1224 second next〜他人の少女の指先から――〜
日本 北海道 名寄
令和七年 夏
朝
駅前に出ると、誰もいないそこで佇むことにした。――出ないか。よし。それにしても人いないな。良いことだ。札幌もそうあってほしいぜ。さて、これから何をしよう? 私はちょっと考える。“次”はどうせなら――思いつかない。せっかく良い街に来たのにな。まぁいい。やることはやった。――とりあえず歩くか。
一ヶ月後の朝、私はまた名寄を訪れた。――やはり出ないな、としばらく駅前にいて私は嬉しく思った。やはり人もない。さて、これからどうしよう?
一週間後の朝、私は名寄の駅前で思う。出ない、と。スッキリするぜ。
と、笑い声が聞こえた。横?
見ると、十代後半の外国人の少女がいて、「よく来るね、キミ」と、笑いながら私に言う「そんなにこの道北の田舎が好きなの?」と、私を指差す「もう住んじゃえば?」で、なにしに来たわけ? と少女は付け加えた。うざいな。私は無視した。
何で無視するの? 物足りない顔してるくせに、と少女は続けた。物足りない顔?
と、ふいに少女は指を鳴らした。「じゃ私が目的を与えてあげるよ」少女は誇らしげに言う「私がやりたいことの手助けをして」と、私を指差す「目障りなのよ。よく分からなくて」
私ははっとした。「ここにも出るのか?」私はがっかりしながら聞く。
「出る? 何が?」
違うか。「なんでもない」
「で? やるの?」
私は無視した。
と、少女は肩をすくめた。「ポコチンのつけ損ね」少女は呆れたように言う「キミは人生失敗しているわね。青年男性の時点で。可哀想」
「殺してやる」私はキレた「むしろ真逆なんだよ、私の人生は。現時点でな」
「なら年上の余裕を持ってよ」少女は動じずに言う「やるの? やらないの? ――私の『名前』? クリスオラよ。キミは?」
「ダテだ」私は落ち着いて、言う「やるよ、クリスオラさん」
「ありがとう」と、少女は微笑む「でもなんでさんづけ?」
「示したんだよ、私達の距離感」
「ふーん。――まぁいいわ」
「やりたいことって?」
「とりあえず都会の札幌に行きたいわ」
昼頃、私達は札幌の駅前に出る。
「ここも誰もいないじゃない」と、クリスオラは言う「札幌はゴーストタウンになったの?」と、不思議そうに呟く。
目の前に“紫色の椅子”が倒れている。私は憂鬱になる。
「あら、“椅子”が倒れているわ」と、クリスオラは言う「綺麗な“紫の椅子”。でもなんで“椅子”だけがあるの?」
「キミにも見えるのか!?」私は驚いて聞く「あの“椅子”が」
「見えるけど、それがどうかした? ――なるほど。ウザいから逃げたかったわけね」
「意味が分からないからな」私は肩をすくめる「――いや。『調べたり』しないよ。興味ない」きっぱり答えた「キミのやりたいことは?」話を変えた。
少女はふいに真剣な顔になる。
「私は復讐がしたい。だから相手を探しましょう」
私は苦笑した。
「何がおかしいのよ?」クリスオラは眉をひそめる「本気なのよ?」
「クリスオラさん、キミはずいぶんくだらない少女だな」私は真面目に言う。
「なんですって?」
「復讐なんてくだらないよ、クリスオラさん」
「意味あるわ」彼女は断言する「復讐できたらキミのように人生の成功者よ。キミは成功者なんでしょ? 分からないの?」
「分からないな」
「ボクは分かるよ」
私達は横を見る。若い男がいて、ふいに私を指差す。
「キミにはポシビリティー、可能性を感じることを」と、男は微笑む「ボクはレン。ダテ、一緒に来てもらおう。さもないと名寄でも“椅子”を見かけるようになるぞ」
「お前の仕業か! 不愉快だ! 殺す!」
「ダテ!」と、クリスオラが呼ぶ「これ」
私は少女を見る。日本刀?
