召喚されし悪魔の勇者 ~ 魔王を倒し国に復讐を遂げる迄、俺は死ねない! ~
この国には、ある伝承があった。
異界の勇者、光を纏い魔王を倒す。魔王の魂の根源を贄にして異界へと帰還する。
ある晴れた日、王国により召喚されし勇者がいた。
魔王の元へ送る為、玉座の間に召喚された一人の青年。
だが、その異界の勇者の左手には。神より授けられるはずの聖痕は無かった。
火、水、土、風、光、闇、そして無。
この世界の人間の左手の甲にはそれぞれの根源を象った痣が生まれた時より刻まれている。
それは神から与えられし聖痕として、その者の資質を表す証でもあった。
火を授かった者は業火を操る魔術師に、水をつかさどる者は人々を癒す治癒師に、そして土を極めし者は屈強の戦士となり、風を身に纏う者は剣士となる。
光を纏い精霊に力を借りる精霊術師となり作物の成長を助け、闇の波動を感じる者は占星術師として未来を占う。
そして、大多数を占める無を印された者達は、広く魔法が使えるため努力次第ではなんにでもなれた。ほとんどの者が何不自由なく商人や農民になって働いている。
そんなこの世界の唯一つの例外が、痣を持たない者。
この世界の者は、その痣の無い者を『悪魔の子』として災いを呼ぶ悪魔として迫害していた。
これは、召喚されし悪魔の子と呼ばれる聖痕無しの青年が、魔王を倒し元の世界に帰る為の物語……
◆◇◆◇◆
「良くぞお越しくださいました!異世界の勇者様!」
俺は、どうやって死んだのか分からないまま、この世界に召喚された……らしい。
前世の記憶ははっきりとはしていない。
だが、少なくとも自分が今まで生きてきた世界はここではない。
なんとなくそう思った。
「俺は、タクマだ」
そう。俺はタクマ……それ以外がやはり朧気だ。
「タクマ様……残念ながら貴方様に光の聖痕は宿らなかったようです」
周りからざわざわと俺に向かって悪意のある声が聞こえる。
――― 悪魔の子
「仕方ありませんね……エルディン。頼む……」
王はそう言って顔を伏せる。
俺は理由も分からぬまま、そのエルディンと呼ばれた鎧の男に連れられ中世ヨーロッパを思わせる豪華な部屋へ案内された。
中世ヨーロッパって?なんだったかは覚えていない。
俺は変な薬でも盛られたのだろうか?
自分の名前と、地球、日本。今の時点ではっきりと覚えている単語はそれぐらいだ。
それからそのエルディンという騎士団長の話を聞いた。
魔国の王、魔王は王国を手中に収めようと魔物を送っているという。
魔王は倒すべき存在でその為に俺が、勇者が召喚されたのだと言う。
だが、聖痕の無い俺には無理だとも言われた。
この世界の人間は、生まれた時から左手の甲に何らかの痣が有るとようで、それがその人の資質であり、生涯変わらない自分の価値なのだと。その聖痕により将来の道がほぼ確定するらしく、無印と言われた一般人にも聖痕はあるようだ。
そして、俺の様に聖痕の無い人間は神から見放された存在、悪魔の子、と呼ばれ災いを呼ぶとされているらしい。
その話を聞いて、俺は絶望を感じた。
良く分からない世界に突然連れてこられ、悪魔の子?災いを呼ぶ?
