2
確かに、親のすねをかじって生きていく人生は私もまずいとは思う。
だからこそ、森で生きれる術を身につけている。
物心ついた時から、自然の中に足を踏み入れているのだから安心安全。森のことならお任せあれ。
このままこの屋敷から追い出されても生きていける力はあるにはある。
令嬢とは思えない少し野蛮な生き方になっちゃうけど、それもまた一興だ!
それにしても、どうして急に父は私を嫁がせたがっているんだろう。
孫の顔が見たい?老い先短いのかな……。
ラドン家の当主の葬式ってどれだけ壮大になるんだろう。隣国の王子まで来そう。
遺影の絵は私が描いてあげよっと。父も喜ぶだろう。
「サラ、今失礼なこと考えているだろ」
「いえ、全然」
「とりあえず、社交界に出ろ。そこでいい相手が見つかるかもしれない」
「何か隠されてる気がする〜」
私は直感的にそう言った。
勘だけは鋭いと自負している。野性の勘と言えば、サラ・ラドンというぐらいに私の勘はよく当たる。
父は私に察されたことで何か諦めたのか、小さくため息をついた。この両親は私のことになるとため息が多くなる。
しょうがないから、吐き出された幸を全部貰っておこう!両親の分まで幸せになるから!
「アルビス王家の第一王子アーサー様との婚約が」
「決まらない!」
父の言葉を被せるように声を発した。
みなまで言うでない。それが本当になってしまう。
婚約が決まったなんて知りたくない事実だ。聞かなかったことにすればいい。
「流石に王家からの婚約は断れないだろう」
「とっても素晴らしい縁談話なのに、どうしてこうも喜べないのかしら。サラは賢いけれど、妃教育は……」
「ダメだ、妃教育なんて考えただけでゾッとする。焚火なしじゃ語れないよ」
「そ、そんなにか……。まぁ、お前は令嬢としての教育ですら抜け出していたからな。むしろ騎士たちに混ざって剣術を磨いている時の方が輝いていた」
少し楽しそうに話し始めた父を母は目の圧力で黙らせる。
泣く子も黙る力強い目だ。私も何度あの目でお仕置きされてきたことか。
「剣術や体術を学ぶ方が楽しいし、ダンスよりもそっちの方が才能があったし!」
知識を蓄える勉強は好きだったけど、清く美しく振舞うマナーレッスンが大が付くほど苦手だった。
「確かに、貴女に剣術や体術において特別な才能があったのは認めるわ。けれど、今回はわけが違うの!王家からの婚約なのよ。それも誰もが羨むアーサー王子との婚約よ?」
そんなに人気なのか、アーサー王子。
母がこんなに興奮して話すなんて珍しい。この縁組がそんなに嬉しいのか……。
けど、私は彼女の期待に応えれそうにない。
「この世にはごまんと女がいるのに、なぜ私?アーサー王子も私みたいな女は嫌だろう」
つい本音がポロッと出てしまった。