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断罪される悪役令嬢は陰謀論がお好き「それ、C◯Aの仕業です」

作者: はぢてる
掲載日:2026/09/29

短編です。昨日言ってたもう一本のわけわかんねー作品がこちらになります。

「ジャクリーヌ、今こそお前がキャロルに行ってきた悪質な行いの数々…その全てを白日のもとに晒す時だ!」


 舞踏会の中央に陣取った金髪碧眼の王子、ピエールが威勢の良い声を張り上げた。


 ぴっ、と彼が指さした先には、貴族の息女が大勢集まるこの場でも一際目立つ真っ赤なドレスを着た金髪縦ロールの少女。

 名をジャクリーヌ・トゥルーシネスという。


「お前はキャロルと私が接近することをよく思わず、彼女を孤立させ、物品を損ない、終いに命まで狙ったと言うではないかっ」


 そう語る王子は1人の少女を自らの胸に抱き寄せていた。

 

「キャロルの食事に毒を混ぜたと聞いた時は流石の私も怒りに震えたぞ!」


 会場のあちこちからどよめきが上がる。


 ピエール王子の婚約者、ジャクリーヌ・トゥルーシネス侯爵令嬢と言えば”ザ・貴族の女”として知られる淑女の中の淑女である。頭のてっぺんから爪先まで気品に満ち、一挙一投足が優雅そのもの。きりりとした目元から激しい気性の持ち主なのではないかと陰口を叩く者もいるが、彼女の親しい者であればそれが全くの嘘でむしろ配慮に満ちた人物であると知っている。


 今も最愛の婚約者による裏切りと糾弾という、常人であれば猛り狂い口汚く罵りの言葉を吐きそうな状況でも、彼女はそよ風に当たるような自然体でピエールの言葉を受け流しつつ、黙考している。


 だがその余裕めいた態度はむしろ王子の癪に障るらしい。


「何か言いたいことはないのかっ、ジャクリーヌ!」


 急かすように言った。


 すると、彼女は面を上げた。


「私、分かりました…」


 ジャクリーヌは人差し指で額をトントン、と叩く。


「これは全部、C◯Aの仕業です」


*****


 ジャクリーヌは転生者であった。


 それだけではない。


 彼女は”真実”を知る者だった。


 米国はネバダ州で生まれ、幼少時にツチノコを探す両親と共に訪日し、某都市伝説雑誌で日本語を学んだ。大人になってからは東にUFOが現れたと聞けば頭にアルミホイルを巻いて出向き、西に因習村があると聞けば全身にお経を書いて出張っていった。

 そんな彼女だからこそ気づいたのだろう。


 世界中で起こるテロ、暗殺、変死…それら全てがC◯Aの陰謀だということに!


 そしてそれが正しいことを証明するかのようにある日、彼女はトラックに撥ねられ死亡した……筈が、気がつけばこの見知らぬ世界で侯爵令嬢ジャクリーヌ・トゥルーシネスとして再び生を受けたのである。


 ”真実”を知ってしまった私を消すためここまでするとは…!


