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長生き魔法使いは暇を持て余す  作者: 綾瀬 律


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99/101

99.一年後

初めはルシアーノ視点、途中からミーシャ視点

 僕は外を眺める。暇ではないけどなんとなく空虚だ。

 エリーのいない塔は物寂しい。たった1体の聖獣の存在がこれほど大きいとは。

 ため息を吐く。

『主はまたため息を…』

『もはやデフォルトだな』

 綿のような蜘蛛ともふもふの銀狼が会話をしている。


 憂い顔で外を眺めていたルシアーノは

「ミーシャ!」

 白い蜘蛛を呼んだ。


『何だ?』

「出かけるよ!」

『…だから?』

 首をかしげて何?という顔をする。

「一緒に行くんだよ?」

 だから色々と説明が足りてないだろ!と思うミーシャだ。

 エリーがいれば通訳してくれるんだがな。


 緩衝材のような役割のエリーがいなくなってから数ヶ月が経とうとしていた。

 長いような短いような。それでもまだ俺たちの胸に大きく残る存在のエリー。

 仕方ない、主の肩に登るとそばに寄り添ったシルバと共に塔から外に転移した。

 待っていたのはカシス、そしてロイグリフ。


「一緒に行くよ!」

 連れだって塔の周りの結界を出る。

 主のそばにいれば魔獣は寄ってきても瞬殺だ。なんせ世界一の魔術師は伊達じゃない。

 そうやって進むこと2時間ほど。めちゃくちゃな速度で進んだ。いや、転移すれば一瞬なのにな。

 見えてきたのは森人の集落だ。


 ツリーハウスから

「あ?」

 飛び降りる小さな子供。

「エリスだー」

 よたよたと走ってきた子供は主が胸に抱いた子供に抱き着く。

 主が子供を降ろせばそのまま押し倒した。

 ツリーハウスから顔を出したのは銀髪の渋い男性。

「ほら、ノエル…エリスがつぶれるぞ」


 華麗に空を飛ぶと覆いかぶさった銀髪の子供を引きはがす。

 主は銀髪の男性に抱き着いた。

 やっぱり主にとっての一番はいつだってエリーなんだな。

「ウザイ…」

 エリーはやっぱりエリーだった。







 あの日、ノワールの部屋で虹色をの輝きを失ったエリーの羽を見て主は慌てた。慌ててエリーに縋って泣いた。羽の虹色は魔力を現す。それが失われたということは魔力枯渇だ。

 コウモリの形態でわずかに体を小さくして魔力を温存している姿は今までも見たことがある。

 主の魔力にあふれた箱庭にいればやがて、魔力は回復する。

 それでもやっぱり心配だったのか両手で抱えると治癒の魔力でエリーを覆う。

 やがて羽はその輝きを取り戻し、きらきらと輝き始めた。


 そばで眠るノワールの頬もわずかに色づいた。エリーに施した治癒がノワールにも届いたのだ。

 もっとも、ノワールはすでにエリーの魔力と融合して満たされていたから、その魔力をなじませるために眠っているだけだったが。

 エリーの魔力と融合したことで、その寿命は延びて…ノワールの希望はかなえられたのだ。


 エリーは力の限り魔力を渡し、力尽きて眠っている。守りたいもののはやはり守り切ったのだな。

「エリー、君の望みは叶えられたよ、僕じゃなかったのは残念だけど」


 エリーは神によって作られた聖獣で世界で一体のみだった。出会うことを夢見た同族は自分の力で増やすしかなかったのだ。

 それはエリーが自ら望まなくてはならなかった。

 でもエリーはいつでも受け身だった。主が相手でも我々が相手でも。


 ノワールとのことは本人が望んだというか、そうせざるを得なかった。弱っているノワールには自ら積極的に交わることは無理だったのだから。

 結果としてエリー自ら魔力を渡すために、エリーが主体となって交わった。

 それで望んで望んで得られなかった同族を、白い羽をもつコウモリの子供を得ることができたのだ。

 主も我々もその事に初めて気が付いて。もっと早くわかっていたら…と主はエリーの初めてが自分じゃない事を悔しがった。



 聖獣の子は神から授けられる。

 子が出来たことは感覚で分かるから、エリーはノワールを救うことと願った白いコウモリの我が子をその腕に抱くことが出来るのだ。

 ウィンウィンだ。

 ちなみに、聖獣と人の子は、聖獣が種を残せば聖獣として(生まれてしばらくは人型)、人が種を残すと人として生まれる。

 人して生まれても聖獣の能力はある程度使える。


 しかし、主はやっぱり複雑な気持ちだったらしく、そのまま虹色の羽を取り戻したエリーを抱えて泣きながら塔に向かった。