と、彼女はそれをこちらに放った。私はキャッチする。
その瞬間、私は理解した。
私は刀を抜いて、男を斬る。血が出ない男はその瞬間、消えた。
「ためらわなかったわね?」と、クリスオラは怪訝そうに聞く「でも復讐は反対。キミは何者?」
「話すことは好きだが、そういうことは話したくないな」と、日本刀を鞘に納める「私と探してどうする? 私に何をしてほしい? 斬ってほしいのか?」
「キミにあげるわ。その刀、“基本刀”」
「ダテ」
呼ばれて私は横を見る。レンだ。「更新された」と、彼はクリスオラを指差す「キミの方が面白い。一緒に来てもらう」
面白い? こいつの方が? 私はむかつく。
「どうして」クリスオラは聞く。
「誰もいないこの光景、それはキミのおかげだ」
そうか、と私はクリスオラを見る。こいつの仕業なのか。だがどうやって?
「おかげ?」
レンはうなずく。「手間が省ける。キミをコピーさせてもらう」
「コピー?」
ふとレンは私を見る。「キミもいていいが、我々の邪魔はするな」
はぁ?
「ボクはどうなんだ?」
その声に、私達は横を見る。刀を腰に差した、青年男性がいた。
「キミもダテと同じようだ。我々の邪魔をしなければいい」
「邪魔をする」と、青年は刀を抜いた「迷惑なんだ」ふいに私を見る「ボクは彼女持ちだ。共感できるだろう? 迷惑な理由」
いつか殺してやる。「ああ。加勢するか?」
「結構」と、青年は駆け出す。そしてレンを斬った。血の出ない相手はやはり斬られた瞬間に消えた。
と、青年は刀をしまう。「ボクはガイ。同行していいかな?」と、青年はクリスオラに聞く「キミ達といたらボクの目的は果たせそうだ。ボクはレンが迷惑だ」
「良いわよ。私はクリスオラ。――なんて名前の刀?」
「“賭”だ」と、ガイは私を見る「よろしく」
「ああ」
「ボクもよろしくしたいな」
私達は横を見る。若い外国人男性が一人。その腰には刀が。
「ボクはドラゴン。キミ達の仲間になりたい」
鬱陶しいな。
「クリスオラさん、私はキミとの付き合いをやめる」と、私は言う「群れるのは好きじゃないんだ。私は人間嫌いでもある」
「我慢しなさい。私といる方が楽よ」と、クリスオラは笑う「レンの話聞いてなかったの?」ドラゴンを見る「私はクリスオラ。よろしく」
「ありがとう。――これは“水”だ」
「キミ達」横の方にはレンがいた「我々は無限に現れる。大人しく彼女を渡してほしい」
それはうざいな。
「断る」ガイがきっぱりと言う「当たり前だろ?」
「同意見」と、ドラゴン。
こいつらもうざいな。
「ダテは?」と、クリスオラが聞く「――なんで答えないの?」睨んでくる「もしかして私の邪魔をする気?」
はぁ? こいつ何言ってんだ? 私はいらつく。
「ダテ」と、レン「キミは用済みです」
はぁ?