 十歳の時に前世を思い出したジャクリーヌは、C◯Aのやり口に背筋を寒くすると同時、何としても彼らの陰謀を粉砕するべく決意を新たにした。

 故に今回、王子から覚えのない罪で糾弾されることについても何ら驚きはない。


 おのれ、またしてもC◯Aが私を罠に嵌めようとしたのですね。


 だが今回は詰めが甘かったようだ。


 逆に彼奴らの陰謀を白日のもとに晒してあげましょう。


 いかなる状況でも余裕を崩さない淑女教育と、降りかかる不幸も全てC◯Aと繋げてむしろ闘志を燃やす陰謀論者マインド。

 前世と今世の来歴が絶妙にマッチして、ジャクリーヌを優雅な人物に仕立て上げていた。


*****


「し、”しーあい◯ー”とは何だ?」


 困惑する王子にジャクリーヌは鋭い視線を向ける。


「C◯Aとは世界を影から操る組織のことです。キャロルさんを執拗に狙い、その罪を私に被せようとするのは、そう…」


 ばっと扇子を開く。


「私が”真実”に辿り着いてしまったからに違いありませんわ!!」


 ざわ、と会場にいた者達から一際大きな喧騒が上がる。


「おい、”しーあい◯ー”とは何だ?」

「王家直属の暗部のことか?」

「いや、敵国のエリート部隊かもしれん…」

「馬鹿馬鹿しい!そんな組織がいればとっくに…」

「だが侯爵令嬢の堂々たる態度を見ろ。あれが嘘偽りを申し立てる者の態度か?」

「あるいは侯爵が王家に先んじて情報を掴んでいる可能性も……」

「では本当に”しーあい◯ー”なる闇の組織が…!?」


 元々がゴシップ大好きな貴族連中である。火のない所に煙は立たぬとでもいった考え方が浸透しており、侯爵令嬢の言葉を無視できる筈がなかった。


「おい、ジャクリーヌは何を言っているのだ」


 会場に居合わせていた彼女の親族もひそひそと言葉を交わす。


「”しーあい◯ー”、とは何かの隠語ですか?」

「私は何も聞いていないぞ」

「では父上が…?」

「大支給、屋敷へ戻り確認せねば…!」


 足早に会場を後にするその人物の姿を、多くの者が目に留めていた。


「おい、見たか」

「今のはジャクリーヌ様の兄のロバート様だ」

「屋敷へ戻り侯爵に確認がどうのと言っていたぞ」

「ではやはり…!」


*****


 会場で方々からあがるやり取りは王子の耳にまで届いていた。


「何を言い出すかと思えば……」


 思わず苛立った声を発してしまう。


「王子である私さえ聞いたこともないそんな珍妙な組織、いるわけないだろうが!」

「それこそが陰謀なのです!」


 彼の糾弾をジャクリーヌは即座に打ち返す。

 会場の者達へ振り返り、彼女は問いかける。


「ここにいる皆様も身に覚えはありませんか?いつの間にか物が消えている。人が消えている。記憶が消えている。そうかと思えばやったことのないことをやったことにされ、見知らぬ者が親友を名乗って話しかけてくる。そういった、常識では説明できない奇妙な出来事が身に降り掛かったことは!?」


