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【異世界ラブコメ】勇者のわたしと魔王湊山くん  作者: 舞波風季


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第19話 悪い知らせ

 魔王湊山くんとの魔力制御訓練を始めて一週間ほどが経った。

 少しずつではあるが、魔王湊山くんも私との接触にも慣れてきたようだ。


 私が手を握ったり、体を寄せてくっついたりすると、顔を赤くしたりオロオロしたりはするのは変わらない。

 たが、魔力が膨張することはほとんど無くなってきた。


(そろそろ新しい手を考えようかしら)


 などと私は意地の悪いことを考えていた。すると、騎士隊長ギールが相談したいことがあるとやってきた。


「我が王国にも闘技場を作ろうと思うのです」

 と、私の部屋に入ってくるなりギールが話し始めた。

 この前の武闘競技で騎士隊の隊員達に火がついたらしい。


「なので、ミリア様にも色々と相談に乗ってもらいたいのです」

「私の意見なんて参考になるの?」

「勿論です、あなたは勇者ですから!」


(そんなもんなのかな?)


 などと思ったがギールの熱心さにほだされて私は了解した。


(湊山くんの訓練はしばらくお休みかな)



 闘技場といっても観客席に囲まれた本格的なものを造るには相当な時間がかかる。

 なので、とりあえずは適度に広さがある平地を探し、岩や木々などを除く作業から始まった。


(ますます私いらなくね?)


 整地作業に(いそ)しむ作業員の方々を見ていると、ただぼうっと見ているだけなのが申し訳なくなる。


 だが、ギールに言わせれば、

「ミリア様が見ていてくれると、皆の気合の入り方が違うんですよ!」

 ということらしい。


 その上、作業の合間合間に私の所に進捗(しんちょく)状況を報告に来るのだ。


「大きな岩を三つ取り除きました!」

「闘技場予定地中央にあった巨木を移植しました!」

「闘技場用の川砂を運んでまいりました!」

 などなど、別にいちいち私に報告するまでもないだろうということまで知らせに来てくれる。


「そう、ご苦労さま」

 と、そのたびに私は笑顔で答えてあげる。

 それで皆にやる気が出て作業が(はかど)るなら、勇者としても協力しなければという気持ちになる。


(私も何か手伝おうかな)


 やはり見ているだけで何もしないというのは気が引ける。

 今は闘技場に砂を撒き終わって、石のローラーで整地をしているところだ。

 あれなら私でも手伝えるだろう。


「ねえ、それ、私にやらせてもらえる?」

 私は近くでローラーを引いていた女性に声をかけた。

 作業には騎士隊副隊長のクリスを始めとする女性の騎士隊員も加わっていた。

「え、でも……」

 突然の申し出に女性隊員も戸惑ってしまっているようだ。


「私も何か手伝いたいの、ね?」

 そう言いながら私はローラーのバーに手をかけた。

 すると、

「ミリア様!」

 と、叫びながらクリスが駆け寄ってきた。


「いけません、ミリア様がそのようなことをなさっては!」

「いいのよ、ていうかやらせてほしいの。ね、お願い」

 そう言いながら私はクリスの手にそっと手をのせた。


(魔王には効いたけど……)


「はっ……!」

 息をのんだクリスの顔が真っ赤になった。

「ミリア様がそこまで(おっしゃ)るなら♡」


(よし、効いた!)


 これもきっと勇者の能力のひとつなのだろう、多分。

 私はローラーのバーを掴んで軽く引いてみた。


(え、軽っ!)


「重くはないですか、ミリア様……?」

 クリスが心配そうに聞いてきた。

「全然大丈夫よ」

 強がりでも何でもない。片腕でどころか指一本でも引けそうだった。


(勇者の凄さってこういうところなのね)


 私は足取りも軽く闘技場をローラーを引いて回った。

 そして私が引くところを見ている女性隊員たちに笑顔で手を振った。

 全然重くもないし大変でもないのだ、ということを見せるために。


 すると、

「「「「きゃぁあああーーーー♡」」」」

 と女性隊員たちが黄色い声を上げた。


(え、これも勇者の能力のおかげ?)


「ローラーを引くミリア様のなんて麗しいことでしょう!」

「麗しの勇者様!」

「もう私達、心を鷲掴みにされてしまいましたわ!」


(うわ、なんだか思ってたのと違う状況に……)


 そんなことを考えているうちにもどんどんと女性隊員達が集まってきた。


(これはさっさと終わらせたほうがよさそうね)


 私は魔力で身体強化をかけ一気にスピードを上げた。

 そして、瞬く間に闘技場を一廻りして整地を終えた。


「ふう……」

 疲れたわけではなかったが、小さなため息が私の口から出た。


「「「「ミリア様ーーーー♡」」」」

 女性隊員達が駆け寄ってきて私に抱きついてきた。

「ちょっ……」

 私が女性隊員達にもみくちゃにされていると、

「あなた達、ミリア様から離れなさい!」

 クリスか群がる女性隊員達を引っ()がした。


「ありがとう、クリス……て」

「とっても素敵でしたわ、ミリア様♡」

 今度はクリスが私に抱きついて頬をスリスリしてきた。


「えっと、クリス……?」

 私が、なんと言えばいいのか分からないでいると、

「ずるいですわ、副隊長!」

「そうですわ、ミリア様を独り占めなんて!」

 と、引っ剥がされた女性隊員達がまたもや私とクリスを取り囲んだ。


「ちょっとあなた達、ミリア様が困ってらっしゃるでしょ!」

「副隊長こそ!」

「そうですわ!」

「「「「わーわーぎゃーぎゃー!」」」」


 そんなこんなで大騒ぎになったが、とりあえずはその日の作業はなんとか終わった。



 その後も整備を進めつつ、合間に試験的に武闘訓練をやったりした。

 こうして一週間くらいの間、私は魔王湊山くんに会うことなく過ごした。


(そろそろ会いに行ってみようかな)


