14 smoke books〜その選択の果てに――〜
日本 北海道 智恵文市
令和八年 夏
朝 晴れ
彼はあることについては中途半端だが、中学校をサボることはまったく断行できる。黒い短髪の中背で、長袖のワイシャツ、紺のジーパンを着ている彼――カラトは今日も学校をサボり、その田舎町――盆地――の森の中にいる。彼が立っているのは遊歩道の上だが、人は滅多に来ないし、その入り口はすぐカーブしているので、一人になりたい時はもってこいだ。そのカーブの少し先で、彼は今日もぼんやりと立っている。くだらないことをしないように。
やがて、彼はふと森を出る。目の前は道路が横たわっている。彼はその道を右に行き、数分後、公園に着いた。貸しボートや売店もある広い公園には誰もいない。彼は遊具のそばのベンチに腰かける。そしてまたぼんやりとする。昼まで――とはならなかった。ふと、彼は彼の目の前を横切ろうとした相手に声をかけられた。キミもサボり? と不審げな表情で。
彼は、その黒髪のロングヘアで薄い緑色の長袖ワンピースを着た中背の相手に見覚えがあった。
「意外だな、キミもサボるなんて」と、カラトは不思議そうに言った「ノリエさんだよね? クラスは違うけど知っているよ」
「あらどうして?」と、彼女はやはり不審げな表情で聞く「私が富豪の娘だから?」
カラトはうなずく。
と、ノリエはがっかりしたようだが、ふと微笑して、「まぁそうよね。――どうしてここにいるの? 私のこと待ち伏せしていたの? カラト君」
「えっ? 違うよ」
どうして私の名前を? と、彼は付け加えた。
ノリエはまた笑い、「さぁね。――隣、いいかしら?」
「どうぞ」
「ハンカチ敷いてくれる?」
「ハンカチ? 持ってないよ」
「あらそうなの?」と、ノリエはシアン色のハンカチを取り出し、カラトに差し出す「使う?」
「さすがだね。いいの?」
「一万円」
カラトは苦笑して、「ハンカチ屋の娘らしいね。けれどちょっと高いな」
「甘いハンカチだからね。で、使うの?」
「後払いできる? 今何も持ってないんだ」
「良いわよ、成立」
カラトはハンカチを受け取り、広げてベンチに敷く。
「どうぞ」
「ありがとう」と、ノリエは座る「何も持ってないってなんで? 不便と退屈でしょ?」
「まぁ不便だね。でも退屈じゃないよ。――そう、私は何も持ってないわけじゃないんだ」
「へぇ、かっこいいわね。それは何? 教えて」
「悪いけどそれはできない。――ていうか、ベンチにハンカチを敷くってデートのマナーじゃないか。なんでハンカチを頼んだんだ?」
「そうね、ここじゃあまり必要ないわね。――ねぇ、また会ってくれる? 今度は学校で」
「学校は嫌だな」
「じゃ“サージョー”の一階にあるフードコートでどう? 今日の夕方に」
と、ノリエは立ち上がる。
「良いけど、すぐ再会だね」
ノリエは微笑して、「嬉しい?」
「えっ?」
「なんてね。じゃ“サージョー”の入り口前に集合ね。今度は財布持ってきてよ」
と、彼女は去った。
昼ちょっと前、カラトは市役所の前にいる。
またぼんやり立っていると、「すみません」と、ふいに横から話しかけられた。
見ると、褐色の外国人異性が二人いた。
(親子かな?)
と、思ったカラトは片方の同年代の少女を見て、
(……なんでおどおどしているんだ?)
