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「あの子、本当に大丈夫かしら。何か粗相を」
「大丈夫さ」
書斎から出て行ったサラを思いながら、妻のエミリアは眉を八の字にさせて戸惑いを見せる。
そんな彼女を落ち着かせようと確かな声で「大丈夫」と伝える。色々心配な所はあるが、サラは本当に大丈夫だと思う。あの子な
らやっていける。
何故か確固たる自信がそこにはあった。
サラが三歳だった頃を思い出した。あの日は、彼女がホワイトタイガーに乗って私達の前に現れた日だ。
生まれた時から動物や自然が大好きでやんちゃな女の子だったが、
まさかホワイトタイガーに乗って帰って来るとは思っていなかった。しかも、一人で森に行くなとよく注意していた時期だった。
虎はこの国では最も高貴な生き物だとされている。
普通の虎ですら信頼関係を築くのは難しいと言われている。更にホワイトタイガーは虎の中でも稀少である。
そんな虎をたった三歳の女の子が手懐けたんだ。
虎が立派かどうかはその風格ですぐにわかる。たとえそれが赤子の虎であってもだ。
サラが連れて帰って来た虎は幼いながらに威厳があり気品に満ち溢れた非の打ち所がない虎だった。
ホワイトタイガーに乗った娘を見て、自分たちの手に負えない少
女だと悟った。
その日から、サラは毎日のように屋敷の裏にある森へしょっちゅう行くようになった。
最初は護衛を付けていたが、段々護衛が巻かれてサラについてい
けなくなるのだ。サラは監視されるのを酷く嫌ったが、親としては子供が危ない目に遭わないか常に心配であった。
だから、優秀な騎士にサラの後をバレずにつけさせるようにした。
騎士たちの話は耳を疑うようなものばかりだった。
動物とまるで会話をしているようだ。森の中を飛び回っている。
身体能力に優れた少女である。子供と言えども体力に限界がない。令嬢とは思えないような声ばかりが私の耳に届いた。
それを知って、エミリアは激怒していたが、私は娘がしたいことをさせたかった。
サラは靴を履くのが大嫌いな子だ。いつも裸足で屋敷の中を走り回っていても私は咎めはしなかった。
叱責するのはいつも侍女やエミリアの役目だった。
物心ついた時から剣に興味を示し始め、サラが習いたいというならば、騎士達と一緒に訓練場へと向かった。
彼女の成長は凄まじいものであった。
根性とやる気があり、常に向上心を持っていた。大人の騎士たちが驚くほどの精神力だった。
それが楽しくて、私もつい彼女を息子のように育ててしまった。エミリアはさらに令嬢としての振る舞いを身につけさせたいと思っていただけであって、剣術や体術を習うことは反対しなかった。
娘は破天荒という言葉がよく似合う少女だ。
そこらの令嬢とはわけが違う。あんなに肝の据わった令嬢を私は他に知らない。
サラからしてみれば、社交界での令嬢同士の虐めなんて虫がじゃれ合っているようにしか思えないだろう。