「――クリスオラさん、ここは私に任せて二人と行け」と、私は言う「早く」
「分かったわ」
三人は駅の中へ。
「清々した」と、私はレンを指差す「あとはキミだけだ」
「我々の目的を話しましょう」
「黙れ」私は即答した「うざいんだよ。そもそも興味ない」
「我々は未来が分かる」
「うるさい」
「キミは、将来クリスオラの新たな復讐対象になります」
「そうなの?」
私は振り返る。
怖い目の少女は、「なら、今のうちに殺さないと」
「信じるのか?」と、私。
「どうせ殺人者になるのよ? いいじゃない?」
私は呆れ果てた。「二人を呼んでこないのか?」
「必要ないわ。他人任せにしたくないわ」
「ご立派だが死ねよ」と、私は刀を抜く「ホントバカなヤツだな、キミは」
「悪い?」と、少女は真剣な目で見つめてくる。
うっ……。私は圧倒された。
――本気だ。
こいつは本気で復讐を――
「どうしたの? 来なさいよ」
「くっ……」
私はためらう。
「それでいいですよ」と、レン「ボクにもそうしてほしいですね。――二人とも、駅をご覧ください。その気が失せるはずです、ダテ。私は未来が分かりますから」
と、駅が爆発した。
夜になって、ようやくクリスオラは落ち着いた。ホテル――札幌駅前にある――の部屋の椅子でうなだれる少女に私は、「復讐はできないな」と、言う。
「えっ?」と、少女は顔を上げる。
「自分のせいでガイとドラゴンが死んだからってそのざまじゃな。二人は他人だぞ?」
「違うわ」少女は力込めて答える「復讐できる。だって相手は私の――」
「うるさい」私は遮る「聞きたくない」
「キミはなんのために私といるの? 私の役に立ってよ!!」
急に叫ぶなよ。うざい……。
――だが、本当だ。なんのためにいる?
何かするべきだ。
だが何を――
「ベッドの刀、返してもらうわ」と、クリスオラ「もう必要ないでしょ?」
「――キミをどうにかするよ。復讐させないように」
「はぁ? どうしてそうなるのよ?」と、少女は眉をひそめる「迷惑よ」
「“次”はそういうようなことをしたいんだ」と、私は明言する「私はやりたいことをやる」
「ふっ、でもどうする気よ?」
うざいな、私。
ふと気づいた。
「やめた」と、私は肩をすくめる「キミは好きに生きろ」
「はぁ? 呆れるわ。――なら稚内への旅に付き合いなさい。景色を見て気分転換したいわ」
翌日の昼頃、私達を乗せた特急は最北の地、稚内に着いた。駅前に出ると、レンがいた。
「タイムリミットだ」レンは言う「個人的にもう遊ばせてはおけない。彼女をもらうぞ、ダテ」
「彼女? 私はダテのものじゃないわ」と、腰に刀を差したクリスオラは不満そうに言う。
ダテのものじゃない、か。私はふっと笑った。
“もの”ならな。
楽だ。
「ダテ、キミは不満なのか?」レンは言う「彼女を利用することを。キミは人間嫌いなんだろう?」
確かに。人は――
いや。
「ボクは注目されたい」私は答える「だから駄目だ。だから死ね」
と、その瞬間、私は日本刀を持っている。
そしてレンを斬る。
と、レンは“紫の椅子”になって倒れた。
ふざけるな!! わけが分からない!!
「どうしてキミは注目されたいの?」クリスオラは聞いてくる。
私は言葉に詰まる。言えない。
「どうしたの? 言えないようなことなの?」
言えないようなこと? 私は心中鼻で笑う。そんなこと――
「言いたくないならいいけど」
私ははっとした。
言いたくないんだ。こいつには。
なぜ――?
――いや、違う。
言いたくない。“それ”が正しいんだ。
そしてそれは彼女だけじゃなく――
「ダテ」クリスオラが呼ぶ「改めて聞くわ。キミは私の復讐に協力するの?」
私は答えられない。
と、クリスオラは苦笑した。「そこの“椅子”に座って考えたら?」と、“紫の椅子”を指差す。
えっ……
いや、座ろう。座ってやる。と、私は刀を消す。
「――どう?」しばらくしてクリスオラは聞いた。
「……私はうざいってことくらいしか分からない」
少女は大笑いした。私はむかついた。
自分自身にも。
“前”はこんな――
ふと、クリスオラはため息をついた。
「レンはキミにはポシビリティーだの可能性だの言ってたけど、私には普通の人間に見えるわ」と、少女は呆れたように言う。
はぁ? むかつくな!
――いや、それでいいじゃないか。
それが一番じゃないか。
私はクリスオラを見る。
ありがとう。
普通の人間と思ってくれて。
「どうしたの? 考えが出たの?」クリスオラは聞く。
普通の人間。なら私は――
「ついて行くよ」と、私は立ち上がる「クリスオラさん」
〈了〉




