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29.食べすぎと小休止


「少し食べ過ぎました……」

炭水化物、と言うか糖質は果物だけ、残りはほとんど魚。鳥肉はちょっと辛くて口にしなかったけれど。体に悪いにも程がある。先月した週間食品摂取状況の提出物があったらまず間違いなく一週間分の献立作成確定だった。……毎日歩く事になってるからタンパク質過多でも暫くは大丈夫なんだろうけど。うーん、野菜が無いからむしろ阻害されずに吸収されて筋肉になってるのかな?私はまだスポーツ選手の栄養摂取習って無いからいまいち分からない。実習で一日三食分=一般人六人が食べられるくらいの量を作るって先輩が言ってたけど、エネルギー組成は分からないしなぁ。

短期間の偏食くらいならそれほど体には影響は無いというのは分かっていても、便秘くらいにはなるだろう。タンパク質80%、糖質15%、脂質5%?目算でもこれは拙い。

「そうだな。落ち着くまで少しだけ休息を取るか」

「軟弱だな」

「無茶言わないでよね。みんなが皆ディアみたいに頑丈じゃないんだよ?」

自分のおなかの状況を無駄に分析しながら微妙な復習をしていたら少しだけ休もうか、という流れになっていた。ちょっと苦しいので私もその案が通ってほしいと伝える。

「すみません、お願いします」

「そうですね……。食後にすぐ動くと辛いですから暫くは時間をいただきましょうか」

解剖生理学的に言えば、満腹中枢の反応がきちんと染み渡るまで、ってとこかな。教授が言うには食後十分くらい仮眠を取った方が消化器官にいいらしいけど本当なんだろうか?仮眠じゃなくて休息のほうが正しいような気がする。

「俺は鳥でも狩ってくる。帰ってくるまでには動けるようにしとけ」

そうこう考えて居たら、ため息をついた後に一言漏らして返事も聞かずにディアが立ち上がった。元気だなぁ、と言うべきなのか食糧消費してごめんというべきなのか。あ、でも折角食べ物を取りにいくのならちょっと頼んでみようか。

「気が向いたら齧っても問題ない葉っぱもお願いー!」

雑木林に紛れて消えてしまった方角に声をかけてみるけど、まぁ無理かな。

野菜類を食べたいけど、毒物なんてちょっと日にちの危ない食品くらいしか縁の無い私には味効きも危険だろう。野生動物が食べてる物は割りと安全、というのは聞いたことがあるけれど、結局冒険する気にはなれなかった。……アルカロイド系の毒が水溶性かどうか、もうちょっと真面目に勉強しておけばよかったな。野生の勘が鋭そうなディアの気まぐれに任せておこう。

「座っちゃうと立ちたくなくなるから困るよね」

「このままグダグダしていたいーって言うのは分かる」

体力の無い私が、それなり体力の無いビィと笑う。言ってもしょうがないけれど、骨休みのときくらいには愚痴りたくもなるというものだ。無作法ではあるけれど、ヒールを脱いで鞄の上に足を乗せた。血行を良くする為には足を高くするのがいいけれど、流石にそんなポーズは取れない。脹脛をマッサージしていたらレームさんが声をかけてくれる。

「回復術をおかけしましょうか?」

「あ、今は大丈夫です。それほど急いで歩いていたわけじゃないですから。」

「ボクも大丈夫―。でもなんかこう、転がって休憩したい感じかな」

「そうね。痛くは無いけど重力が重いって感じ」

「重力が何か分からないけど、そんな感じだね」

言いたい事は分からなくてもニュアンスは伝わる。顔を見合わせてまた笑ってしまった。

「分かりました。つらくなったら直ぐにいってくださいね?」

「うん!」

「はい」

「私にもな。いつでも背は開いている」

「あー、なるべくお世話にならないように頑張ります」

「本当に構わないんだぞ?」

カストルさんの申し出はありがたいのですが。精神衛生上辛いです。役得とかそういう言葉は自分には無理です、恥ずかしいです。

「まぁまた日が進んで、本当に無理そうなら負ぶさっていたけば良いでしょう?カストル殿、先ほどは同意しましたが本人の意思も尊重すべきです」

「ふむ?……分かった、いつでも言ってくれ」


30.レームさんの背景とその差異:1


「折角の時間ですし、昨晩言った通り私の事でもお話しましょうか」

「レームさんの事?」

「はい。私の町や私自身の事を。暇つぶしには良いでしょう?」

「私も気になる。ビィの魔術はなんとなく想像がつくが、法術というものはいまいち体系が分からないからな」

「あ、ボクも。術式が分からない状況で発動するっていうの、すごく気になる」

「うまく説明できませんよ?」

問題ないよ自力で解明するから、と口にするビィ。この辺りは研究する人って感じさせる。でもたしかに気になるなぁ。ビィの魔術と違って、レームさんの術は詠唱が無い。結界を網状に変えたときに謎の言葉、多分呪文っぽい物を言った以外に何かをつぶやいている事は無かった。