と、不思議に思った。
「市役所はここでいいですか?」と、もう一人の若い女性がカラトに聞いた。
「そうです」
「ありがとうございます。それでは」
「待って」と、カラトは少女――長い黒髪を後ろで束ね、小柄な身体に学生服を着た――を見る「なんでキミ、そんなおどおどしてるの?」
「……自分に自信がないからです……」
「どうして?」
「……自分には何もないから」
「なら私と一緒にいればいい。そうすればキミは自信が持てるよ。一緒にいよう」
「えっ!?」
「名前は?」
「キャ、キャシー……」
カラトは微笑する。「いい名前だね」
少女はぽっとする。
「キャシー」と、女性が呼ぶ「手続きは私がするからキミは彼といなさい」と、微笑みながら言って、カラトを見る「キミの名前は?」
「カラトです」
女性はうなずき、キャシーに、「いいわね?」
「う、うん」
女性は市役所へ向かう。
「なんの手続き?」と、カラトはキャシーに聞く。
少女は戸惑いを見せながら、「転入届です。この街に引っ越してきたから」
「まだ自信について悩んでいるようだね? まぁそれもそうかな。――中学生?」と、カラトは少女の服装を見て聞いた。
「はい。中一です」
「じゃ同い年か」
「えっ? そうなんですか?」と、キャシーは驚いて言う。
「うん。――お腹減らない? どこか食べに行こうよ」と、カラトはキャシーの手を取る「行こう」
少女は赤くなって、「は、はい……」
二人は市役所などが面した駅前通り――南北に横たわる――を北へ歩き出した。
「同い年なら敬語はいらないね」と、手を繋いで並んで歩きながらカラトは言う「学生服なんで着てるの?」
「転入届の手続きが終わったら学校へ行こうと思っていたんです」
カラトは微笑して、「敬語はいらないよ」
「う、うん。――カラトはどうして外にいるの? 学校は?」
「サボった。そうだ、キミもサボろう」
「えっ? それは駄目だよ」
「けれどそうじゃないと一緒にいられないだろ? 大丈夫、一緒にいれば。だからサボろう?」
「う、うん……」と、少女は戸惑いながら、ちょっと笑って答えた。
数分後、二人は食堂の前で足を止めた。
「ここは小さいけど味は中々だよ」
「じゃここにしたい」
「うん。――ごめん、財布取りに家に帰る。キミは――そうだな、食堂か図書館で待っていてくれ」と、カラトは食堂の隣の建物を指差す「これが図書館」
「私も一緒に行きたい」キャシーはためらいながら言った。
「そう? なら行こう」
「あっ、待って。図書館で本を借りたい。この街の歴史の本」
カラトは首をかしげる。「いいよ。――本が好きなの?」
「うん。特に歴史の本」
その本は司書に聞いてすぐに見つかった。
それから二人はカラトの家へ。彼の家――三階建て六部屋のマンション――は駅前商店街の近くで、数分で辿り着いた。彼の部屋は最上階だ。カラトはキャシーを居間に案内した。
「座ってて」と、カラトはソファーを勧めた。
キャシーはうなずくが、「親は?」
「別々に暮らしてる。そういう教育方針さ」と、カラトはソファーの前のテーブルを指差す「本、テーブルに置けば?」
「うん。――食事のあと、ここで一緒にこの本を読まない?」
「うん、分かった」
そうやって過ごして、夕方、カラトはふと思った。
「ちょっと用事がある。――キミも行く?」
「うん」
カラトはキャシーを連れて、集合場所の“サージョー”へ。そこは老舗の百貨店――二階建て――で、彼の自宅の近くにあった。
「あら?」と、すでに入り口前に来ていたノリエ――学生服姿――は、カラト達を見て不思議そうな顔をした「その子は?」
「彼女はキャシー」と、カラトは言った「キャシー、彼女はノリエさん。私のクラスメイトだ」
「どのクラスでも見たことないわね」と、ノリエは戸惑っている様子のキャシーを見て言った「転校生?」
キャシーはぎこちなくうなずいた。
ノリエは、「そっか。――もしかして兄がいる?」
「いいえ」
