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【異世界ラブコメ】勇者のわたしと魔王湊山くん  作者: 舞波風季


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第18話 訓練の成果

 訓練を始めて三日目になると魔王湊山くんも慣れてきたようだ。

 私が手を触れても魔力の膨張も僅かになってきた。


「よくなってきたじゃない」

 私は魔王湊山くんの手に自分の手を重ねたままで言った。

「は、はい、なんとか……」

 魔王湊山くんは顔を赤くしながら答えた。

「まだ顔は赤いけどねぇ」

 私は魔王湊山くんの顔を覗き込みながら言った。


「そ、それは……」

 私の冷やかしに動揺した魔王湊山くんの魔力が膨張し始める。

「ほら、抑えて」

 私はポンポンと彼の手を叩いて言った。

「はい……!」


 魔力はかなり制御できるようになったとはいえ、完全にとなるとまだまだのようだ。

 なので「訓練」と称して、つい私もいたずら心が出てきてしまう。


(反応が面白いんだよねぇ)


 そんなふうに訓練をしていると、

「魔王様!」

 と呼ぶ女性の声がした。

 見ると悪魔卿の妹、サキュバスのメフィーラが駆け寄ってきた。


「今日も勇者ミリアとデートですか!?」

 魔王湊山くんを睨みつけながらメフィーラが言った。

「え、い、いやこれはデートでは……」

 慌てて弁明する魔王湊山くん。

「こ、これは、訓練なんだよ」

「それのどこが訓練なんですか!」

 私と魔王湊山くんは大きな岩に座って手を重ね合わせている。


(まあ、これ見たらデートしてるって言われても仕方ないよね)


「いや、これは勇者ミリアに手を触れてもらって……」

「手を触れて!やっぱり!!」

「そ、そうじゃなくて、勇者ミリアに手を触れてもらうと嬉しくなって、俺のまりょ……」

「嬉しくなって!ひどいですわ、魔王様!私という許嫁(いいなずけ)がいるにもかかわらず!」

「俺の魔力が……て、許嫁?」


(なにそれ、初耳なんだけど)


 私は猜疑の目で魔王湊山くんを見た。

「ふうん、許嫁がいたんだ、魔王」

「いえ、許嫁なんていません、俺も始めて聞きました」

「まあ、いいけどね」

 私は魔王湊山くんの手に重ねていた手を離してそっぽを向いた。


「そうですわ、訓練なら勇者ミリアとではなく私と!」

 メフィーラが私と反対側に座って魔王湊山くんの腕にすがりついた。

「え、あの……」

 当然のごとくあたふたする魔王湊山くん。


(まあ、私じゃなくても他の女の子でも訓練になるだろうし)


 なんて思いながら様子を見ていると、魔王湊山くんは困り果ててはいるが、魔力は膨張していない。


「訓練の成果が出てるじゃない、魔王」

「え?」

「魔力が膨張してないし」

「うーーん、でも……」

 いまひとつ納得してない様子の魔王湊山くん。


「それでは、これからは訓練は私といたしましょう!」

 そう言って魔王湊山くんに抱きつくメフィーラ。

「あの……メフィーラさん」

 魔王湊山くんはメフィーラを振りほどこうとする。

 だが、両腕でがっしりと掴まれていて簡単には(ほど)けなさそうだ。


「でも、今は魔力は膨張してないから、抱きつかなくても……」

「それは、抱きつくだけでは足りない、ということですね!」

 メフィーラは顔を魔王湊山くんに近づけていった。

「ちょっ、メフィーラさん!」

 メフィーラの肩を押し返して離れようとする魔王湊山くん。


(でも、確かに魔力は膨張してないわね)


 それこそ唇が合わさるのではというほどまでメフィーラが顔を近づけているにも関わらず、魔王湊山くんの魔力に変化はない。


(私が同じことをやったらどうなるんだろ……)