「まぁ法術の事は話の中で。

そうですね、まずは私の住む町から。ムルディヌはガラス細工が有名な町です。色グラスやカップ、シャンデリアなど様々なものが作られ、町の収入を担っています」

カップとかシャンデリアみたいな名詞は横文字でも訳されるのか。そう思っていたら。

「しゃんでりあ?」

実物が脳内に無いとあまり意味が無いらしい。ビィが小首をかしげている。

「天井からつるす明かりのことだな。ガラスを鋭くカットし、キラキラとした輝きを反射させる装飾が有名だ。貴族の屋敷などの部屋によく設置されている」

「皇国のお城にぶら下がってた奴かな……?蝋燭が虹色に光ってて綺麗だった」

「あぁ、おそらくそれですね。ビィ、あなたの国では王城は一般開放されているのですか?」

「あ、違うよ。国が主催してる魔術論文の大会に出たときに見たんだ」

国が主催、ってことは予選か選考があっただろうし、その中を勝ち抜いて本戦に出場しているのだからから、ビィもやっぱり凄い人間なんじゃないだろうか。思わず強い視線を送ってしまった

「ボクの事はいいよ!それよりレームの話聞きたい」

「そうでしたね。私の町はガラス細工が有名ですが、国はかなりの魔法大国です。……正確には、でした、と言うべきですね。今でも生まれながら魔力の強い方は沢山居ますが。実際のところ私もそうでしたし」

「うん……。レームの中、すごい力がグルグル巡ってるって言うのは分かる」

「そうなの?」

「そうなのか?」

魔法、という物が無い世界から来た私とカストルさんには理解できない物だ。魔力というのは素質がある人は視認できるのだろうか。二人で同じ疑問を口にしたことにレームさんが微笑んで、

「なんとなく、感じ取れる物ですよ。もともとその身に魔力があれば、他者の力の流れは見えます。正直、魔力がひとかけらも無いお二人の方が私にとっては珍しいのですよ」

「レームさんの世界はほとんどの人が魔力を持っているってことですか?」

「はい。魔力が無い、というのは妊娠中母体が何らかの強い魔法を使った時、もしくはスピリュイーター等にその根源を食われてしまったときくらいしかその症例はおこりません」

「すぴりゅいーたー?」

今度は私にもわからない物が出てきた。けどまぁ、字面的に「スピリチュアル・イーター(精神喰い)」ってところなんだろうけれど。やる気が有るのか無いのかよくわからないな、この世界翻訳機。

「スピリュイーター。まぁ性質の悪い魔物の一種ですね。私の国では、魔力を対価に魔族や魔物の根源力場に干渉し、その力を借りると言う形で魔法を発動させるのですが。「あなたに魔力の一部を差し上げますので力を貸してください」という簡易契約呪文を無理やり書き換えて、魔力を生み出す器官そのものを食い尽くす生き物です。魔法使いや魔術師の天敵といってもいいですね。最近では根源の弱いスピリュイーター程度なら弾く防御陣が詠唱時に組み込まれるようになったので、まぁやはり魔力の無い人間というのは希少ですけれど」

「魔族や魔物、っていうのが想像できないんですが……」

その辺りのイメージはゲームとか漫画とか、その辺りから引用するしかない。そう思っていたら。

「ミハルの世界には居ないのか?」

「ミハルの世界には居ないの!?」

もしかしなくとも当たり前の知識でしたか。でもまぁ、魔力を含んだ生態系って言ったらそれまでなんだろうなぁ


31.レームさんの背景とその差異:2


「居ません。知恵を持つ生き物は人間のみ。あとは人間の先祖って言われてる霊長類くらい?その霊長類もサルだとかなんだとか、ともかく動物の一種に過ぎません」

「ミハルの世界に軍が無い事ことに理解ができた。奴らの爪や牙に脅かされる事が無いというのならば納得できる」

「羨ましい……。あいつらからの侵攻を防ぐ為にボクたちがどれだけ力を使っているか。魔族はボクたちの世界に力を持った術式で干渉して来るから、それを弾く為に物凄い研究が費やされてる。ここに来る前に下の上くらいまでの魔族の根源を奪う術式のヒントが浮かんだから、帰って発表できたらちょっとは楽になるとは思うんだけど」