「そう。上の学年にもいるのよ、似たのが。だから兄妹かなって。――カラト君、財布は持ってきた?」
「うん」
「なら行きましょう。――キミも一緒にどう?」
「えっ?」と、キャシーは戸惑いながらカラトを見る。
彼は、「行こう?」
「う、うん」
フードコートは主に学生達で混雑している。しかしカラト達はすぐテーブル席に座れた。男子学生グループが快く譲ってくれたからだ。
「カラト君」と、ノリエは向かいの彼を呼ぶ「飲み物は何が飲みたい?」
「飲み物? ――コーラが飲みたいな」
ノリエは微笑して、「コーラね。もらってくるわ」と、立ち上がる。
「えっ、別に自分でやるよ」
「いいからいいから。――キャシーさんは何にする?」と、ノリエはカラトの隣の少女に聞く。
「あっ、じゃ私もコーラで」
「分かったわ」と、ノリエは席を離れる。
「カラト」と、キャシー。
「何?」
「ノリエさんとはどういう関係なの……?」と、キャシーは不安そうな顔で聞く。
「カワイイね、キミ」
と、二人の前からそう聞こえた。見ると、学生服を着た褐色の外国人男子が立っていた。彼は微笑しながら、「一目惚れした。私と付き合ってくれないか?」と、キャシーに言った。
「えっ!?」
と、戸惑うキャシーは、ふとカラトの腕に触れる。
と、褐色の外国人男子はカラトを見て眉をひそめる。
「キミは確か一年の。キミは彼女にふさわしくない。消えろ」
カラトはむっとする。「それは彼女が決めることだ。キャシー、手にキスしていいか?」
「えっ!? う、うん……」
カラトは彼女の手を取る。
「やめろ! それ以上するな!」褐色の外国人男子は怒鳴る「不良が調子に乗りやがって! 表に出ろ! すけこまし!」
「良いよ」と、カラトは立ち上がる。
「カラト!」
「大丈夫だよ、キャシー。キミはここにいて?」
男子二人は屋上のがらがらの駐車場へ。
「言っておくが、私は勉強もスポーツも万能だ」と、褐色の外国人男子は言った「ルックスはハリウッドスター並み。そしてケンカが強い。彼女から手を引くなら今だぞ?」
ふいにカラトの顔が曇る。だが次の瞬間、彼はふっと笑い、「先輩、そんなんじゃモテないですよ?」
「ほざけ!」
「そこまでだ!」
と、横のほうから声。見ると、スーツ姿の若い男がいて、「カラト君に危害を加えることは許さない。立ち去れ」と、褐色の外国人男子に言った「学校に通報するぞ?」
「くっ……。分かりました」
と、褐色の外国人男子は言われた通りにした。
「意外だな」と、カラトは男に言う「暴力を止めるなんて」
「そうかな? それより今日はいなかったな? 無意味に思えるだろうけど頼むよ」
「うん」
カラトは席に戻ると、「大丈夫!?」と、キャシーは心配する。
「大丈夫だよ」と、カラトは座る。と、彼はコーラを一口飲み、「ありがとう、ノリエさん」
「話は聞いたわ。あいつに勝ったようね?」と、ノリエは微笑しながら言い、立ち上がる「また会ってくれる?」
「良いよ」
「じゃメアド交換しよ?」
「携帯は持ってない」
「あらそう。ならばったりに期待するわ。じゃね」
と、ノリエは立ち去った。
「カラト、私にもまた会ってくれる……?」
「もちろんだよ、キャシー」
キャシーは微笑して、「海に行きたいな」
「海? なら今すぐ行こう」
「えっ? 今すぐは無理じゃない?」
「なんで? 夜の海は嫌?」
「夜の海? ――うん、夜の海は怖いな」
「私と一緒なら大丈夫だよ。まだ一緒にいたほうがいいんじゃない?」
「……うん。今から海に行きたい」
翌日の昼前、カラトは市役所の前にいる。
と、横から声をかけられた。見ると、ノリエ――赤い長袖ワンピース姿――がいて、「浮かない顔してるわね。何かあった?」
「キャシーの親に叱られたんだ。夜中まで彼女と遊んでいたから」
「それで落ち込んでるの? 叱られるのなんて慣れてるんじゃないの?」
カラトは苦笑する。「ちょっと違ってね。――学校は?」
「キミに会いに来たの。今からどこか行かない?」
