表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【異世界ラブコメ】勇者のわたしと魔王湊山くん  作者: 舞波風季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/32

第25話 黒い影

「そろそろ防護結界を解きますわよ」

「はい、お願いします」


 エルファの言葉に、声が震えないように気をつけて私は答えた。


 王城を守るための防護結界を構築するには、今ある防護結界を一旦解かなくてはならない。

 当然そのままでは魔物にやすやすと国境を越えられてしまう。

 なので、その間は私がひとりで魔王軍を抑えるつもりでいた。


(無謀にも程がある、ってもんよね――――



 この作戦を決めた時、闇妖精部隊から協力を申し出てくれる者がいた。

 先程の無効化作戦で比較的ダメージが少なかった者達だ。

「我らが魔物に弱体化魔法をかければ、勇者様が有利に戦えます」

「あなたは?」

「闇妖精部隊副隊長のザルウです」


 この申し出は正直ありがたかった。

 魔物を撃退する役目を一手に引き受けた私だったが、できることなら魔物を傷つけないで追い返したかった。

 だが、魔物たちはあの黒い靄の影響で正気を失っている。

 そんな魔物達を傷つけずに追い返すのはほぼ不可能だ。

 となれば傷つけるか、あるいは倒さなければならなくなる。


(だけど弱体化できれば)


 前に私が魔王にやっていたようにぶっ飛すのも簡単になる。

 要はぶん投げるのだ。投げる時に相手に多少身体強化をかけてやれば、落ちた時のダメージも少なくてすむだろう。


(そこそこ痛いとは思うけど)