「……カストル殿やビィの世界の魔族や魔物はそんなに性質の悪い物なのですか?」

二人が魔族に関して眉を顰めているのに、今度はレームさんが首をかしげている。

「だってあいつら自分達の世界があるのに、ボク達人間や動物の体を乗っ取ってくるんだよ?頭もいいからだまし討ちみたいに体を奪われた奴なんて腐るほど居るんだ。現に……!」

何かを言いかけて、きゅっと唇をかみ締めるビィ。昨日今日見た子供っぽい顔はバッサリと取り払われていて、目には憎悪に近い怒りがこもっている。14歳の子供がこんな表情をする、というのは正直見たいものじゃない。

ビィはその痛ましい顔を解いて目を閉じ、ブンブンと首を振った後に

「ともかく最悪な奴らなんだよ」

と口にした。カストルさんもそんなビィの様子を見て痛ましげな顔をする。

「私の世界の魔族は「体を奪う」という事は起こさないが、「殺す事」が存在意義と化している生き物だ。ビィの世界の奴らと同じく知恵や知識を持ち、縄張り争いと言うには過剰な破壊行動を行なう……。

唯一の救いは侵略時期が決まっている、という事だけか。奴らのために流れた血は、もう量る事すらできないだろう」

ギシリと歯を食いしばり、カストルさんの手は白くなるほどに握り締められている。……殺す事が存在意義、とは一体どんな生き物なのか。知識をもって、殺す為だけに。

カストルさんが前零していた「戦時中」とはただ殺す為だけに生きるそいつらとの戦いって意味だったんだろうか。

「奴らがなぜ我々を殺そうとするのか。それすら理解されていない。むしろその理由が伝わる事があるなら私達と奴らはほんの一欠けらでも分かり合えていただろうさ。耳に残るのはただ奴らが「殺せ、死ね」と私達に向ける言葉だけ。私の世界にとっても、ただ敵となるだけの存在だ」

体を奪う、という事も想像すらできない。どれだけ頑張っても「エクソシスト」みたいな憑き物レベルが限界だ。

……もし今私達がいるこの世界もそんな状況なら、私は正気を保っていられるんだろうか?

何も考えずに帰ることだけを考えていたけれど、もしそうだったら。……刃物で傷ができたときの感覚くらいしかわかる事が無い。恐怖を予感はさせても、殺気だとかなんだとかそういうものは想像すらできない。そんな物への心がけが必要ない世界だって、信じたかった。

「すまない、ミハルには有り得ない世界の話だったな」

眉を顰めて俯いてしまった私にカストルさんが私の髪に触れながら謝罪した。梳くように動かされる手に気恥ずかしさを感じながらも、落ち着く。それぞれの事情を勝手に忌避するのは、失礼だと理解している自分をなだめて。

「いえ、大丈夫、です。……カストルさんの世界の事も、それからビィの世界の事も機会が有ったら話してください。想像しかできないけれど、聞かせて欲しいです」

「機会があれば」

そう言って微笑するカストルさんの本音は、聞き取れなかった。



32.レームさんの背景とその差異:3


「……お二人がそこまで魔族というものに、いいえ、この場合は違いますね。お二人の世界の魔物が、というべきですか。それほど忌むべき物だったとは思いませんでした」

暗い顔をして魔族を語る二人にレームさんが悲しげな表情を浮かべていた。うぅん、悲しいとは何かちょっと違う感じの、でもやっぱり悲しいとしか表現できない表情。

「私の世界の魔族は奔放かつ個人主義で、されど国を愛し、さらに言うなら人間に友好的な種が多いです」

「……想像できない」

ビィが口をきつく曲げたまま口を振る。ビィにとって魔族、魔物は「恐ろしい物」である事が当然だったからかな。

「初めにお話したスピリュイーターのような低級な魔物などは別ですが、知性を持ちえた魔族や魔物の大概は人間と知恵を分かち合って生存しています。魔法使いや魔術師が魔族から力を借りる、というのも同意がなければできませんから」

