第24話 食料層?
肉、うまい。
豚肉、うまい。牛肉、めちゃうまい。
「オレ、牛肉、クウ」
「タクミ様が原始人化してるニャ。まあ確かに美味しいしニャ」
「いや、まあ冗談は抜きにして滅茶苦茶美味いな。味付けって家にあった塩コショウだけだろ」
「筋切りしたり火加減を調整したり、焼き方に工夫したりしたけど味付けは塩コショウだけニャ」
「なま言ってすみませんでした。ミケさんの料理美味しいです!」
「許すニャ」
がばっと頭を下げたタクミに、行儀悪く箸をフリフリしながらミケがその発言を許す。
ただ取り分け用の皿に最後に残っていた最後のシャドウブルの肉はミケの箸にかっさらわれており、顔をあげてそれを見つけたタクミの顔はみるみるうちに絶望へと変わった。
その情けない顔にミケは仕方ないなぁと微笑むと、その箸の先をタクミに向ける。
「はい、あーんニャ」
「えっ、あっ。いやっ」
「食べないなら、私が食べちゃう……」
「いえ、ありがたくいただきます」
ぱくりと食いつき、頬を赤くしていくタクミを眺めるミケの尻尾がゆらゆらと揺れる。
そしてごくりとタクミがそれを飲み込んだと同時に、ミケはその両手を合わせた。
「お粗末様でしたニャ」
「ごちそうさま。ミケのおかげで助かるよ」
「私もタクミ様に助けてもらっているからお互い様ニャ」
「あっ、洗い物ぐらいするから任せてくれ。その間にミケはダンジョンの確認を頼む。直近で必要になるだろう近場の配置はとりあえず済ませたから」
「わかったニャ」
食べ終えた食器を片付けようと腰を浮かせたミケを手で制し、タクミがテーブルに並んだ皿を持ってキッチンに運んでいく。
カチャカチャと鳴る食器の音にミケは自然と頬を緩ませながら、タクミに言われたとおりにタブレットを取り出して作成途中のダンジョンの確認を始めた。
「うーん、これは……」
ミケが料理をしている間にタクミによって改造されたダンジョンには、スライムとトントン以外にモンスターが配置されている。
それらをタップしてモンスターの詳細を確認していったミケは、すぐにある共通点に気づいた。
「食料系ドロップのモンスターばっかりニャ。コンセプト的には食料層ってところかニャ?」
「そうそう。まあ最初はドロップ率の高いモンスターを探していたんだが、そうすると自然とそうなっていったんだよ。ならいっそのこと、この階層はそういう階層にしてもいいかなって」
「ダンジョンに入って野菜とかを持ち帰る姿を想像するとちょっとおもしろいニャ」
ミケの脳裏に竹で組まれた野菜籠を背負い、そこにドロップアイテムの食料を詰め込んだ人々の姿が思い浮かぶ。
とてもダンジョン探索の結果とは思えない光景ではあるが……
「ここを探索すれば少なくとも食費を賄うことはできるニャ。トントンの肉も上質な豚肉くらいには美味しかったし、ドロップする他の肉や野菜系もそれに準じると考えればその物珍しさから買い手が現れる可能性はあるニャ」
「強くなってシャドウブルを倒せるくらいになったら、一流店がこぞって使い出すかもな。オレだってアイテムボックスの肉がなくなったら渋谷に行こうか迷うくらいだし。そうなったらある程度は稼げるはずだ」
シャドウブルの肉の美味さを知ってしまったタクミの言葉には、かなりの重みが感じられた。
これまで食べてきた牛肉の概念を覆すほどの美味さ。それを知ってしまったタクミは、もう食べ放題の焼肉で満足していた過去には戻れないことを悟っていた。
「それにダンジョン産の食料が一般にまで届くようになったら、人々がダンジョンを身近に感じるようになる。そうすれば自ずとダンジョンに興味を持つ人も増えるはずだ。いわばこのドロップ食材はダンジョンの尖兵な訳だな」
「問題は食品衛生法とかかニャ?」
「かもな。でも自分で食べる分には規制はないだろ? 食料がドロップするなんてことになれば配信者界隈が絶対にそれで動画を作るだろうし、それが広がっていけばどこかしらが動くだろうさ」