「悪いけどちょっと用事が――」
「大丈夫。私が言ってあげるから」と、ノリエは遮った「“今日の分”」
「何!? ――どこまで知っているんだ?」
「その必要はない」
と、カラトの背後から声。振り返ると、若い男――黒い短髪。中背。緑色のジャケット、白いワイシャツ、黒いジーパン姿――がいて、「私はキミを攻略するからな、カラト」と、自信ありげに言った。
「キミは誰だ? 攻略?」
「私はハジメ。キミをどうにかしたい。そうじゃないと本当の夜は訪れない」
「どうにかしたい? どうやって?」
「人質を使う。昨日の黒人の少女だ。私に従わないと彼女が危ないぞ?」
カラトは眉をひそめる。「卑劣だな」
ハジメは肩をすくめる。「邪悪なキミに言われたくないよ。で、どうするんだ?」
カラトはため息をつく。「面白くないな。まるでヒーローだな、私は」
「ヒーローは私だ」
「いいえ、私よ」と、ノリエはカラトの隣に来てハジメに言った「人質はやめなさい」と、ピストル――オートマチック――をハジメに向ける「消えなさい」
「くっ……。分かったよ」
と、ハジメは立ち去った。
「なんでピストルなんて持っているんだ?」カラトは驚きながら聞く。
ノリエはピストルをしまう。「富豪の娘だから可能なのよ。キミの“拠り所”を知ることもね」
「何!?」カラトは驚愕する「なんで知ろうと?」
「場所を変えて話しましょう? 二人だけになれる場所知らない?」
カラトは考えて、「私の家は?」
「へぇ、いいわね」
ノリエはその居間で、「取引しない?」と、言った。
「取引?」
ノリエは微笑して、
「私はキミが好きなの。私と付き合いましょう? キミにはキャシーさんがいるけどいいわよね? キミはゲスなんだから。付き合ってくれたらキミの秘密は誰にも言わないであげるわ。さて、了承ならキスしましょう?」
呆然としているカラトは、ふいに笑って、
「キスってどこに?」
「まずはここ」と、ノリエは自分の唇を触った。
(本気なんだな……)
と、ドキドキしながら、カラトはそこにした。
「帰るわ」と、ノリエは言った「カラト君、家の電話番号を教えて?」
カラトは教えた。
「カラト君、隣の部屋には私のメイドが住んでいるわ。カモフラージュよ。私がキミのマンションに出入りしても不自然じゃないようにね。だから、今後私と過ごす時はそのメイドの部屋で過ごしましょう」
今日の予定は? と、彼女は付け加えた。
「本屋に行くくらいかな?」
「そう。じゃ私は帰るわ。見送りは結構よ」
ノリエが帰ると、カラトも外に出る。“サージョー”の本屋に行こうと誰もいない駅前通りを歩く。
「カラト」
背後から呼ばれた。振り返ると、ハジメがいて、「カラト、私はやはりキミを攻略する。昨日の黒人少女にキミの秘密を教える。知られたくなれば私の言う通りにしろ」
カラトは肩をすくめる。「怖い物知らずだな、キミは。――天塩中川駅に行け」
その瞬間、ハジメはぱっと消えた。
「アンモナイトでも楽しむんだな」と、カラトは歩き出す。
三十分ほど本屋に滞在したあと、カラトは家に戻る――部屋の前にはキャシー――学生服姿――がいた。
「カラト、やっと会えた」と、キャシーは笑顔で言った。
「どうしたの? 学校は?」
「キミに会いたくて抜け出してきた」
カラトは微笑して、「これ」と、本を差し出す「お詫びのプレゼント」
「えっ? どういうこと?」
「いや、昨日悪いことしちゃったから」
「私全然気にしてないよ?」
「じゃただのプレゼント。受け取って」
「うん、ありがとう」キャシーは微笑みながら受け取る。
「キャシー、お昼は? まだならどこかで食べないか?」
「うん、食べたい。――昨日言ってた美深の食堂は?」
「じゃそこにしよう。――本、私の部屋に置いていかない? 荷物になるから」
「うん、そうする」
二人は智恵文駅に着き、カナトは二人分の切符を買う。そうして彼は、壁のポスターを見ているキャシーに切符を渡す。
