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……なんじゃこりゃ。
馬車から降りるなり、王宮の門で腰を抜かしそうになる。開いた口が塞がらない。
ここに来るまでの間、体力を蓄えておかねばと爆睡していたから外の様子を全く見ていなかった。
家から出て、寝て、覚めたら、威厳のある巨大な王宮が存在していたのだ。
こんなに大きくて広ければ、知らない人が数人紛れ込んでいても
気付かないだろう。庭園に何人か絶対こっそり住んでいるだろ。やはり、富と権力の力はすごい。
「お姉様、仮面をつけて」
マーガレットにそう囁かれて私は素早くドレスと同じ色の仮面をつける。
目元だけでなく、顔全体が覆われる仮面だ。本当に誰が誰だか分からない。
どんな表情をしているのか外からでは一切把握できない優秀な仮面だ。
便利すぎないか?!
これさえ被っていれば、母に怒られている時も無敵じゃないか。反省している顔の仮面を作ってもらおう。
つい、調子に乗って舌を出して変顔をしてしまう。
「お姉様、いくら表情が見えないと言ってもふざけているのは分かります」
妹に冷静につっこまれる。
私はもう何も余計なことはせず黙ってマーガレットについて行くことにした。
王宮の中も見た目に負けないぐらい厳格で繊細かつ豪華な造りになっていた。
嫉妬すらできないレベルのお金持ちなんだな、王家って。
使用人の数なんて私の家の倍以上はいる。一つの小さな町じゃないか。
こんなに人がいるんだったら、一人は絶対スパイいるだろ。
……王家だし、その辺の調査はくまなくしているか。
どこを見ても眩しい。それぐらい綺麗にされている。
この絵とか、あの花瓶とか、一体いくらぐらいするんだろう。平民の家一軒ぐらいは余裕で買えちゃいそう……。
「目が疲れてきた」
「凄いですよね、王宮って」
私の小さな独り言にちゃんとマーガレットは反応してくれる。
王子とこのまま結婚することになったら、こんな落ち着かないところに住むところになるのか。
シャオも連れてくることを考えると……、彼は何を潰すか分からない。
絶対に賠償金なんか払えない!闇金に手を出すしかなくなっちゃうじゃん。
それが世間にバレたら私は公開処刑?ギロチン?痛い痛い。首が痛い。
「お姉様?一体首を押さえてどうしたんです?」
マーガレットは不思議そうに私を見つめる。
ただの妄想であたふたしているなんて口が裂けても言えない。
「ストレッチ!」
適当に嘘をついておこう。
仮面越しにも分かる。訝しげに私を見つめる妹の表情。
まぁまぁ、姉もたまにはストレッチの一つや二つしたくなる時があるのさ。
ストレッチにしては少し歪なポーズだったかもしれないけど。そこは大目に見てあげて。
少しの間歩いていると、幾何学的な模様が入った大きく背の高い扉が開かれたダンスホールについた。
全てが異次元過ぎて、違う世界に飛ばされたのだと途中から認識することにした。
ここは私の住む世界とは違う世界だから、これ以上ショックを受ける必要はない。
いっそのことリラックスしてこの場所を楽しめばいいのだ。