キュッと蛇口をひねる音が聞こえ、流れていた水音が止まる。
そしてタオルで手を拭きながら戻ってきたタクミはミケの隣に再び腰を下ろした。
「問題はドロップアイテムの持ち出し自体を規制された場合くらいか?」
「そうしたらダンジョン内に調理器具を持ち込んで料理するんじゃないかニャ? 電波が入らないからダンジョン内で直接配信はできないけど、録画すればいいしニャ」
「あー、そう考えると食料層ならダンジョン内で1週間サバイバルしてみました、みたいな企画もできるわけか。となると水は必要だよな」
「じゃあいくつか小さな泉を追加するニャ。ついでにそこをセーフゾーンにすればいいんじゃないかニャ?」
「いいねぇ」
ミケがタブレットを操作し、通路の行き止まりや小部屋などに泉を設置していく。
拡大して表示されたその場所には、これまで造られたレンガで囲まれた通路や部屋とは明らかに違う澄んだ泉が現れていた。
モンスターの襲撃を阻む白い光が泉を囲む植物たちを柔らかく照らすその光景は、どこか絵画を思わせる美しさをもっている。
「おお、なんかそれっぽい。どうせなら聖なる場所ってことでヤドリギでも生やすか?」
「うーん、さすがにヤドリギはリストに無いニャ。トレント系にそれっぽいのをつけてるのはいるけどこの光の中には配置できないニャ」
「そりゃ、残念。まあこのままでもなんか違うとは察せられるだろ。検証する奴が現れればいつか周知されるか」
まだまだダンジョンの後半部分については全く手がつけられていない。
だが食料層にするというコンセプトが決まったのだから、あとはそれ系のモンスターを徐々に強くなっていくように配置していくだけで問題はなかった。
それを理解した2人は顔を見合わせ頷きあう。
「となると残りは……」
「お待ちかねの宝箱ニャ」
そう言ってミケがモンスターが表示されていた場所をスライドさせ、その代わりに色々な種類の宝箱の一覧を表示させる。
タクミの目がキラキラとした輝きを放つ中、ミケはその中で1番上に表示されていた木の宝箱をタブルタップする。
装飾のない質素な作りではあるが、そのいかにも宝箱と言わんばかりの形状は、タクミの男の子の部分を刺激するのに十分すぎるほどの魅力を放っていた。
「いちおうこれがランダム宝箱で一番安い木の宝箱ニャ。設置にかかるDPは500DPだからそのくらいのアイテムが出てくるはずニャ」
「500DPっていうとレベル1のポーションがそれくらいだっけ?」
「そうニャ。いちおうレベル1ポーションは300DP、それを入れる空の宝箱が200DPだけどニャ」
「あれっ、これはなにが出てくるかは書かれてないんだな? ドロップアイテムみたいに確率でも書いてあるのかと思ったんだが」
宝箱に関する説明を目で追っていたタクミがそのことに気づく。
ミケも少し首を傾げながら、ピコピコと耳を動かして「うーん」とうなった。
「ランダムだから、とかかニャ?」
「まあ確かに出るものがあらかじめわかってたら面白くないか。ということでミケさん。宝箱をどの程度配置するかについて、実際に体験してみる必要があると思うんだが……」
「そうだニャ。開けてみたら、変なものしか入っていなくてダンジョンから足を遠ざけるなんてことになったらまずいニャ。検証は必要ニャ」
「ふっふっふ。わかってるな、ミケ」
「もちろんニャ。適度なガチャは人生の潤いニャ」
パンといい笑顔でハイタッチした2人は、同時に立ち上がると意気揚々とダンジョンに向かって歩いていく。
なんでダンジョンを造る側がそんなことを楽しんでいるんだよというツッコミをする者はここにはいなかった。
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