「俺を呼んだのはお前らだろう!」
気付けばそう叫んでいた。
エルディンは申し訳なさそうな顔をして、王は俺を国外に追放にするよう命じられていたことも話してくれた。
さらには、今すぐには無理だが1年もすれば新たな勇者が召喚されるだろうと……
そうなれば俺は、この異界の地で悪魔の子と言われ続けながら生きて行かねばならないのだろう。
「なんだよそれ……」
「タクマ様は、この世界と相性が合わないのでしょう。きっと、元の世界で幸せに暮らしていたはずです……」
俯く俺に、エルディンはそう言った。
「じゃあ、帰せよ。元の世界に俺を帰してくれよ!」
「それは……」
俺はエルディンにつかみかかるが、そのエルディンは顔を伏せたままだった。
「一つだけ方法があることはあります……」
「方法があるなら早く教えろ!戻れるなら、俺は何をしたら良い?」
「魔王の心臓、これがあれば世界を超えることができるんです。私も騎士ではありますが、術師の心得もあります!異世界転送術も使えます!」
その言葉に一瞬喜ぶが、それには魔王を倒さなくてはならない。
それはさすがに無理だろうと思った。
「魔王を?だが、この世界の人間じゃない、痣すらない俺にそんな力なんて……」
「そういえば、ステータスは確認したでしょうか?」
「ステータス?そんな漫画みたいな……」
「漫画?」
俺が言った"漫画"という言葉に首を傾げるエルディン。
そう言えば、漫画ってなんだ?
とにかく今はステータスだ。
俺はなぜかワクワクしながら小声で"ステータス"と呟いた。
――――――――
タクマ [異界の勇者]
最大魔力値 15
――――――――
目の前に浮かぶそれを見ているが、強いのか弱いのかの判断がつかない。
だが、その表示を見ているエルディンの表情からも察してしまう。
「やはり、厳しいですね……」
「そう、なのか……俺は、元の世界に帰ることはできないんだな……」
エルディンは俺の言葉に何も返してはくれなかった。
「タクマ様!私と一緒に城をでませんか?」
「城を?」
「タクマ様は異界の勇者です。修行をしたら強くなれる可能性があります!聖痕が無いので魔法は使えないでしょうが、他にも何か、きっと何かあるはずです!」
「そう、か……俺は、このままここに居てもいずれは追い出されるんだろ?」
俺の言葉に俯くエルディン。
「なら、俺は城を出る。エルディンさんは、俺と一緒だと不味いだろ?俺、一人で頑張ってみるよ!絶対に魔王を倒し、あの王に復讐して元の世界に帰る!」
「いえ!私も一緒に参ります!」
「でも……」
騎士団長という立場で国に逆らうのはどう考えても不味いだろう。
「いいんです!私も王のやり方には疑問を持っていましたし」
「ありがとう。俺は絶対にあの王もこの国も許さない!だけどエルディンさんは別です。でも、魔王を倒し王に復讐を遂げたら、俺を元の世界に戻してくれますか?」
「はい!必ず!」
エルディンさんと固い握手を交わした俺は、こっそりと城を抜け出した。
そして、近場の宿へと案内される。
エルディンさんは別室を取ってくれていた。
「今日は色々大変でしたでしょうから……」
俺はその言葉に甘えることにした。
俺は、エルディンさんが傍にいないのは不安でもあったが、一人でこれからのことを考えたい気持ちもあった。
部屋で1人考える。
俺は強くなれるのだろうか?
誰よりも、魔王よりも強く、もしそうなれたなら……俺は魔王と、この国の王を殺し、元の世界に帰る。それは何としても叶えるべき、俺の生きる希望であった。
◆◇◆◇◆
「タクマ様が?」
「はい。無事、城を出ました」
報告を聞いた王はうなだれる。
「ありがたいことです。勝手な理由でこの世界に呼んだのは私達ですが……願わくば、タクマ様に神様の御加護を……」
そう言って目をつぶり祈る王。
「ひき続き、監視は続けます」
「よろしく頼みますよ?」
そう言って、影と呼ばれた隠密の者は部屋を出ていった。
◆◇◆◇◆
俺は魔王と倒すべく修行を始める。
