一話
「あぁ……眠ぃ――……寝過ぎたか?」
くわっと思わずあくびが出る。
俺の名前は寅之助という。
周りからは寅と呼ばれている。
何故寅之助かというと、名付け親のじっちが寅のように勇ましく育ってほしいと、しわくちゃな手で俺の頭を撫でながら言っていた。
まぁ無理な話だが。
趣味は……散歩か?
実は今も俺は散歩に出ている。
まぁ散歩と称して、行くところはいつも決まっているのだが。
彼女のところに行くのだ。
まぁ、ちょっと待て待て。
今は現実が充実しているとリア充とか言われる風潮らしいが、彼女がいるだけでは充実しているとは限らない。
彼女との心の距離感が冷め切っていては意味もないし、なにより色んな試練をクリアしないといけないのだ。それを常に乗り越えていくからこそ充実していると言える。
今まさに彼女に会いに行くという試練の真っ最中だ。どきどきする。
お、青信号だ。渡るか。
――――――――キキィィッ――……ドンッ
ところが急ブレーキ音と体に鈍い衝撃が走った。
どうやら赤信号を無視してきたトラックがいたらしい。
周りのざわめきと共に、俺の意識は次第に霞んでいく。
「かわいそうに……」
「あれ赤信号だったじゃん!!」
「あ、トラック逃げたよッ!」
どうやら轢き逃げらしい。
が、わかったところで俺は死んでしまうだろう。
生まれてから今までの記憶と後悔が頭の中に浮かんでは消えている。
もっと早めに家を出ればよかったとか、もっとあの子とたくさん話をしたかったとか。
「でも、あれってあのままでいいの?移動してあげたいんだけど」
「うーん役所が何とかするんじゃないのか?多分、誰も触らないだろうし逆にオレらが轢かれたら危ないだろ?猫の死骸なんて……」
もっと主に優しくしてあげればよかった……とか。
猫を見るとぬこと叫ぶ作者。
まぁ買うなら犬派ですが。
でも猫の気質に憧れている。