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「エリフィア・アイザンセ様。我が国に優秀な魔法使いである、あなた様をお迎えできて、光栄でございます」
エリフィアが隣国の土地を踏んだ時、すでに王宮からの使い————使いといっても、第二王子であったが————が現れており、丁重に迎え入れられた。
「なぜ……?」
エリフィアのそんな言葉に、ここでは支障があると回答した王子の手によって、エリフィアは隣国の王宮に案内されることとなった。
「メルリー王女からあなたの身を保護するように、頼まれたのです」
「エリ。君はとても優秀だよ。こんな魔法、使えるなんて思えなかった」
「ありがとう。ダニエル。わたくしも、あなたにこんなに魔法の才があるとは思わなかったわ。おかげで作戦が早く進むわ」
次第に仲を深めたエリフィアと第二王子。そう笑った二人は、メルリーのいる国に視線を向けた。
「国王陛下! 隣国が突然攻めてきました!」
王女メルリーは、その言葉を聞いて安堵の息を吐いた。婚約者のマリオットは、王宮から逃げ出そうとして、国王並びに王族たちも王族専用通路を使って逃亡しようとした。魔術具が使えなくなってきているこの国に、隣国に勝てる力などないからだ。
「お父様。お母様。そして、王家の皆様」
にこりと笑ったメルリーは、皆を安心させるように言った。
「王家の者として、責任を持って城に残りましょう?」
そうメルリーが笑うと、全員が意思を無くしたように笑い、メルリーの言うことを聞いた。
「……本当に、エリの言った通りだわ。わたくしには魅了の力がある。……本当の意味で友人になれたのは、魅了の効かないエリだけだったわね。わたくしがその友情を壊したのだけれど」
「メル!!」
焦げた臭いが漂う中、隣国の軍服を纏ったエリフィアが、メルリーに向かって駆ける。国を守る兵たちはとうに逃げ出し、王族だけとなったその場で、エリフィアに向かって、反逆者、と声をあげる王族たちを一瞥したメルリーは艶やかに笑った。
「エリ。あなたなら、この国を滅ぼしてくれると思っていたわ。さぁ、わたくしと、王家の者たちを殺すのです」
「……間に合って、よかった」
メルリーを優しく抱きしめたエリフィアは、結界を展開し、王家の者たちから飛んでくる矢を防いだ。
「エリ……なぜ?」
「メルが意図もなく、あんなことするわけないもの」
「わたくし、あなたを裏切って、あなたの婚約者を奪ったのよ?」
「あの名ばかり公爵令息のナルシストなマリオット? あんなの、こちらから願い下げだったわ。あれが欲しいなんて、メルったら趣味が悪いのね」
「でも、わたくしは、王家の人間。過去の過ちの責任を取る立場なの」
「そう言っておきながら、この国の利を考えず、わたくしをこの国から逃したのでしょう? 国一番の魔法使いを生贄とすることで、動かされる魔術具。その理を壊そうとした。あなたはすごい王女だわ」
「……わたくし、あなたが生贄になるなんて許せなかったの。ただ、それだけ。すごい人間じゃないわ。利己的で、愚かで、あなたを傷つける方法でしかあなたを逃すことのできない、」
「親友として、全てを隣国に告発したあなたを尊敬するわ」
王家の人間は、その婚約者を含めて全員処刑されることとなった。敗戦国が叛意を持たぬよう。王女として名を失ったメルリーはエリフィアがその功績を持って侍女として買い取った。
「メル。早く早く」
「エリ! 危ないわ! 待ってちょうだい!」
心地のいい風が吹く中、太陽の香り漂う芝生の上を二人は駆ける。二人の友情は、隣国でも続くのだった。




