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第2話 猫耳の少女?

「ねえねえ、『先駆者』さん。あなたのお名前を教えてほしいんだニャ」

「先駆者って俺の……おぉおお、裸のまま四つん這いでやってくるんじゃねえ!」


 顔を上げた男の視界に映ったのは、裸の少女が猫のように四つん這いのまま近づいてくる姿。

 茶と黒と白が入り混じった特徴的な髪が体の一部を覆い隠しているため決定的な場所は見えていないが、色々とまずい光景に変わりはない。

 ここに第三者がいれば、通報待ったなし。情状酌量の余地もなく逮捕案件だろう。


 男は即座に自分の着ていたワイシャツを脱ぎ捨て、少女がいると思われるほうへ放り投げる。


「とりあえずそれを着てくれ」

「んっ、わかったニャ」


 顔を伏せる男の耳に、ワイシャツの生地がこすれる音が届く。

 普段であればなんとも思わないようなその音が、とてつもなくイケない音のように聞こえた男はぶんぶんと首を横に振って邪念を打ち払った。


(落ちつけ。あれは普通の存在じゃない。猫耳少女の姿をしているが、非常識な存在なんだ。あれっ、猫耳少女自体が非常識な存在じゃね?)


 混乱する頭で落ち着けるはずもなく、意味のない思考を男が繰り返す中、聞こえていた衣づれの音がピタリとやむ。


「着たニャ」

「本当に本当だよな」

「本当に本当ニャ」


 自信ありげなその声に男は意を決して頭をあげる。そしてちゃんと自分のワイシャツを着こんでいる少女の姿にほっとするのもつかの間、そのあまりの破壊力に意識を飛ばされかけた。


挿絵(By みてみん)


 身長140センチ程度と思われるその小柄な少女の体には、平均的な日本人男性よりやや高い180センチある男のワイシャツは明らかに大きすぎた。

 座った少女の全身を覆い隠すだぼだぼ具合。上2つ開けたワイシャツの隙間から除く肌色。そしてその小さな手をほとんど隠してしまっている袖口。

 エロゲなどでよく見るシチュエーションではあるが、現実で見るそれは破壊力が強すぎたのだ。


 少女は表情を固まらせる男の姿にこてり、と首を傾けると、何かに気づいたようにくんくんと首周りの臭いをかぎ……


「先駆者さんの匂い、いい匂いだニャ」


 にへらっと笑った少女の姿に、男は自分の中の何かが切れる音を確かに聞いた。

 ゆらり、と立ち上がった男は少女のほうへ足を一歩踏み出し、足裏に感じた小さな痛みに動きを止める。

 足をどかした男が目にしたのは、いつも自分がお守り代わりに首から提げていた、幼いころ遊んでいたゲームのマスコットキャラクターのキーホルダーだった。


 ソフト購入者の中から抽選で当選という狭き門を突破して得たそのキーホルダーは、男にとって幸運の証だった。

 緑の招き猫の瞳を見つめ、男は正気を取り戻す。


「とりあえず状況を説明してくれるか?」

「わかったニャ。うーん……」


 ごにょごにょと小さな声でなにかを呟く少女を改めて男が眺める。

 ピクピクと動く耳、そして揺れる尻尾は明らかに生き物特有の自然な動きをしており、機械仕掛けのコスプレではない。

 クリスタルからいきなり出てきた時点で超常の存在であるとわかってはいたものの、男はその認識を強くし覚悟を決める。


「まあ簡単に言うと、地球にダンジョンができたニャ。その数は999個。ダンジョンには危険なモンスターがいるけれど、地球上にはなかったような新たな素材や、特別な才能が得られるオーブなんかも出るニャ」

「えっとマジ? 漫画とか、小説とか、アニメとかみたいな感じなのか?」

「そうニャ。うまくいけば俺tueeeeができるニャ」


 ものすごくざっくりとした猫耳少女の説明だったが、その界隈にも造詣の深い男にとってはこの上なくわかりやすい説明でもあった。

 男がこの穴に入る前に空想した世界。それが現実で起こったことを猫耳少女は告げたのだ。


「でもなんでいきなりダンジョンなんか……」

「神の意思なんて誰にもわからないニャ。でも放置するとひどいことになるのは確かニャ。基本的にダンジョンは他のダンジョンを倒して勢力を拡大していくニャ。その途中に街があればどうなるかは、想像できるかニャ?」

「うわぁ、そっち系かよ」


 男のたしなんだ地球にダンジョンができる関係の本などは、突然現れたダンジョンを一般人が攻略していくといったようなものが大多数だ。

 その場合、ダンジョンは基本的にストーリーを盛り上げるための舞台の1つであり、なぜか主人公がいるときにのみイレギュラーが頻繁に起きたりはするものの、それ以上の役割は実際なかったりする。