エルディンさんが転移と言う一度行った場所に、瞬時に移動できる魔法を使えるので、気付けば王都の迷宮の入り口に立っていた。
凄いなエルディンさん。
エルディンさんが用意してくれた装備を身につけ迷宮へ入る。
最初は慣れない中、ゴブリンと呼ばれた小鬼にも殺されかけるが、そのゴブリンを倒した時に体の中に何かが入り込む様な感覚を覚えた。
こうやって魔物を倒すことでその魂を吸収し、強くなってゆくと言う。
少しづつではあるが魔力値が上がり、体も軽くなってくる。
その事に嬉しくなってしまう。
「やはりタクマ様は才能が有ります」
エルディンさんは嬉しそうに俺を褒めてくれる。
そして1ヵ月後には最大魔力値は2000を超えた。
魔王は1500程度だと言うので十分倒せるはずだと……
「信じられない成長速度です!これなら魔王も……」
「そう、なのかな?」
俺は、迷宮でも難なく魔物を倒せるようになってきたことに喜んだ。
ちなみにエルディンさんはこの国でも上位に入るようで、それでも1000を少し超えたぐらいだと言う。
だが、そもそもエルディンさんでは魔王城迄たどり着けないらしい。
そして俺は、満を持して魔王へ挑むことを決意した。
エルディンさんの転移で魔国との境界という場所へ移動する。
「今更になりますが、ここからは私では魔素が濃すぎて進めないのです」
「え、そんな話は聞いてませんよ!」
エルディンさんは顔を伏せる。
「このような場所は、光の聖痕があれば大丈夫なのです。ですので『光りを纏い魔王を』という一節は光の聖痕がある勇者が魔王を倒すということでは、と伝わっていたのです」
「じゃあ、最初から俺では無理じゃないか!」
俺は、ついエルディンに怒鳴ってしまう。
「それは、すみません……ですが!もしかしたら異界の勇者様であれば、と思ったのです……」
「試す価値はあり、ということか……エルディンさん、これ、すぐに死ぬということでは無いんですね?」
「はい。魔素が濃いと段々と息苦しくなり徐々に行動が制限されますが、すぐに死ぬようなものでもありません」
「分かった。やってみるよ。あと、ごめんね、怒鳴ったりして」
「いえ、悪いのは私達です」
俺は勇気を振り絞り、目の前の少し紫がかった濃い霧の中へ足を踏み入れた。
息苦しくは、無いようだ。
そう思って試しに深呼吸をしてみる。
全く問題ないが、念の為だとさらに進み、そこで何度も深呼吸する。
よし!まったく問題ないようだ。
俺は、一度戻ってエルディンにその事を告げる。
「問題無いようだ」
「そうですか!」
「じゃあ、色々とお世話になりました。必ず帰ってくるので、行ってきます!」
「ご武運を!」
そうして俺はエルディンと別れ、視界の先に見える魔王城迄の道のりを、ひたすら真っすぐ進んだ。
道中は、魔物も、意思を持ったという魔人という存在とも遭遇しなかった。
そしてたどり着いた魔王城。
無人の城へ入り広い通路を真っすぐに進むと、突き当りには大きな扉が開けっぱなしになっていた。
警戒しながらその扉をくぐると、そこには黒髪の美しい女性が玉座に足を組み座っていた。
あれが魔王なのだろう。
「ようこそ来た。強き者よ」
「あなたが魔王、で良いのですね」
「ああ、私が魔王、ビクトリアじゃ」
その姿は美しく、色気を感じてしまう程、肌の露出が多かった。
「お前達はなぜ人を襲う!王国を略奪して何を望む!」
「略奪?先に手を出してきたのはそちらじゃが?」
「う、嘘をつくな!お前たちが魔物をけしかけ、王国を奪おうと攻めてきているのは聞いている!」
「誰からそんな出鱈目を聞いたか知らぬが、お主、ここに来るまでの道中で魔人には襲われたか?」
そう言われて思い出す。
「いや、誰とも会わなかったが……」
それを聞いてビクトリアはため息をつく。
「皆、強きものが来たと言って引き篭もっておるのじゃ」
「だがそれは……俺が、強いからってことだろ?お前達は弱い人間を殺し、あの国を奪おうとしてるんだろ!」
「私はそもそも……いいだろう、ほれ」
