3.3
「他にもいろいろと用事があって時間が掛かると思います。わたしのことは気にしないで朽木さんはご自分の用事をなさってきてください」
町の小さな郵便局の前で、それじゃあ、と彼女と別れて、僕は向かいのスーパーに向かった。
彼女はなんだかんだ言っても手紙を出す程度の用事なのだから。十分、二十分の買いものでも彼女を待たせてしまっているのではないかと心配になり、最後には店内を小走りまでして買いものを済ませた。
郵便局の前では、やはりとうに用事を終わらせて待っていたらしい彼女がリュックを手に持ってぶらぶらさせている。
「ごめん。待たせたかな」
彼女は首を左右に振って、ぶらつかせていたリュックを背負った。
「ほら、こんなに買ったんだけど少し買いすぎかな」
彼女は小首を傾げる。
「はは、わからないよね。久しぶりの買いものだから、これで多いのか少ないのか、僕にもよくわからないんだ」
ほころんだ彼女の口元は、またすぐ元に戻った。
身体にほろほろと降りかかる光を地面に落としながら、僕と半歩後ろの彼女は来た道を戻りはじめる。
それにしても、さっきからどうも様子のおかしな彼女が気になる。
不機嫌、というよりも、なにかに落胆しているようで、
『なにかあった?』
とも訊けずに、お互いが黙りこくったまま山道の入り口まで来てしまった。
ほんの十数分待たせた程度で腹のうちを煮やすような人でないことは承知している。
そもそもが赤の他人で、ただ数日だけの付き合いなのだから、互いの胸のうちを詮索し合ったり、思うことを主張し合うべきではないと心得てはいる。だが、それでも、表面に表れた悲しみのようなものを見つけたからには、それを取り除いて元気になってもらいたいと思うのは伊達や酔狂ではなく人情の常だ。
「継美さん」
彼女は、なんでしょう、と言ったか言わなかったかわからないが、そういう感じにこちらを向いた。
「今日は夜におもしろいことを考えているんだ。だから、楽しみにしててね」
彼女は少し思案顔をして、でも弾んだ声で「ありがとうございます。楽しみにしてます」と言い、笑った眼を僕に向けた。