 だがそうでない物語も存在する。その中でメインと言っても過言ではないその物語は……


「ダンマスもののダンジョンか。それ、かなりヤバくないか?」

「ヤバいニャ」

「少しは否定してくれよ」

「地球のピンチニャ」


 さらに追い打ちをかけてくる猫耳少女の言葉に耳をふさぎたくなりながらも、それは意味がないとわかっている男は思考を続ける。

 男の言う地上にダンジョンが現れた物語の中で、ダンジョンマスターが主人公となっているダンジョンはまずいのだ。

 なにせ前者ではただの舞台装置だったダンジョンが、何らかの意思を持って動くのだ。しかもそれが他のダンジョンを侵略するためとなればその被害は確実に地上で起きる。


「警察に連絡を……」

「今の話をしてもおかしい人としか思われないニャ」

「この現場を見せれば……」

「私はモルモットになんかなりたくないし、それに『先駆者』様は捕まりたい人なのかニャ?」

「そうだった」


 男が思いついた光明を、猫耳少女が即座に潰していく。

 いや、男ももちろんわかっている。警察だって善意で行動したのに誤認逮捕なんてことは万が一にも、にも……これまで見てきた数々のネットの情報たちにより、男の中から警察へ通報するという選択肢が消滅する。


 さらに言えば警察が逮捕しなかったとしても、SNSが発達した現代において社会的な抹殺はいつでも起きうるのだ。

 自宅前にパトカーが止まり、集まったご近所のやじ馬たちに猫耳少女と一緒にいる姿を見られれば何が起こるかは明白だ。


 その危険を男は冒せなかった。

 深刻そうな表情をする男に猫耳少女はとことこと近づいていき、その耳元でそっと囁く。


「どうせあと12時間後くらいには皆が知ることになるニャ。それにモンスターを地上に出せるようになるまでだいたい5年くらいかかるニャ。だから『先駆者』様が頑張る必要はないニャ」

「そう、なのか?」


 地獄で蜘蛛の糸を見つけたかのような表情で見上げてくる男に、少女は慈母のような微笑みを浮かべながらうなずいて返す。


「そうニャ。タクミ様が何もかも背負い込む必要はないニャ。それよりももっとやってほしいことがあるニャ」

「俺にやってほしいこと?」


 なにか違和感を覚えつつも聞き返した男、タクミに、少女が楽し気に笑い返す。そしてその顔を再びタクミの耳元に近づけた。


「タクミ様には、ここで射〇してほしいニャ」

「なっ!?」

「もちろん私がお手伝いさせてもらいますニャ。ちっちゃくてうまく出来ないかもしれないですけど、頑張ってご奉仕しますニャ。だから、いーっぱいビュビュっとしてほしいニャ」


 見た目に不相応な色気を感じさせる口調に、タクミの顔は瞬時に赤くなり、その鼓動はサンバのリズムを奏でているかのようにビートを刻み始める。

 とろっとした目つきをしながら甘い匂いを放つ猫耳少女の姿は、25年間守り続けてきたタクミの純潔な部分をたぎらせるには十分すぎる光景だった。

 しかし、手のひらに感じる緑の猫のキャラクターの感触が、タクミの最後の理性を細い糸でつなぎ留める。それをしては人として駄目だと。


「だ、だめだ。さすがにロリに手を出すのは……」

「合法ロリなんだけどニャー。じゃあ……タクミ君、お姉さんに後は全部任せてくれればいいニャ。安心して身を委ねるニャ。タクミ君は気持ちいいことだけ感じてくれればいいニャ」

「う、あっ」


 タクミに拒否された猫耳少女は光に包まれると、一瞬にしてその姿を変化させる。

 先ほどまでの幼い姿とは全く違う、どこか余裕を感じさせる大人の猫耳の女がそこにはいた。

 だぼだぼだったワイシャツは、双丘によってはちきれんばかりに押し広げられており、その深い谷間やむっちりとした太ももにタクミは目を奪われる。


 女はゆっくりと自分のワイシャツのボタンを1つ外し、抱きしめるようにしてその見事な胸の谷間にタクミの顔を挟み、優しく囁く。


「大丈夫ニャ。ここには私とタクミ君しかいないニャ。ちょっとタクミ君は夢の時間を過ごすだけニャ」

「夢、夢か。そう、かもな」

「うん。だからいっぱい、いーっぱいビュビュってしようニャ」


 両頬に当たる温かく柔らかな感触は、それが夢ではないとタクミに明確に告げていたが、人生初の感触に包まれ思考が止まったタクミにはもうどうしようもなかった。

 タクミの手から緑の猫の人形がポロリと落ちていく。


 猫耳の女の手がタクミの背中にはい、ゆっくりと下がっていく。

 そしてジーっという何かを開く音が部屋に響き、しばらくしてどこか粘り気のある音で部屋は満たされたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


エロじゃないです。これはダンジョンにとって必要な儀式なんです!


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

よろしければお願いいたします。

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ヨシ! エロじゃない、エロじゃないぞお!
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