そう言ってビクトリアはステータスを開いた。
「魔力上限は1414……エルディンさんに聞いた通りだな。俺の方が断然強い!」
「まあ待て。他の者はこの十分の1にも満たないのだ。人族の方にも強き者がいるのじゃ。そんな国に攻め込むなど、王としては、そんなリスクは冒せるはずもないじゃろ?お主も、自分の頭で少しは考えてみよ」
魔王ビクトリアにそう言われ、俺は考えてしまう。
エルディンさんは魔力上限は1000を超えている。
王国でもそれなりに強いらしい。
それでも"上位"だとは言っていたが、王国で"一番"だとは言っていない。
そう考えれば、ビクトリアの言う事も納得できてしまう。
だが……
「俺は、お前の心臓がなければ元の世界には帰れない」
「何やら事情がありそうじゃが、ならば少し話し合いが必要じゃな」
「そう言って、隙を見て俺を殺すのだろう?」
「お主を不意打ちでも殺せるとしたら、私ぐらいじゃろうな?お主は私だけ警戒しておればよいじゃろ?」
俺は、魔王との話し合いを承諾した。
決して魔王ビクトリアのその色気に充てられたわけではない。
人間、何事も話し合いから始めねば、というのが常識である。
俺達は、1晩じっくりと話し合った。
その翌日、お昼過ぎにはエルディンの元へと戻ってきた。
エルディンは岩に身を任せるようにして座っていた。
「タクマ様!よくぞご無事で!」
「ああ」
俺は、魔王から取り出した黒々とした心臓を見せる。
「タクマ様、念のため聞きます。すぐに元の世界へ戻りますか?」
「いや、まだ復讐は終わっていはいない」
俺は、エルディンの転移により城へと移動した。
王へ魔王を倒したことを伝える。
「何と言う事を!」
王座を立ち狼狽える王。
「それは、どういう意味だ?」
怒りに震える王を見て戸惑う。
「魔王様とは、魔国とこの国の不干渉を結んでおります!此度は魔国との交易を目的として書状を……エルディン!どういうことだ!ちゃんとタクマ様に使命を話し書状を託したのであろう?」
王はエルディンさんをキッと睨む。
「タクマ様!騙されてはいけません!王はそう言ってタクマ様を罪に問い、処刑にでもするつもりです!」
「エルディン!きさまー!」
王はエルディンさんに怒りを滲ませている。
「お前の薄汚い考えは分かった。じゃあ、俺の為に死んでくれ!」
俺は、王へ飛び掛かる。
左右から割り込んできた護衛の兵は蹴り飛ばした。
「死ね!」
俺は、王に持っていた剣を深く突き刺し、耳元で恨み言を伝えた後、王はその胸に剣を深く刺したまま、大の字で倒れ込んだ。
「エルディンさん、終わりました。すぐに帰還できますか?」
多数の兵がこちらを警戒しながら取り囲む中、俺から魔王の心臓を受け取ったエルディンは、それを高く掲げ、長い呪文を口にする。
「これでお別れです!おバカな勇者!」
そう言ったエルディンは、異形の姿、魔人へと変貌した。
そして俺は、そのエルディンだった魔人の腕を切り飛ばしていた。
「な、なぜ……」
切り飛ばした左腕の傷口を押さえ、魔法で治癒を施す魔人は、俺を苦み付けている。
「おっさん、もう起きていーぞ」
「ふう。タクマ様、流石の私もびっくりしましたぞ」
そう言って、起きてきたのは先ほど俺に殺されたはずの王であった。
胸の剣をずるりと引き抜き、従者の者に手渡していた。
「どう言う事だ!なぜ王が生きている!お前、俺を、この俺を……騙したのか?」
魔人の体からは禍々しいオーラが放出されている。
俺はそんな魔人に切りかかるが、それは魔人がいつの間にか持っていた大きな黒い剣により防がれる。
その剣を押し込むがその力は強く、どうやら力押しすることは難しいようだ。
だが問題は、無い。
「<業火>」
俺はそう呟くと、剣から青い炎が魔人に向かって放出されその身を焦がす。
「ぐあぁぁーー!」
魔人は無様にも部屋の床を転がり体の炎をなんとか消した。
「なぜ、魔法を……」
「魔王さんに教えてもらった。あっ、もう分かってると思うけど、魔王さん、ビクトリアも来てるから。ねえ、ビクトリア……」