 ザルウで試したみたらうまくいった。自分に身体強化をかけるときの応用だ。

 相手に手を触れて、自身にかけた身体強化の魔力を流してやるのだ。


「凄い!強くなったのが自分でも分かります」

「どれ」

 嬉しそうにしているザルウの頭に、私は手刀を入れた。

「ぐっ……そこそこ痛いですね」

 頭を擦りながらザルウがボヤいた。


「それはよかったわ」

「よかった?」

「うん、今の手刀ね、結構力入れたから」

「え……」

 真っ青になるザルウ。

「ちょっとした岩なら割れるくらい」

「そういうことは先に言ってくださいよーー」

 半泣きで言うザルウ。


「我ら騎士隊も援護しますぞ!」

「お供させてください、ミリア様!」

 騎士隊長ギールと副隊長クリスが申し出てくれた。


「危険な任務になるかもしれないわよ」

 私が心配して言うと、

「私達はそのための騎士隊です!」

「危険は覚悟の上ですわ!」

 ギールとクリスはそう言ってくれた。


(上手くいくよね――――



 私の隣で、エルファが胸の前で両手を握り目を閉じた。


 そして顔を上げながら両腕を空に向かって差し上げた。


 薄緑色の防護結界が薄れていく。


「解けましたわ!」

 エルファの声が響く。


「ザルウ、先行して弱体化をお願い!」

「了解!」

 先頭を切って国境の川を越えるザルウに闇妖精部隊が続く。

 国境の橋は極力使わないようにした。幅二十メートル程ある大きな橋だが、戦闘中は何があるか分からないからだ。


「ギール、クリス、弱体化した魔物をお願い!」

「「はい!」」

 騎士隊には身を守る場合を除いて武器の使用は最低限にするように言ってある。

 騎士の中には勇者ほどではないが、魔力を使った身体強化ができる者もいる。

 そういう者たちが弱体化した魔物を遠くに投げ飛ばすのだ。


 クリス達女性騎士は、剣技は素晴らしい。だが筋力仕事は男性騎士に任せたほうが効率が良い。

 なので、クリスたちには倒れた魔物の手足を縛る作業をやらせた。

「私達も戦えます」

 クリスは明らかに不満だったが、

「双方の犠牲をできるだけ少なくしたいの」

 と言って何とか説得した。


 私も騎士隊と共に国境を越えた。

 既に国境付近にいた魔物は弱体化されていた。


「どりゃぁああああーーーー!」

「しゃぁああああーーーー!」


 男性騎士隊員達が威勢のいい掛け声で、魔物をぶん投げていた。

 騎士隊には体格が大きい隊員もいて、そういう者は格技も優れているようだ。

 柔道の背負投げの要領で相手を斜め上に投げ飛ばす者が多い。

 中にはプロレス技のように相手の足を両脇に挟んでぐるぐる回し、遠心力を利用して投げ飛ばしている者もいる。


「私達も負けてられないわ!」

 男性隊員の働きを見てクリスは魔物を縛る作業を止めた。

「でも、クリス」

 私はもしものことを考えてクリス達女性隊員のそばにいた。


「女子騎士隊の実力を見せて差し上げますわ、サホ!」

「はっ!」

 クリスの呼びかけに、他の女子隊員より一回り大きい女子隊員が進み出た。

「あなたの実力を見せてあげなさい!」

「分かりました!」


 サホは敬礼すると倒れている魔物に駆け寄った。そして両足を抱えて軽々と持ち上げると、ブンブンと振り回し、


「とりゃぁあああーーーー!」


 という掛け声と共に魔物を(はる)彼方(かなた)にぶん投げた。


「すごっ!」

「どうです!」

 驚く私にドヤ顔のクリス。

「サホは男性隊員も軽々と投げ飛ばしますから!」

 得意そうに言うクリスの笑顔を見て、戦場であるにも関わらず気持ちが(なご)んだ。


(いい調子みたいね)


 だが、この作戦はあくまでも王城に防護結界を張るまでの時間稼ぎだ。

 深入りは禁物である。


(そろそろかな……)


 と思っていたところに闇妖精部隊が戻ってきた。

「悪魔卿には出会わなかったわね?」

「はい」

 ザルウには悪魔教に出会わずにすむように、深入りはしないことと言ってあった。


 やがて、目に付く魔物を投げ飛ばし終わった騎士隊員も戻ってきた。


「そろそろ撤退しましょう」

「「「はい!」」」


 各部隊が国境を越えて王国側へと下がっていく。

 私はその場で遠くに見える魔王軍を待ち構えた。


「ミリア様……」

 クリスが私の腕にそっと触りながら言った。

「あなたも戻るのよ、クリス」

「でも、でも……」

 私にすがりつくクリス。


「クリス、勇者様にご迷惑だろ」

 いつになく真剣な様子でギールが妹に言った。

「兄様は黙ってて!」

 クリスは涙声になっている。


「大丈夫よ、クリス。私も戦うつもりはないから。念の為よ」

「そうですよクリスさん、我々は戻りましょう」

 闇妖精部隊副隊長ザルウが言った。


「皆の撤退が済んで、王城に防護結界が張れたら私も戻るから、ね?」

「……はい」


「ザルウだけは国境で待機してもらえる?」

 私はザルウに言った。

「はい!」

「エルファ様から知らせがあったら私に教えて」

「了解しました!」


 今回は王城を大きく囲むように防護結界を張らなければならない。

 王城周辺の住民も王城に避難している。

 住民の避難誘導や臨時避難所、救護所の運営はグルヌの妻ナアシュが指揮監督をしている。


(あとは私次第ってことよね)


 王城には、それ自体に防御魔法がかけられているらしい。

 宮廷魔術師オローギルが話してくれた。

 そこに重ねて防護結界を張れば防御力はより強力となる。

 相手が魔王だとはいえ、そうそう破られるものではないだろう。


 今のところ国境の向こう側に動きはない。魔物が攻めてくる様子は無さそうだ。

 この分なら問題なく王城に防護結界を張れそうだ。


(心配のしすぎだったかな)

 

 そんな事を思いながら見ていると、魔王国側に漂う黒い(もや)の奥に黒い人影が見えた。


(湊山くん……?)


 そう思った直後、黒い人影が巨大化しながら一気に迫ってきた。


(……!)


 私はその場で動けず、背筋に凍りつくような恐怖が私を襲った。


 だが一瞬後には、元のように黒い人影は靄の中をゆっくりとこちらに向かって歩いていた。


(なんだったの、今のは?)


 気がつくと足が震えていた。


 後ろから駆けてくる足音が聞こえた。

「勇者様!防護結界設置終わりました!」

 ザルウがそう言って私の横に来た。


「……あ、うん、分かったわ」

 黒い影の恐怖の余韻が残る頭を切り替えて私は答えた。


(あの黒い影はやっぱり湊山くんなのかな……)


 ザルウと共に王城に向かって走っている間も、黒い人影の姿が頭から消えなかった。


 走りながら左手で押さえている勇者の剣に意識が向かった。


『勇者ミリアよ、魔王を……』


 ふと浮かびかけた王様の言葉を、私は無理矢理振り払った。


(この剣を、勇者の剣を使わなきゃいけない時が来ませんように……!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