「ありがとう」
「何見てたの?」
「コンサートのポスターだよ」と、キャシーはポスターを指差す「音威子府であるんだって。ねぇ、行ってみない? ――カラト? どうしたの?」
「えっ?」
「なんか悲しい顔してる……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
その指摘は、翌朝、ノリエにもされる。一緒に居間――彼女のメイドの部屋の――のソファーに座ってテレビを観ている時に。
「別になんでもないよ」
ノリエは面白そうに笑って、「そうかしら? 何かあるなら言ってよ。言わないとキミの秘密をバラすわよ?」
カラトは苦笑して、前を見る。「この番組がちょっと」
「ワイドショーがどうかしたの?」
カラトはまた悲しげな顔をして、「出演者の職業が羨ましくて」
「えっ? キミ、歌手とかお笑い芸人とかになりたいの?」
「いや。彼らは他人から見て立派なものじゃないか。すごいよ。――私は違う……」
「はぁ? キミだってすごいじゃない? 秘密を持っているんだから」
「うん。でもやっぱり気になるな……」
「ふーん。――カラト」と、ノリエは笑う「私がいるじゃない? 私と付き合っているんだからいいでしょ?」
カラトは答えない。
「出て行って!」ノリエは怒鳴る「このクズが!」
「えっ?」
「消えなさい!」
「わ、分かったよ……」
カラトはマンションの前に出た。
「カラト」
「キャシー」
「……また悲しい顔してる。どうしたの?」キャシー――学生服姿――は心配そうに聞く。
「いや別に。――学校は?」
「サボった。どこか行くの?」
「えっ? うんまぁ」
「私も一緒に行っていい?」
「下川町にうどんを食べに行くんだ」と、カラトは嘘をつく「うどんは好き?」
「うん、好き」
「なら行こう」
夜、二人は智恵文駅でバスを降りた。
「カラト、お金は大丈夫?」街灯の光――オレンジ色――の下、バス停でキャシーが聞いた。
「お金? なんで?」
「だって二人分のお昼や夕飯代や温泉代、それにバス賃も払ってくれたから」
「ああ、全然問題ないよ。私はお金持ちの息子だからね」
「そうなの?」
「うん。だから気にしないで。お金には一生困らないからさ」
「そうなんだ。――聞かなければよかったな」と、キャシーはなんでもなさそうに言った。
「えっ?」
「カラト、私の夢はね、キミのお嫁さんになることなんだ」キャシーは恥ずかしそうに、嬉しそうに言った。
「えっ!?」
「えっ? どうしてそんなに驚くの? ……嫌だった……?」
「違うよ! その、私なんかのお嫁さんでいいの?」
キャシーは首をかしげる。
ふと彼女は微笑み、「うん。私はキミを愛しているから」
カラトはプレッシャーを感じる。
「カラトは? 私のことどう思っているの……?」
プレッシャーを感じる彼はふと表情が曇り、
「キャシー、私は働く気はない。お金があるから。そんな私のお嫁さんでもいいの?」
「良いよ」キャシーは即答した「なんでそんなこと聞いたの?」
彼女の不思議そうな表情を見て、カラトはふいに笑う。
彼の胸にはプレッシャーがある。
だが、悪いものとは感じない。
「キャシー、実は今日下川町に行く予定はなかったんだ。本当は森の中に行きたかったんだ」
「森?」
「うん。私のお気に入りの場所なんだ。キミと一緒に行きたいな」
「嬉しい。今から行こう?」
「今から? 暗いよ? 怖いんじゃない?」
「キミがいれば大丈夫。行こう?」
カラトは微笑み、彼女の手を取る。
「うん、行こう」
翌朝、学生服姿のカラトは市役所から出た。待っていたキャシー――やはり学生服――は、「終わったの?」
「うん。これで手出しはできなくなったよ」
「よかったね。――でもどうして私は狙われたの?」
カラトは苦笑して、「私に嫌がらせをするためだよ。“選択”をしないで“中途半端”にしているからね。――キャシー」
「何?」
「愛してる」
と、カラトはキスした。
〈了〉