 それから2日後、エリーは箱庭に戻った人型のエリーを待ち構えた俺たちに順番に拉致された。

 そして、半年後には塔に空前のベビーラッシュが来た。みんながエリーとつがうことを願ったからだ。めったに人型にならないエリーにみんなが群がったのだ。

 受け身ではないエリーをみんなは切望し、しばらくは独り寝が出来ずにエリーはヘロヘロになっていた。


 10日後にやっと解放されてノワールの元に辿り着いた。起き上がっていたノワールを見てコウモリに戻っていたリオはその膝の上に乗る。

「リオ…ありがとう、リオ…」

 両手で掴まれて頬ずりされたリオはその羽で

「うぜー」

 とノワールの顔をパシパシした。

 やっぱりエリーはエリーだ。



「リオ、その…お願いがあるんだ…」

 恥ずかしそうに俯くノワール、俺はピンと来た。しかし鈍いのか何なのか、エリーはノワールの顔を覗き込み羽でおでこを触る。

「どうした?顔が赤いぞ!」

 この天然は、まったく。それがまた心地良いのだからな、困ったもんだ。


「は、初めてのソレは…記憶が曖昧で。その…またリオと…」

 その声は段々と小さくなる。自ら抱いてくれとはなかなか言いにくいだろう。

 俺は悟って頷く。しかしエリーは

「なんだ、交わりたいのか、まだ若いしな?イケイケどんどんか!」

 全く空気を読んでいなかった。

「いいぞ?周りの奴らがいない今がいいな」

 朗らかに言う。ノワールは真っ赤になって固まった。


「せめて風呂くらい入ったらどうだ?」

 と言えば

「むっ、そういえば人にはそういう習慣があるんだったな」

 と人型になってノワールをお姫様抱っこして部屋を出た。全く、相変わらずノワールには甘い。

 ここで待っていれば人型のエリーがやってくる。よし、ノワールの後は俺だな!


 ミーシャはエリーがノアを抱いて戻り、2人がつがうのを見ながら(見るなよ?とエリーに言われたので透明化した)順番待ちをしたのだった。

 翌朝、ノワールから離れたエリーを捕獲して巣穴にお持ち帰りした。


 さらに翌朝、俺は鼻歌を歌いながら箱庭を歩いた。

 余は満足じゃ、とルシアーノが時々言う台詞を真似してご満悦だった。

 なかなか人型にならないエリー。ウザイと言いながらも受け入れてくれるその温かい羽は、俺たち古参だけじゃなく、育てた子にも大人気だ。


 エリーが望んだ同族も、たくさん生まれるよ!エリー。交尾を迫ったからな、同族がほしいだろ、と。エリーも分かっているのか拒否しなかった。

 聖獣といえど、子孫を残すのは本能だ。俺の次に順番待ちをしていたロイグリフもまんまとエリーを捕獲して全身舐め回していた。だから嫌われるんだ!


 聖獣の子は半年ほどで神から授かる。

 エリーは初めての白コウモリの子をみずから育てたかった。しかし同じく親であるノワールは人だから塔で暮らすのは無理だ。樹海の中でも魔力素が濃い場所に主の塔はある。

 結界で覆われていても、人ならすぐに魔力に当てられて弱ってしまう。

 しかし、もちろん主はエリーが離れることを許さなかった。エリーは子育てをつがったノワールとしたかった。ノワールの希望でもあったし。

 その折衷案が樹海にある森人の集落で暮らすことだった。


 樹海の外縁に近いから、エリーの魔力で満たされたノワールなら暮らすことが出来る。樹海の中だから塔との行き来も容易い。

 主がやっと頷いたので、エリーたちは森人の集落に移り住んだ。主もエリーとの子供を近くで一緒に育てたかったんだろう。今までと違い白コウモリの子だから。


 子供が神から渡されるまではシェイパーの街で過ごしていた2人と主。もちろん俺とシルバにロイグリフもだ。難易度を下げた迷宮にノワールやガイルと潜り、日々楽しそうに過ごしていた。

 たまにはカイラスから来る双子とも潜り、実にたのしそうだった。


 やがて子を授けられる日が近付くと、我々はシェイパーの街を離れて樹海へと帰った。エリーに群がってつがった我々にも子が授けられるからだ。

 こうして、子育ての日が始まった。しかし、主は壊滅的に子育てが下手だ。なので、結局はエリーが塔と集落を行き来して面倒を見る。

 ついでに主の面倒も、だ。そして時々、主に捕まっている。賑やかでいい。




 暇だと憂いる時間など無いほどに、塔にはたくさんの子供たちがいたのだから。





やっぱりどこまでも面倒見が良くて空気を読まないエリー

でも大人気…



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