてしまって……」


大雑把に結った栗色の髪を遊ばせるこの少女、シェリー……いやセオリア・ハッシュベルは、いわば俺の同居人だ。

彼女は魔女で『悠久の休日』という魔法具店を営んでいる。


ずいぶんファンタジーな名称が出てきたが、そう。

ここはかつて俺がいた世界ではない。

一度あの衝撃と死を味わったはずの俺は、なぜか目が覚めると見覚えのない路地裏に横たわっていた。

それも子猫の姿で。恐ろしく驚いたのを覚えている。

それからしばらくしてエサを漁るうちにここがかつての世界とは違う事を知ったのだ。


セオリアと出会ったのはその頃だったか……。


「さぁ、ラヴィッド。仕入屋が来るから帰るよ」


このラヴィッドという名前はセオリアが付けた。

俺は寅之助だと言ったがあれこれとやっているうちにラヴィッドと呼ばれることになった。

地味に兎と呼ばれているようで嫌だったが、何年も呼ばれ続ければ慣れるもの。

今はそれほど嫌でもない。

寅から兎とはずいぶん降格したとは思うがな!


「ニャア」


食べかけを丸呑みし、魚をくれた物売りのおばさんに礼の一鳴きを返してセオリアの後をついていく。

歩きながらセオリアが俺に話しかけてきた。


「そういえばラヴィ。アンタ魔獣でしょ? エサいらないんじゃないの? 」


魔獣とは大気に存在する『気』を吸収して生きている。

本来なら確かにエサはいらないのだ。

だが、これは個人的な問題なのである。


『……ゲフッ、失礼。まぁ俺の精神の問題だ。気にすんな 』


「あっそ。ならいいけどさ。必要なら言いなよ」


そいてこいつはなぜか俺の言ってることが通じるという。

周りにはどうあっても「ニャア」としか聞こえないらしいから不思議だ。


『シェリー』


「セオリアだっての。アンタまでシェリーって呼ばない。嫌だっていったでしょ?」


どうやら彼女は省略されるのが気に入らないらしい。

そういえば前に聞いたときシェリーという響きは女の子らし過ぎると言っていた。

照れ屋なのだろうか?


『……すまん。今日はやけに機嫌がいいな。何か良いことでもあったか? 』


そう尋ねると、セオリアはむっと口を尖らせた。


「心外だな、別にいつも不機嫌なわけじゃないよ。かわいいかわいい飼い猫様の世話をするのは飼い主の務めってね」


『うげ……。心にもないことを……』


「フン。勝手に飼わされたのはこっちだからね、ただの一般論だよ。でもまぁ、そうだなぁ。今日はラヴィを大層気に入ってるお客が来るんだよ。ほら、あの……誰だっけ?超かわいい女の子」


その内容だけで俺は記憶に当てはまる人物を特定する。


『アリシアか?』


「そう! アリシア嬢!」


いい加減に客の名前くらい覚えろと思う。

なぜ俺が名簿がわりになってるんだ……。


「あの子本当にかわいいしいい子だし、なにより良いとこのお嬢さんと懇意になるって商人にとっては……ねぇ?」


『あぁ……ソウデスネー』


こいつも中々黒いことを言う。

まぁ当初から勝手について来た俺を放り出されないだけ悪い奴ではない……はず。

というかお前は商人じゃなく魔女だろ、という突っ込みはあえてしないでおこう。

機嫌を損ねるとめんどくさい。


「あァ~きょうもォ~平和な休日ゥ~っと」


そんな俺の投げやりな態度を意にも介さず、彼女は暢気(のんき)に歌いながら帰路についた。


   

    

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