 王子は頭が痛む思いがした。


 婚約者であるにも関わらず、他の異性のように自分を前にして頬を染めたことが一度もない唯一の女性。

 ジャクリーヌの見目麗しい姿に見惚れ、何とか彼女に振り向いて貰おうとどれだけ自分を磨いた。

 だが、その瞳はいつもどこか自分ではないどこか遠くを見ていた。


 そんな彼女を妬み、諦め、それでも焦がれ。


 最初、キャロルに興味を示したのも、他の女に近づけば何かしら彼女からの反応を得られるのではないかといった暗い期待からだった。

 だが彼女はまったく気に留めることなく、むしろ自分だけがキャロルにのめりこんでいった。

 今回の断罪も、ある種ジャクリーヌに対する意趣返しの気持ちがなかったと言えば嘘になる。


 なのにようやく彼女から得られた反応がこんな荒唐無稽な発言だとは。


 王子は自分が今まで散々悩まされてきた相手が、単なる狂人だったのではないかという可能性に目眩がしそうだった。


 ジャクリーヌがいくら会場に問いかけたところで、人々からの賛同など得られよう筈がない。

 そう思っていると。


「そういえば…」


 一人の青年が声を漏らした。


「近頃、私の実家で度々不審な者が目撃されていまして…」


 皆の視線が彼に集中する。


「…警備の者が追いかけるんですが、すぐに近くの林に潜ってしまって一向に素性が掴めないのです」

「それ、ただのこそ泥か何かだったんじゃ…」


 近くにいた彼の友人がそう諭しかけたところで「いえ」と遮る声。


「こそ泥などではありません。C◯Aが森に解き放ったエージェント……スレンダーマンに違いありませんっ!」

「す、スレンダーマン!?」

「その人物、黒装束でやたら長身だったのではありませんか?」

「た、確かに…!」


 別に黒装束で長身の盗賊など珍しくも何ともない。

 だがそんな可能性はジャクリーヌの一喝できれいに吹き飛ばされていた。


「それこそがスレンダーマンです!」

「な、なんと…!」

「で、では…!」


会場の別の場所から声が上がる。


「私の恋人が突然『別の子が好きになった』と言って失踪したのは…!?」


 ジャクリーヌは頭を振る。


「残念ながらC◯AのMKウルトラ作戦で洗脳されてしまったのでしょう…」

「えむけーうるとら!?」

「洗脳!?」


 今度は淑女が悲鳴のような声で。


「では、私が可愛がっていた子犬がいなくなったのも…!」

「C◯Aが遺伝子操作で作り出したチュパカブラが食べたのに違いありません!」

「僕が舞踏会直前に落馬して怪我をしたのも!?」

「C◯Aです」

「俺が留年したのも!?」

「C◯A」

「母ちゃんに小遣い減らされたのも!」

「全てまるっと……」


 会場の声が揃った。


「「「”しーあい◯ー”の仕業なのかーっ!!!???」」」


 会場のあちこちから声が上がる度、ジャクリーヌは「C◯Aです」と答え、その度に悲鳴とも歓声ともわからぬ声が上がった。


「これじゃあ埒が明かない…!」


 王子は深々と嘆息すると「沈まれっ」と怒号を発した。

 会場がしん、と静まり返る。


「ジャクリーヌ……お前の言う”しーあい◯ー”とやら、私には戯言にしか聞こえないが、そこまで言うなら真実を詳らかにしようじゃないか」


 ピエールは傍に控えていた側近の一人を睨んだ。


「おい、水晶を持て!」


 彼の号令に、会場が騒々しさを取り戻す。


「水晶…ま、まさか”真実の水晶玉”か!?」

「そこまでするのですか、王子…っ!」


 王家が代々所有する宝物の一つ”真実の水晶玉”は、触れた状態で偽りを口にするとまばゆい光を放ち、真実しか話せなくなるという代物。

 本来であれば裁判にかけることさえ憚られる大罪人を王族の特権で断罪するためのアイテムで、間違っても婚約者に使うものではない。

 これを使うということは王子が本気でジャクリーヌ、ひいては彼女のトゥルーシネス家と真っ向から対立する覚悟があるという証拠だ。


 元からどこかの時点で使う予定があったのか。王子の隣に控えていた従僕の一人が手に抱えていた包みを解くと曇り一つない美しい水晶の球が姿を現した。


「さあ、ジャクリーヌ!これに手を乗せてもう一度その”しーあい◯ー”とやらについて語ってみるが良い!」


 一斉にジャクリーヌのもとへ注目が集まる。


 何せ”真実の水晶玉”だ。

 少しでも嘘偽りがあれば即座に光を放つ。時に自身が真実を話しているつもりでも言葉尻一つ捉えて嘘と断じ、白黒つけるどころかむしろ話をややこしくすることさえあると言う。


 さしものジャクリーヌ嬢もこれには冷や汗が出るに違いない、と誰もが思ったものの。


「望むところですわ」


 ジャクリーヌは真っ赤なドレスを翻し、素早く前に進み出ると何の躊躇いもなく水晶玉に手を乗せた。


「この度キャロルさんの身に降り掛かった数々の不幸について、私が指示したものもなければ、まして直接手を下したようなものは何一つありません!」


 皆が固唾を呑んで水晶玉を見守る。

 が、水晶玉は一切反応しない。


「な…!」


「分かりましたでしょう」とジャクリーヌは水晶から手を離すと再び扇子を手にし、王子にその先を向ける。

 触れている限り真実しか話せなくなる水晶に手を乗せたまま、ジャクリーヌは自分の身の潔白を晴らした。


「だ、だがそれでは一体……?」

「おそらく、誰かがこの場で嘘をついているのでしょう」


 はっとして王子は自ら胸の中に抱き寄せている少女を見下ろした。


「きゃ、キャロル……ではまさかお前が……!?」

 

 ピエールに肩を掴まれ問い質された少女の額をたらりと雫が伝う。


*****


 キャロルは焦っていた。


 平民の頃から努力し、他者を騙し、出し抜き、ようやく手に入れた学園への切符。だがここは通過点に過ぎず、ゴールはもう少し先。

 ここで何としても玉の輿に乗っかる必要がある。

 愛らしい小動物に擬態した肉食獣は獲物を探し、最もジューシーな男子、ピエール王子に辿り着いた。


 婚約者がいる?

