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扉の前からでも貴族たちの優雅で活気に溢れた様子が伝わって来る。
皆が絢爛たる衣装を身にまとい、美しい旋律に合わせて、滑らかにダンスを踊っている。
香水やスイーツの甘い匂いが鼻をかすめる。
これが社交界の匂いか〜〜。土の匂いの方が好きだ。
「不思議ですわ。お姉様が社交界デビューなんて」
「不本意だけど」
「それでも、これで立派なレディーになられるということですわね」
マーガレットは嬉々たる声でそう言った。
私より年下なはずなのに、この場では随分と彼女が逞しく思えた。社交界の先輩、ご指導よろしくお願いします。立派なレディーに
なりたいなんて微塵も思っていなかったけれど、ここでは精一杯努めよう。
私とマーガレットは覚悟を決めて、ダンスホールへと足を進めた。
色彩豊かなドレスがあちこちで待っている。
ゴージャスな仮面のおかげで誰が誰だかさっぱり分からないが、男女ともに皆が華美な衣装を身にまとっていた。
軽やかなダンスを横目で見ながら、私達は端っこの方へ向かう。私達の方にチラチラと視線を向けてくる人達が何人かいた。
プラチナブロンドの髪はこの輝かしい世界でも珍しく目立つみたいだ。
……けど、森よりかは同化できると思う。
「バレたかな?」
こそっと私はマーガレットの耳元で呟いた。
彼女は私の手をギュッと握り、「大丈夫ですわ」と小さな声で返してくれた。
マーガレットがついていると思うと安心感が半端ない。私は音楽以外の音に耳を澄ませる。
噂話をコソコソしている男や女の声。誰がカッコいい、誰がタイプなので盛り上がる黄色い声。
色々な声が一気に耳に入って来る。
…………やっぱり人混みが苦手だ。頭が痛くなる。
「ここにあるものはいつでも食べていけますわ」
マーガレットは歩く速度を緩めて、可愛らしく盛り付けられているスイーツの方を指さした。
一口サイズの種類が豊富なケーキたち、プリン、マカロン、フルーツなど。
未知の世界に踏み込んで迷いかけていたけれど、こんなに食欲をそそる食べ物があるのなら何度も通いたいぐらいだ。
よだれ垂れそう。
食べないとバチがあたりそうってぐらい美味しそうだ。
「これ全部食べていいの?」
「ただ、食べる方は少ない……というかほとんどいません」マーガレットの返答に露骨に眉をひそめてしまった。
もちろん、仮面で私の表情なんて見えない。
「ある意味ないじゃん」
「飾りのようなものですわ。お茶会とは違って舞踏会ですもの。舞踏会は社交の場。立って喋ったり、ダンスしながら喋ったり……。様々な情報が飛び交うところですわ」
落ち着いて淡々と話すマーガレットに感心する。
「マーガレットが大人に見える」
「少なくともこの場ではお姉様より大人です」
欺き欺かれ、そんな社交界でマーガレットは生き残ってきたんだ。
……演技力スキル0の私が生き残れるとは到底思えないけれど。