「……自力で発動させる術式は無いの?」

魔術の事になったから、少しは冷静になったのかな。それとものめり込む分野に目をむけて、ぶれる感情を見ないようにしているのか。

「いえ、それは有ります。私達は彼らの事を魔導師と呼んでいますね。自らの魔力を自らの力で導く者。けれどこちらの場合、素質は勿論のこと、素養も必要なのです」

「力を借りた方が楽、という事か?」

「そうなります。魔族から力を借りる方法によってさらに細かく分類されているのですが、まぁこの辺りは割愛してもいいでしょう。ともかく、魔族は自らの力を貸してもいいと思うくらいには人間のことを好いているのです」

「じゃあ、じゃあどうしてボクたちの世界の魔族や魔物はあんな事をするの!?どうしてレームの世界だけっ!……言っても、しょうがないって、分かってる、分かってるけど!」

ビィの叫びは、事情をよく知らない私ですら引き裂かれそうなほど悲痛なものを含んでいた。……生態系が違う、文化が違う、そもそも「魔族、魔物」という音の意味だけが合った違う生き物だから。そう言うのはたやすくても、ビィの事情はそんな事では慰められないほど悲しいものなんだろうか。カストルさんも口には出さないまでも、目線の揺れはその思いを物語っていた。

「……申し訳ありません。ただ、私が伝えられる事は、魔族、魔物も泣き笑い、悲しみ怒る感情が有る、ということだけです」

そんな事知りたくないよ、とビィがかぶりを振る。レームさんの世界の背景がここまで二人とかけ離れているなんて思いもしなかった。流石になんとかしなければ、と頭を廻らせて、初志に帰ればいいんだと思いついた。

「魔法とかの体系がビィの世界とは違うって分かったんですけど、それじゃ法術ってどういうものなんですか?」

聞きたかったこと。呪文も無しで、ローコストで便利な法術。話を逸らしたことが分かったのか、レームさんがほんの少しだけ頭を下げてくれた。が。

「それが分からないのですよ」

と、あっさり。

「……分からない?」

「えぇ。法術は力を借りる対象が「自然」なので。自分の魔力を世界に広め、広げた魔力と共鳴する部分を集める、という感覚以外は分からないのです」

「魔力に依存してる力って事じゃないの?」

「いえ、正確に言えば魔力に惹かれて、といった形ですね。その「惹かれた自然」がどうして私達法術師の扱う術になるのか、分からないのです」

「………すみません、意味自体が分からないんですけど」

結局のところ、魔力っていう謎の物が何かを起こしてるのではないんです?

「そうですね……。例えば私の魔力に大気が共鳴したので、大気を引きこむとします」

「はい」「うん」「ああ」

「それが突風になるならまだ分かるのですが。結界、壁になるのです。それも自動で。どうして壁になるんでしょうか?と、調べても調べても、全く答えが出ないのです」

「つまり、共鳴して引き寄せた部分が、勝手に法術の結果に変化する、ってことですね?」

「そういうことです」

テレビなんかと同じ理屈か。仕組みは分からないけれど、電源ボタンを押したら画面がつくことが分かるように。分からない、という事がわかって私は満足していたけれど、ビィがちょっとヒステリックに叫び始めた。

「あ、ありえない!ボクの世界の精霊術師はその名の通り精霊にお願いして、その精霊がつかさどっている対象に干渉してもらって、それが形になって術として発動する。レームのは要するに精霊の存在抜きで直接対象を変化させてるって事なんだよ!?」

精霊術師がどの程度の物のなのかいまいちよく分からない。カストルさんも同じような考えだったらしく、分かりませんよね、と顔を見合わせた。

「うううー。絶対もとの世界に帰るまでに法術の法則を解明する!そんな事ができるなら精霊術師はお役ごめんになっちゃうけど、災害とか防止できそうだし」

「自然災害を誘発させることもできそうだけどね」

「あ」

結局、分からない物にすぎないってことかぁ。何はともあれ、ビィの思考がそれたのは良かったかな?






美春さんにとっては「魔物?魔族?ゲームとかマンガに出てるあれ?」なはなし。

ありがちなことがずらっとあるので流し読み推奨。あとがきに書くことじゃないけど。


それから、地味に自分に魔力が無いといわれて悲しんでいます。私にも魔法使えないかなーくらいの期待は、ビィの魔術を見た時点でチラッと思ってました。

ビィの魔術みたいな便利な物は使えません。

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