 なんていうことが私の頭をよぎった。


 すると、

「いい加減にしなさい、メフィーラ」

 と、いつの間に来たのか悪魔卿アスウスが、メフィーラの襟首を掴んで彼女を魔王湊山くんから引き剥がした。

「お、お兄様、離してください!」

 アスウスに釣り上げられてジタバタしながらメフィーラが言った。


「我が妹がご迷惑をおかけして申し訳ありません、魔王様」

 ジタバタするメフィーラを脇に立たせると、アスウスは魔王湊山くんに深々と頭を下げた。


「い、いや大丈夫だよ、ありがとう」

 メフィーラから解放されてホッとした様子で魔王湊山くんは答えた。


「もう、お兄様ったら、私の邪魔をしないでください」

「何を言ってるんだ、メフィーラ」

「だって私は魔王様の許嫁なんですよ」

「そんなのは当てにならない言い伝えだよ」

「でも……」


「言い伝え?」

 魔王湊山くんも興味を惹かれたようだ。

「あ、いえ、全く根拠がない話ですので」

「いや、聞かせてくれないかい」

 という魔王湊山くんの言葉に

「それでは……」

 と、アスウスが話し始めた。


 アスウスによると、悪魔卿の血筋の女性がいずれ現れる魔王の妻となる、という言い伝えを信じている者がいるということなのだ。

 そのうちのひとりがメフィーラだということらしい。


「間違いありませんわ!」

 鼻息荒く言うメフィーラ。

「そんなのただの迷信だよ。そもそも魔王様が来られる前のことは誰も覚えていないんだから」

 困り果てた様子でアスウスがメフィーラをなだめている。

「そもそも魔王様はメフィーラのことをなんとも思っておられないのだから、訓練にはならないだろう」

「なんですってぇ!」


 魔王湊山くんは、アスウスとメフィーラの兄妹が揉めているのを困った顔で見ている。


(どれ……)


 またも私にいたずら心が湧き上がった。

 私は魔王湊山くんにそっと近づき、メフィーラがやったように彼の腕にすがりついてみた。


「……!」


 はっとしたように息を吸い込んで魔王湊山くんが私を見た。

 私が上目遣いでチラッと彼の目を見る。


(あざとい感じになればいいんだけど……)


 すると効果てきめん。


 ボンッ!!


 魔王湊山くんの顔が瞬時に真っ赤になった。

 と同時に彼の魔力が急激に膨れ上がる。


「うわぁあああーーーー!」

「きゃああああーーーー!」


 アスウスとメフィーラが魔王湊山くんの魔力で吹き飛ばされてしまった。


「もうーーまだまだじゃない」

 私はわざと呆れた言い方をした。

「ご、ごめんなさいっ!」

 必死に魔力を抑え込む魔王湊山くん。

「メフィーラさんの時は平気だったのにねぇ」

「そ、それは、その……」

「んん?なに?」


 こんな感じでしばらくの間、私は魔王湊山くんをからかって楽しんだ。


 その後もふっ飛ばされたメフィーラや他のサキュバスもやってきて、なんだかんだとちょっかいを出してきた。


 サキュバスは男性の夢に出てきて妖しいお色気で魅惑する夢魔だ。

 ということは当然のことながら、平凡この上ない私なんかより遥かに魅惑的な御姿をしている。


 そんなサキュバスたちに言い寄られて手を握られたり抱きつかれたりして、当然のことながら魔王湊山くんはあたふたドギマギしてしまっている。


 にも関わらず、私の時のように魔力が膨張することはなかった。


(やっぱり私が勇者だからなのかな)


 私がサキュバス達よりも魅惑的だから、などという幻想はこれっぽっちも抱いていない。

 どう考えてもそれはあり得ない。

 魔王湊山くんに聞いてみようかとも思ったが、


(もし、そっけない答えだったら……)


 なんてことが頭をよぎったので聞かないでおくことにした。


 こうして魔王湊山くんとの訓練、ちょっとデートしてるふうに見えなくもない、の日々が続いた。

 メフィーラを始めとするサキュバス達がちょっかいを出しに来ることもしょっちゅうだった。


 ある日などは話を聞いた闇の女帝トーラまでもやってきて、

「あたしの魅力に耐えられるかい、魔王?」

 とお得意の魅了技を披露した。

 魔王湊山くんは興味津々でトーラの踊りやら何やらを鑑賞するのだが、不思議と魔力が暴発したりすることはなかった。


 妖精女王エルファや妖精十二使徒までがやってきてすったもんだすることもあったが、それはそれで賑やかで面白かった。


 そして訓練の成果はというと、当初に比べれば随分と魔王湊山くんは魔力制御が巧みになった。

 だが、私が手を握ったりするとまだまだ魔力が膨張してしまう。


 なぜ私の時だけ、という思いが募るのだが、いざ聞くとなると、小っ恥ずかしい理由がでてきそうで聞けなかった。


(まあ、着実に進歩はしてるからよしとしよう!)


 何より、私と魔王湊山くんだけでなく、魔王国や王国の皆でワイワイガヤガヤ騒ぐ日々が楽しかった。


(このままこんな日がずっと続くといいな)


 などと思っているうちに、訓練を始めた当初の心配は、私の中からほとんど消えていた。


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