 そんなこと知ったことではない。

 何としてでも奪い取ってやる。


 彼と二人きりになれるタイミングを見計らって困り仕草。放っておけない彼に懐いたフリして急接近。風俗街の売れっ子だった母親譲りのテクニックで媚を売り、ピエールが自分に堕ちかけたタイミングでジャクリーヌに関して物を取られたとか叩かれたとか、あることないこと吹き込んだ。

 自分の食事に少量の毒物を混ぜた時は流石にやり過ぎと思わないでもないが、効果はてきめん。

 ジャクリーヌのイニシャルを刺繍した自作のハンカチを配膳台の近くに落としたことでいよいよピエールは彼女との婚約破棄を決意してくれた。

 このような場で関係の解消を宣言するのは予想外だったが、キャロル的にはありだ。


 …などと思っていたのがほんの少し前。


 ジャクリーヌを追い詰める筈が、いつの間に自分の方が追い詰められている。


 今、水晶に触れてしまえば自分がジャクリーヌに冤罪をふっかけたことが全て明らかにされてしまう。牢獄行きは免れないだろう。

 最悪、王族を誑かした咎で拷問の末に打ち首という未来もあり得る。


 水晶に触れるわけにはいかない。

 だが、触れることを拒否すればそれ自体が罪を自白するのに等しい。


 観念したキャロルは拳を握り締め、下唇を噛む。

 そんな彼女にジャクリーヌが声をかけた。


「キャロルさん…私、実は最初から全て分かっていましたの」

「…そう、ですか」

「あなた……」

「…………っ!」


 目を閉じ、断罪の言葉を待つ。


「…確か雷魔法がお得意でしたわね?」

「……へ?」

「あら、違いましたか?」


 ジャクリーヌが首を傾げるので咄嗟に肯定する。


「あ、いや、その通りですが…?」


 突然何を言い出すのか、この女は。

 確かに自分は雷魔法を使うのが得意だが、それが今の状況と何の関係があるのか。


 キャロルには見当もつかなかった。

 ふと隣に立つ王子の方を盗み見るも、こちらも呆気にとられた表情でジャクリーヌとキャロルを見交わしている。

 会場の他の連中を見回しても同様だ。


「C◯Aが主に得意とするのはヒューミント……ヒューマン・インテリジェンス、つまり人を使った諜報です」


 頭上に疑問符が浮かんでいる周囲を一切介することなく、ジャクリーヌはヒールを高く鳴らしながら語る。


「ですがシギント…シグナル・インテリジェンス、通信機器を使用した諜報については別の組織が十八番としています。通信機器とは電子機器、つまり電気、雷、雷魔法……もう皆さん、お分かりですね?」


 誰も分かっていない。


「そう…キャロルさん」

 

 そんな会場の無知を気にせず、ジャクリーヌは機敏な動作で扇子の先をキャロルに向けた。


「あなたはシギントを得意とする組織、すなわちN◯Aに利用されたのですね!?」

「え…!?」


 また新たな単語が飛び出した。もう会場の誰も理解が追いつかない。


「おい、”えぬえす◯ー”って何だ!?」

「”しーあい◯ー”じゃなかったのか!?」

「聖王国の秘密部隊か!?」

「馬鹿な、そんなものがいればとっくに」

「しかし、ジャクリーヌ嬢の堂々たる佇まいを見よ」

「嘘を吐いているとは思えません」

「第一、彼女は真実の水晶玉で身の潔白を証明したではないか」


 誰も気付いていない。

 ジャクリーヌが証明したのはキャロルの虐めに自身が関与していないということについてのみであることに。

 だがジャクリーヌは無罪であり、無罪の彼女は”真実”を知っている。その彼女から語られたC◯Aという組織が実在するのであれば。


 キャロルはごく、と唾を飲み込むと声を張り上げた。


「そ、その通りです!」


 皆の視線が彼女に集まる。


「全部…全部、その”えぬえす◯ー”?そ、そ、そいつの仕業なんですっ」


 今はとにかく場を引っ掻き回せればそれでいい。”えぬえす◯ー”とやらがなんなのか全くわからないが、今この場を切り抜けられるのであれば恋敵だろうが謎の組織だろうが何でもいい。