 などと思い始めたある日のこと、気になる知らせが入った。


「オローギル様がお話したいことがあるとのことです」

 メイドのレギナが知らせに来た。

「オローギル?誰それ?」

「宮廷魔術師のオローギル様です」

「ああ、魔法使いじいさんね!」


(結構偉そうな名前なのね、あのじいさん)


 などと思いながら、レギナに連れて行かれたのは玉座の間ではなかった。

 中央に四角い大きなテーブルが置かれた会議室のようなところだ。


 部屋に入ると、既に王国の主要な者達が集まっていた。

 宮廷魔術師オローギルを始め、妖精女王エルファ、闇の女帝トーラ、トーラの兄グルヌ、騎士隊長ギール、そして騎士隊副隊長クリスがそれぞれ席についている。


(随分と物々(ものもの)しいわね)


「ミリア殿、どうぞこちらへ」

 オローギルがテーブルの中央の席を指し示した。

「何か大変なことでもあったの?」

 私は腰掛けるとすぐにオローギルに聞いた。


「そうなのです」

 深刻な表情のオローギル。

「玉座の間ではないのね」

「はい、まずは皆で情報を共有してからがよろしいかと」

「まあ、そのへんは私が口を出すことではないけれど」

 そう言いながら他の者たちを見ると、皆の深刻な表情で私を見ている。


「実は魔王国から書状が届きまして」

「書状?」

「はい、つい先ほど使い魔を送ってよこしたのです」

 そう言ってオローギルは目の前に畳んで置いてある書状を、テーブル越しに私へと差し出した。


「魔王から?」

 私は書状に手を伸ばしながら言った。

「いえ、魔王側近の宰相ドーガと悪魔卿アスウスの連名です」

「え……?」


(あの人たちが私になんの用?)


 (いぶか)しく思いながら私は書状を開いた。そこには確かにドーガとアスウスの名が書かれていた。

 そして書状にはこう書かれていた。



 ――勇者ミリア殿


 魔王様に異変が起きています。

 勇者ミリア殿が来られなくなって以降、魔王様は徐々に口数が減っておられました。

 そして昨日からは一切お言葉を発せられなくなりました。

 魔王様の異変は魔王国の危機を意味します。

 魔王国の危機は王国の危機にも繋がる重大なことと考えます。

 どうかすぐにでも魔王様にお会いいただくようお願い致します。

 魔王国には、いえ、魔王様には勇者ミリア殿の助けが必要なのです。


 魔王国宰相ドーガ

 魔王国悪魔卿アスウス――


(湊山くんが……)


 この前の武闘競技の時のことを思い出して、背筋にじわりと寒気が走った。

 すぐにでも湊山くんの様子を見に行きたかった。

 だが、ことは王国の重大事でもある。

 私は一呼吸(ひとこきゅう)入れて気持ちを落ち着かせた。


「もう中身は分かってるのよね?」

 私は皆を見回して言った。

 皆が頷く。

「で、率直なところどう思う?」

 私はオローギルに聞いた。


 私の問いにオローギルは困惑を隠せない顔で私を見ている。

 そして言葉を選ぶように話し始めた。

「正直に申せば、私共は今の魔王その人に対しては、それほどの脅威は感じておりません」

 オローギルの言葉に他のものも控えめに頷いている。

「ですが、魔王である以上、いつ我が王国に対して牙を向くか分かりません」

 他の者たちを見てもオローギルの意見に賛同しているようだ。


(やっぱりそう考えちゃうよね)


 湊山くんの前世を知っている私と王国の人たちとは根本的に違うのだ。

 かと言って、すぐにでも魔王国と事を構えようなどとは考えてはいないだろう。

 むしろ、事を構えないですむように私という勇者がいるのだ。


「魔王国の危機が我が王国の危機、というところがいまひとつわからないんだが」

 トーラの兄グルヌが疑問を呈した。

「魔王が乱心すれば王国に全面戦争を仕掛けてくるかもしれないってことだろ?ちょっと考えれば分かるじゃないか」

「あ、そうか」

 トーラに言われてバツが悪そうなグルヌ。


「やはり、魔王に異変など起こらないに越したことはありませんわね」

「我々も魔王国の者たちと戦争などしたくないです」

「ええ、せっかくいい関係になってきたんですもの」

 エルファとギール、クリスも言葉を継いだ。


「分かったわ。そうしたらまずは私が魔王の様子を見てくる」

 私は改めて皆を見て言った。


(うん、大丈夫。湊山くんは私に会えばすぐ元気になるから)


 心の片隅にほんの少しだけ覗いていた不安な気持ちを押しやって、私は魔王城へと向かった。


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