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「大丈夫、私強いから」
私が右手の親指をグッと出して両親の方に向ける。彼らは固まったまま私を見つめた。
そこはホッと安堵のため息をつくところなんだけどな……。
なんでそんな怪訝な表情を向けられているのだろう。虐められるかもしれない娘に向ける表情じゃない。
「だから心配なんだよ」
「え?」
「他のご令嬢たちが」
父は感情が荒ぶることなく冷静にそう言った。
……そっちかい。
いや、そうだと思ったけど、まさか本当に自分の娘よりも他の子たちを心配しているとは思わないじゃない。
他の令嬢たちに絶対に負けない自信はある。虐めなんて二度と出来ないぐらい恐怖心を与えることなんて朝飯前だ。
そして、私がそんな性格であることを一番身近で私を見てきた両親が最も理解しているはずだ。
「やられっぱなしは性に合わない」
「ああ、何も仕返しするなとは言っていない。ただ、やり過ぎにだけは気をつけてくれ」
「ういッ」
「はい、でしょ」
すぐさま母からの指摘が入る。
気合を入れて「うい」と答えたが、どうやら母のお気に召さなかったらしい。
「は〜い」
適当に返事をする。
母は呆れた様子で私を見つめる。私はそんな母を無視しながらこれからのことについて考えた。
もしかしたら、アーサー王子との婚約に嫉妬されて殺されかけることもあるかもしれないってこと?
世の女がイケメン第一王子狙っているのなら、私は邪魔者でしかない。
しかも今まで姿を現さなかったのだから、余計に悪い印象を持たれているはず。
わ〜〜、なんだかドロドロしてそう。ヘドロ系の人間関係は苦手なのに〜。
「人間界で生き残るって難し」
「頑張って適応してくれ」
私の独り言に父は励ましの言葉をかける。
「とりあえず、ちゃんと靴を履けるようになりましょう。裸足はやめなさい」
母が満面の笑みで圧をかけてくる。
私は素直に頷き、開放感のある足元を見つめた。
裸足ほど動きやすい格好はないのになぁ、と心の中で少し不満を漏らした。
あ!そういえば、私って社交界でどんな噂立てられているんだろう。
そこを抑えとかないと、パーティーの時でのアピールの仕方が変わってくる。
良い噂なんて流れるはずでないことは百も承知だけど。
けど、もし最悪な噂が流れていたとしたら、王子はそれを知っていて私と婚約しようなんて血迷ったのか。
よほどの好事家?
マーガレットは社交界デビューをもうすでに果たしているから彼女に聞こうかな……。
色々社交界での情報をあらかじめ入手していてた方が良い。
「では、失礼します」
「ああ。これからのこと、頼んだぞ」
父の力強い声に私は適当にウインクで答えておいた。こういう時は流すのが一番!
私は父の書斎を出ると、私はシャオを撫でながらマーガレットの部屋へと向かった。
小さい頃はよくシャオの背中に乗せてもらっていたけれど、今はもう私の体格的に乗れない。
そういえば、最初にシャオの背中に乗って両親の前に現れた時は面白かった。
父も母も最高のリアクションをとってくれた。父はひっくり返っていたし、母は失神しかけていた。
その後、こっぴどく怒られたけど、シャオが私に従うのを見て傍にいることを許してくれた。
もう十年以上前の話か〜〜。
昔の思い出に浸りながら、長い廊下を歩いた。