表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【異世界ラブコメ】勇者のわたしと魔王湊山くん  作者: 舞波風季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/32

第2話 記念撮影とケーキ

「あーー退屈だわーー」


 数日前、私は王様の命で魔王をぶっ飛ばした。

 それ以来、私は王宮の一室をあてがわれ、特にやることもないので部屋で剣の素振りをしている。

 別にやれと言われたわけではないが、気がつくと勇者の剣を手にして素振りをしているのだ。


(これも勇者の特性ってことなのかな)


 勇者の剣は重すぎず軽すぎず、私が気持ちよく振れる重さだ。


(この剣を使う時なんて来るのかなぁ)


 この前は剣ではなく拳で魔王をぶっ飛ばした。


「それにしても私が勇者なんてねぇ……」

 私は声に出してつぶやいた。


 天寿を全うした私、桜川(さくらがわ)美華(みはな)は、この世界に勇者として転生した。


 そしてモブキャラみたいな王に命じられて魔王討伐に向かうと、そこには前世の高校時代の同級生の湊山(みなとやま)空太郎(そらたろう)くんが魔王として待っていたというわけだ。



(そろそろ王様から魔王討伐のお達しがないかなぁ……暇だし)


 その気になれば、すぐにでも魔王城に行けるし、そうしてもいいと言えばいいのだが、

(私が来たくて来た、なんて思われたら(しゃく)よね)

 なんて思ってしまって、結局うだうだとしてしまうのだ。


 すると、ドアをノックする音がした。

「はぁい、どうぞーー」

 私の返事に、メイドが入って来た。

「王様がお呼びです」

「ホント!?」

 私は思わずパッと飛び上がるようにして答えてしまった。

 そんな私を見てメイドはニッコリと微笑んだ。


(ヤバ、喜んでると思われたかも)


「わ、わかったわ、すぐ行く!」

 そう言って部屋を出る時に思い出した。

(そういえば名前を聞いてなかったっけ)

「あなたの名前を教えてもらえる?」

「レギナと申します」

「かわいい!よろしくね、レギナ!」

「はい、ミリア様」


 ――――――――


「勇者ミリアよ、魔王を討伐するのだ」

 と、王様はお馴染みのセリフを片膝を付いている私に言った。

 この世界では私は勇者ミリアと呼ばれている。


(また、それか……ま、いいけど)

 そんなことを思いながら私が立ち上がると、

「勇者ミリア殿、これを」

 と、王様の横に立っていた魔法使いのじいさんが私に畳んだ紙片を差し出した。


「何、それ?」

「魔王から勇者ミリア殿(あて)の書状です」

「魔王からの?」

 書状を受け取って開いて見ると、


『桜川美華さん、魔王城でお待ちしています。湊山空太郎』


「うっ……!」

 思わず私は唸った。

(あいつ、本名で書いてくるなよ!)


「ではお願いいたします、勇者ミリア殿」

 慇懃に頭を下げる魔法使いじいさん。

「勇者ミリアよ、魔王を討伐するのだ」

 あいも変わらず同じセリフしか言わない王様に頭を下げて、私は玉座の間を後にした。



 ――――――――



「で、何のよう、魔王?」

 早速転移魔法陣を使って魔王城に来た私は、できるだけ上から目線で偉そうな態度を作って言った。


(わざわざ来てやったんだからね!来たくてきたわけじゃないんだからね!)

 と、自分に言い訳をしながら私は魔王湊山くんを睨みつけた。


「あ、あの、えっと……」

 魔王湊山くんは相変わらずおどおどして中々話が始まらない。

「用があるなら早く言いなさいよ!」

 私は「ダンッ!」と足を踏み鳴らして魔王湊山くんを怒鳴りつけた。


「は、はい、そ、そそれでは……!」

 と言って魔王湊山くんが横にいる黒いローブの不気味な男に目配せをした。

 ローブ男が頷いてサッと手を上げると、RPGゲームの序盤にでてきそうなガリガリで(いびつ)な肢体の魔物、多分ゴブリンが二匹、それぞれ椅子を持って来た。


 魔物は私の方へ向けて二脚の椅子を置くと、そそくさと立ち去った。


「あ、あの、さくらが……ひっ!」

 私を本名で呼ぼうとした魔王湊山くんを、私は思いっきり睨みつけた。

「私のことはミリアと呼んで!」

「は、はい、ミリアさん……」

「敵にさん付けは変じゃない?」

「あ、そ、そうですね、勇者ミリア」


「はぁ……で、何?」

 ため息混じりに私が聞くと、

「えっと、その椅子に掛けてもらえますか?」

「なんで?」

「えっと……記念に、と思って」

「記念?ま、いいわ」


 そう言って私は二脚並んだ椅子の片方に座った。

 魔王湊山くんも玉座から降りてきて、もう一つの椅子に座った。

「記念て……」

 と、私が聞こうとしたら、魔物たちが何やら板のようなものを持って現れた。


 魔物たちは板を私と魔王湊山くんの前に立てて固定した。

(顔から下を隠してどうするのよ?)