「で、では…王国で起こる全ての不幸はC◯AとN◯Aのせいだというのかっ!?」


 会場の群衆から声が上がった。


「そうです。C◯AとN◯Aが全ての元凶なのですっ」

「先日、隣国が襲撃を受けたというのも魔族ではなく!?」

「C◯Aですね」

「最近王都で起こっている連続殺人も!?」

「N◯Aのエージェントでしょう」

「五年前に第一王子が暗殺されたのも!?」

「C◯AとN◯A、両方が関与すればあるいは」


 その場にいる者達が一斉に驚嘆の声を上げる。

 

「「「ぜ、全部”しーあい◯ー”と”えぬえす◯ー”の仕業だったのかー!!!???」」」


*****


 王子の傍に控えていた側近が水晶玉を彼の方に差し出してきた。

 改めて真実が調べるか、と聞いているのだろう。


「…いや、もう必要なかろう」


 既に自分が思い描いていたシナリオからはかけ離れた現実。

 悪い夢のようだった。


「ジャクリーヌ!」

 

 ピエールは震える声で彼女を呼んだ。

「何か?」

「お前は今に至るまでそのような……そのような……っ」


 目を見開く。


「……何故、もっと早く私にそのことを伝えてくれなかったっ」


 認めるしかあるまい。

 五年前に異母兄である第一王子を暗殺したのは多分、自分を皇太子の座に着けたかった実母だ。


 下手にジャクリーヌの言葉に反論すればその辺りを探られるおそれがある。

 そうなれば母のみならず自分も立場が揺らぐ。

 藪をつついて蛇を出す必要はない。

 ”しーあい◯ー”とか”えぬえす◯ー”に濡れ衣を着せられるならそれに越したことはない。


 ピエールは知らぬが、キャロルも気持ちは同じである。


 いや、キャロルだけではない。


 盗賊のフリをしてライバル貴族の屋敷を襲撃しようとしていた伯爵も。

 この場に貴族のフリをして忍び込んでいる魔族のスパイも。

 サイコパスな息子が夜な夜な街に繰り出しては人殺しをしていることに気付いている公爵も。


 全部C◯AとN◯Aのせいにできるなら。


 乗るしかない、このビッグウェーブに。


 この日、王国は”真実”を知った。


*****


 後日。


 某諜報組織本部に数年ぶりの帰還を果たした工作員の報告に、局長は眉をひそめる。


「…ではDA◯PA開発による転移装置で発見した異世界への介入はほぼ不可能、と?」


 ええ、とエージェント。


「何故だ?向こうは”魔法”なる技術があるとはいえ、文化レベルはこちらの中世程度と聞いているが?第一、向こうは我々の存在を知らない筈だ」

「そ、それが……ある時期から王国で突然我々の存在を察知されまして……」


 魔法技術を総動員し、血眼になってC◯AとN◯Aを探す王国につけ入る隙がないのだという。


「致し方ない、か…大統領には私から伝えておこう」


 元々、下手をすれば異世界との紛争になりかねない工作員の派遣に、局長は当初から乗り気ではなかった。

 断念できる理由があればそれに越したことはない。


 転移装置の存在も含め、記録を全て抹消してしまえば後に累を及ぼすこともなかろう。


「しかし、何がきっかけで王国に勘付かれたのかだけは気になるな」

「きっかけは1人の人物だったそうです」


 そう言ってエージェントは局長に1人の女性が映る写真を差し出した。

 

 それは真っ赤なドレスを着た、金髪縦ロールの少女だった。

 下には「ジャクリーヌ・トゥルーシネス」と名が記されている。


「ジャクリーン、か」


 かつてC◯Aが暗殺に協力した大統領の妻に名の綴りが同じ女がいた。

 

 偶然にしては出来過ぎ…というほどではないが、その奇妙な符号の一致に、局長は運命とも陰謀ともつかぬ何かを感じずにはいられなかった。

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