1はじまり
「げげッ!これ毒だ!」
私は、毒が入っていると知っていてその水を飲んだ。
まっずい水だな〜と思いながらも、我慢して口の中に放り込んだ。
ちゃんと後で検査できるように、コップの中に一口分の水だけを残しておいた。
社交界パーティーでこんなことが起きようとは誰が想像してであろう。
ざわざわと周りが騒ぎ始める。皆の視線が私の方へと集まる。
仮面舞踏会で良かった。煌びやかな貴族の方達に一気に注目されるのは苦手だ。これで私の顔は生涯バレることはない。
晴れて自由の身!
「毒!毒!毒!」
大事なことは三回言わないと!
毒が入っていたということをしっかり強調しながら、その場に気絶した。
喉が焼けるようにヒリヒリと痛み、意識が朦朧としてきたが、それでも何とか耐えることが出来た。
なんたって、これを乗り越えれば王子と結婚しなくていいから!
王子との結婚を避けるために大勢の人がいる前で毒入りの水を飲み、気絶するなんてお安い御用だ。
毒を飲んだ次の日には、完全に回復した!
解毒剤パワー!
廊下の壁に先祖たちのとなりに解毒剤も飾っておこうかな。それぐらい解毒剤には感謝している。
遡ること、数日前。
「よ、よめ!?」
父の口から出た言葉に私は思わず大きな声を上げた。
私の声量に驚いたのか、私の足に顔をスリスリしていたホワイトタイガーのシャオがビクッと体を震わせる。
シャオは生まれた時からずっと私の側から離れない。
私がお風呂に行こうとしてもついて来るぐらいだ。だから、こうして父の書斎にも一緒に来ている。
まさか書斎に呼び出された理由が結婚の話だとはシャオも私も思っていなかったけど。
「お前も年頃の娘だ。そろそろ嫁ぎ先を考えねばならない」
おいおい、父よ。私が嫁げるわけないじゃん。
私を好きになってくれる男なんているわけがない。
私は自由で、強く、自立した女でいたい。
繊細で美しい振舞やダンスレッスンなどは習ってきたけれど、まともに実践したことがない。
まず、十三歳からデビューするはずの社交界に一度も顔を出したことがないんだもの。
もう今やもう四の二乗の十六歳。手遅れ、手遅れ。
そもそも女性らしい仕草なんて私には無縁。そういうのは、二つ
年下の妹のマーガレットが適任だ。
「ライリー、やっぱりこの子には無理なような気がしますわ」
母!正しい見解だ!
珍しく母親と気が合う。このまま父を説得して欲しい。
「サラ、そんなキラキラした目をしないで。あ!貴女また裸足じゃない!何度言えば分かるの!ちゃんと靴を履きなさい!」
「けど、さっきまで森を駆け巡ってたから」
「はぁ〜〜〜〜〜」
私が説明している途中で母は片手を額につけて盛大なため息をついた。
いつも私は母に怒られる。どうやら母の皺が増えたのは私のせいらしい。
自分ではそんなに彼女にストレスを与えているつもりはないが、令嬢としての佇まいが出来ていないという自覚はある。
「この野生児を野放しにするのは危険ですわ。やっぱり、私はお嫁に出すのは反対します」
「ああ、その気持ちは分かるが……。サラほど美しい娘を世に出さないのは勿体ないだろう」
「それは……、そうですけど。それでも中身がこれじゃあ……」
私の容姿は森にいたら目立つような見た目をしている。だから上手く隠れるのが難しい。
髪は母親譲りの艶のあるサラサラストレートのプラチナブロンド。
長さは腰ぐらいまであり、いつも手櫛だけで髪型が完成する。前髪は眉毛がかかるぐらいのところで真っすぐにそろえている。
瞳は父親譲りでぱっちりとしているが色気のある鮮やかな赤の瞳。
顔は小さく、唇は薄く整った形をしており、鼻は高く、鼻筋は通っている。
周りの人曰く、私は黄金比に近い顔で生まれてきたらしい。顔だけ、は小さい頃から褒められることが多い。
「少しは公爵令嬢としての自覚を持ちなさい!!」
母の声が耳の中でキーンッと響く。
あわわ、そんな声出されると頭が痛くなっちゃう。
私は未だにこれを母の特殊能力だと思っている。この声を出され
る度に、私のパワーはどんどん失われていくように感じるのだ。
「まあまあ」と言って、父は母を落ち着かせようとする。
父〜!それじゃあ、逆効果だよ。
「貴方はこの子に甘すぎるんです!だから、こんな風に!」
「エミリア、綺麗な顔が台無しだよ」
父は、穏やかな表情を母に向けながら優しい声を発する。
わぁ!母のこと扱いなれてるなぁ!
私は父を感心しながら、私に寄り添ってくるシャオをゆっくり撫でた。