 なんて思っていると、いつの間にか黒ローブ男が私と魔王湊山くんの数メートル前に立って、何やらブツブツ言い出した。


「何が始まるの?」

「あの、前を向いてくだ……ぐえっ!」

 私は魔王湊山くんに最後まで言わせずに彼の胸ぐらを掴んだ。

「一体何をするつもり?」

「うぐぐ……さくらが、勇者ミリアに危害を加えるようなことはしないので、どうか……」


 魔王は勇者に危害を加えてなんぼだろ、などとツッコミを入れてやろうかとも思ったが、

「ふん、しょうがないわね」

 と言って私は椅子に座り直して、ブツブツ言いながら手を動かしている黒ローブ男の方を見た。


 やがて黒ローブ男の前の空中に四角い紙のようなものが浮かび上がってきた。

「魔王様、できました」

 黒ローブ男は見た目通りの地の底から響いてくるような低い声で言うと、目の前に浮いている紙のようなものを手にして、魔王湊山くんに手渡した。


「おお!」

 それを見た魔王湊山くんはいかにも嬉しそうに声を上げた。

「なんなの、それ?」

 私が隣を覗き込むようにして聞くと、

「これです!」

 と、なんとも嬉しそうに魔王湊山くんは私にそれを見せた。


「な、なに……これっ?」

 私はふつふつと湧き上がってくる怒りをグッと(こら)えて魔王湊山くんに聞いた。

 それは写真、のようなもの、だった。

「お雛様の姿で記念撮影すれば、勇者ミリアに喜んでもらえると思って」

 魔王湊山くんは私の怒りに気づいてないのか、妙にいい笑顔で言った。


 先ほど私たちの前に置かれた板は、お雛様とお内裏様の姿が描かれた張りぼてだったようだ。

 その頭から上が無い張りぼてから私と魔王湊山くんが顔を出しているという、なんとも情けない姿を、何やらよく分からない魔法のようなもので写真に写されてしまったのだ。


「なんで、先に一言(ひとこと)言わないのよ!」

「え……?あの、お雛様なら、女の子はみんな、よ、喜んでくれると、思って……」

 ようやく自分がやらかしてしまったことに気づいて、どんどん声が小さくなる魔王湊山くん。


「こんな……」

「え……?」

「こんな物で喜ぶわけないだろぉおおーーーー!」


 ドゴォオオオオーーーーン!


「がはぁああああーーーー!」


 私はお雛様の張りぼてもろとも魔王湊山くんを渾身の一撃でぶっ飛ばした。

 魔王の間の壁をぶち破って飛んでいく魔王湊山くんを見て、

「ふん」

 と言って帰ろうとした私に魔王湊山くんの声が聞こえてきた。


「ひな祭りケーキは食べていってぇーー……」


(ひな祭りケーキ!)


 その魔法の言葉は私の、勇者ミリアの毅然(きぜん)たる歩みをも止めた。


「こちらに」

 と黒ローブ男が指し示す方には、様々な料理が並んだテーブルがあった。

 テーブル中央にはピンク色を基調にしたひし形の、お雛様とお内裏様がのっているケーキがあった。


(きゃああああーーーー♡)


 私は黄色い声が出そうになるのを、勇者の威厳の全てをもって抑え込んだ。


「お好きなだけ召し上がっていってください」

 黒ローブ男の隣にいるコック姿のオークがにこやかに言った。

 他にも割烹着姿のゴブリンやガーゴイルがニコニコしている。


(魔王城も悪くないわね……)

 何ていうことが私の頭をよぎった。


 だが、今は何よりケーキ、そして料理だ!


 私は腹がはち切れるかと思うくらいに食べて、食べきれない分はお土産にもらっていった。


(湊山くんは戻って来なかったな……)


 ちょっとくらいはサービスで挨拶くらいしてあげてもよかったかな、なんて思ったのだが、


(まあ、そのうちまた討伐に来ればいっか)


 と気を取り直して、たくさんのお土産を手に私は王城へと帰ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