俺の言葉にビクッとした男は、天井をバッと見る。
ゆらゆらと赤い霧が立ち込めたと思った次の瞬間、中からあの悩ましい姿の魔王ビクトリアが現れた。
◆◇◆◇◆
魔王城では、魔王ビクトリアから詳細なこの世界の歴史を聞いた。
そもそも、王国とは何度かの小競り合いはあったが、ここ数千年は不干渉を貫いていた。
王国側もそれを了承し、ビクトリアもそれなりにうまく棲み分けができていたと思っていたようだ。
王国と魔国は、互いの王が変わった時には国境で会談し、それぞれ不干渉であることを確認し合うのだという。
今の国王とも、わずかな時間ではあったが、不干渉の確認といっしょにしっかりと意見を交換し合っている。
その時にビクトリアは、あの王に、王国を守る為に全力を尽くし、平和を愛すと恥ずかしげもなく語る優しい王としての器を確かに感じたと、嬉しそうに話してくれた。
確かに俺にも、そんなに過激なことを言うような人には見えなかった。
俺は、ビクトリアの話を少しずつ信じ、その反面、エルディンさんの全ての言動に疑いを持った。
その上で、ビクトリアの協力もあり一芝居打つことにした。
その際に、なんと俺にも魔法を使えることを知る。
そもそも魔物を倒し体が軽くなるのは、身体強化魔法が使えているからだと教えてくれた。
始めは難しかったが、俺にも手から炎や水が出せるようになった。
そして、ビクトリアから突き刺すことで他者に内包した魔力を譲渡できる犠牲の剣と、土魔法でちょちょいと作った黒い心臓っぽい物を受け取った。
ビクトリアは俺を謀ったエルディンの正体も何となく想像できたと言っていた。
そして、姿を消して俺に付いてくるようだ。
そして明け方、もう寝ろと部屋を与えてくれた。
「なんなら一緒に寝ようか?」
「バ、バカを言うな!」
俺は赤い顔を隠しながらビクトリアを追い出し、部屋の鍵をかけた。
当然、目を覚ましたのはお昼近くであった。
◆◇◆◇◆
霧の中から魔王が現れる。
「ターくん。呼ぶの遅いよ?」
「ターくんて……まあいいや。俺もあいつに一泡吹かせたかったから、呼ぶの遅くなった」
「ふむ。やっぱりゴルゴーだったか……あんな姑息な手段で私を亡き者にしようとするなんてのぅ。バカじゃろ?」
そう言って、床に這いつくばる魔人、ゴルゴーは悔しそうに歯噛みしていた。
「おのれ魔――」
「<燃えよ>」
「ぐぁぁぁぁーーー!」
「うるさいのぉ」
突然燃え出したゴルゴーは、すぐに塵となって消えてゆく。
俺は、ビクトリアと戦って本当に勝てるのか疑問に思った。
ゴルゴーは一応魔国でもビクトリアの次に強い魔人だったらしい。
きっと俺に魔王と王国の王を殺させ、あとは自分が両国を支配しようと思ったのではとビクトリアが言っていたが、俺もそうなのだろうと思った。
その後、王国と魔国は正式に同盟を結び、物流が始まった。
王国の潤沢な食料と引き換えに、魔国の純度の高い魔石を獲ることができた王国は、さらなる発展を遂げるのであった。
ビクトリアも、魔国にはその辺に落ちている石コロが大量の食料に化けるのだから、なぜ今までやらなかったのか、とかなり悔しがっていた。
その後、俺はと言うと……
「ほれ。ターくん。ちゃんと食べんか」
「いや、ビクトリア?俺は自分で食べれるから」
俺は、魔王ビクトリアにより朝食を口元に運ばれている。
「まだビクトリアなど言いおって!リアで良いと言っておるであろう!」
「いや、なんか恥ずかしうぶっ!」
照れていた俺の口はこじ開けられ、スプーンを突っ込まられる。
魔王城に居候して1週間が経つが、こんな風に毎日ぐいぐいくるビクトリアに翻弄されつつも、そんなビクトリアを少なからず好ましいと思っている俺。
多分だがビクトリアも、俺の事を……
俺は元の世界を覚えていないし、今更戻る気もない。
俺はこの世界で生きて行こう。
この、魔王ビクトリア……リアと一緒に。
~ おしまい ~
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