9.危機回避?
何とかかなった、のだろうか?
近づくにつれ濃厚でヤバさ全開の気配に膝をつきそうになるのを堪えて部屋に入れば、いたのはまだあどけない面差しの少年だ。
しかし間違いなく彼の気配だ。
背中に汗をかき過ぎて、シャツが張り付いて気持ち悪いがそれどころではない。
迅速かつ的確に対応せねば。
なんとか商人と護衛を呼び戻し、号外を発布することと多少の金銭で納得してくれた。赤くなった手首も濡らした布で冷やす。
そして宿、宿か…この時間からでは難しいし何よりもう少し聞きたいことがある。
よし、屋敷に呼ぼう。
それで納得してくれたから、取り急ぎ馬車と何より号外の発布の手配をしなくては。
本部に向かう途中で大きな銀色の狼と綿みたいな従魔に合流したリオ。
引いた汗がまた吹き出すのを感じる。またなんて大物を!いや、考えるな、今は。
理性を総動員し、衛兵本部に戻って急いで指示を出す。
可及的速やかに号外を発布すること。
この街の存亡がかかっているといっても過言ではない、よな?
何とか指示を出し、馬車に乗って少年を迎えに行く。
リオノールと名乗った森人の少年は、アッシュグレーの毛先に青が混じった特徴的な色合いを持っていた。
しかもサイドの一房も青。オサレか、オサレさんなのか?
その目も同じくアッシュグレーに虹彩の縁が青だ。
吸い込まれそうな大きくて澄んだ、少し目じりの跳ね上がった魅力的な目をしている。
聖獣の猫 バーマンを彷彿とさせるその目。
年の割に少し背が高くてほっそりとしている。
物怖じしない姿と堂々と主張する物言い。見た目の割にとても落ち着いている。
あの濃厚な気配と言い、途轍もない力を秘めていることは間違いない。
ならなぜ大人しく捕まった?
後で聞いてみよう。
屋敷に着くと簡単に説明をして客間へと案内させた。
門の詰め所で体感したあの濃厚な気配は今は微塵もない。
俺が謝罪をした時点でかなり抑えられ、商人たちの謝罪後にほぼ消えた。
それは言い換えればその力を完璧に制御できるということだ。
それがなおさら怖い。
なぜならその力を、あの濃厚な力を掌握しているという事と同義だからだ。
大きな魔力はそれを制御するのがとても大変だ。
間違えると簡単に魔力暴走を起こす。
それを、だ。
末恐ろしいが横暴ではない。怖さはあるが同じくらい惹きつけられる。
森人はほぼ樹海から外に出ないと言われている。
なら何故?
聞きたいことは山ほどある。
部屋に戻るとどっと疲れた。
まだ夕食まで時間があるから簡単に体をシャワーで流して着替えよう。
浴室に入って体を洗い流す。
ふぅ。相当汗をかいていたようだ。すっきりさっぱりした。
水魔法で体の水分を蒸発させ風魔法で残った水分を飛ばす。
普段着に着替えてソファに腰を下ろした。
その頃、リオノールは客間に案内されホッと息を吐いた。
そしてとりあえずミーシャとシルバに文句を言う。
「さっさと逃げるなんてひどいじゃないか、幻影で俺も一緒に連れて、ついでに記憶ごと消去してくれればいいのに」
「あまり目立つのは良くないだろ?それに縄で捉えられる経験なんて出来ないんだからいいじゃないか」
「そうだぞ、きっと主が後で知れば大喜びだろう」
リオノールは盛大に顔をしかめる。
2人の言い分が正論過ぎて。
だから面倒事は嫌なんだ。
まぁなんとか泊る所も確保できたしこれはこれでいいか。
明日は探索者ギルドと商人ギルドに行って登録をする。
それから素材を売るのと市場へ出店の手続きをする。
宿を決める。
後は市場で売るものを作らないとな。
市場で販売できるのは加工したものだけ。いわゆる素材そのものは販売できない。
薬草は売ってしまう。
ルシアーノにはポーションが不要だからだ。
息を吹きかけて高度な治癒を施せるのだから。
リオノールも蘇生以外の治癒ならそれなりに出来るが、今はルシアーノの器に入っているのでかなりの事ができる筈だ。 なので薬草を売ってお金を手にしよう。
市場で売るのは、だから樹海産の魔獣の革を使った何か、だな。
やっぱり武器かな。
いやしかし武器は使う人が限られる。
なら使いやすい短剣とかナイフにするか。日常的に使えるし、探索者以外でも買うかもしれない。
あ、懐中時計や腕時計なんてどうかな。
それがいい、そうしよう。
やることが決まってホクホクしたリオノールだった。
しかし時計は作るのも大変で、商品自体も大変貴重であることをリオノールは知らない。
だってルシアーノの塔には随所にこれでもかと様々な時計が置いてあったのだから。
世間知らずなのはリオノールだけではなくミーシャもシルバも同じ。
盛大なブラグがたった瞬間だった。
しばらくすると食事の用意が整ったと連絡があった。
案内されて食堂に向かうと着替えたヘルフが座っていた。
「部屋はどうかな」
「あぁほどほどに良い」
貴族の客間をほどほどと言ってしまうリオノール。
やはり比較対象はルシアーノの塔。豪華ではないが広くて何より快適だ。
使われている素材が全て樹海産なので貴重な品。
自動で快適な温度になる空調機、自動で明るさを調整する調光機能付きのライト。
家具は樹海に生えている樫の木で、濃厚な魔力を放出する。
毛布やシーツなどの布物は白蜘蛛の糸、いわゆる絹だ。
カーテンなどは最高級の綿を使っている。
絨毯は毛足が長く、自動で汚れを取る自動洗浄機能付き。
トイレも自動洗浄機能付きで、常に臭気を外に逃がす24時間換気も付いてる。
お風呂は24時間自動給湯で自動で最適な温度に調整する。細かな振動で体の汚れを落としてくれる。
ジェットバスも付いていて至れり尽くせりだ。
従魔であるエリスリオノール達は普段そうしたものを使う事はないが、当たり前に存在するので知っている。
知っているがその知識が王族の居住区より居心地がいいことは知らない。
ヘルフの屋敷はこのシェイパーの街でも指折りの豪邸なのだが、リオノールには違いが分からなかった。
周りを驚かせながら世間知らずの森人設定だから、で済んだのだった。
食事は豪華だった。
流石にリオノールでも分かる。
主の体も過度な栄養は必要としない。それでも人であるので美味しい食事は嬉しい。
とはいえ栄養はそこまで必要ないので少ししか食べなかった。
聖獣であるリオノールにとっても器のルシアーノに取っても量は必要ないからだ。
「もう食べないのかな?」
「あぁ充分だよ」
そう応えた。
「この後少し話を聞きたいんだが?」
「?構わない」
こうして食堂を出て居間に向かう。
部屋に入ってソファに向かい合って座ると執事が紅茶を入れてくれた。
やれやれだせ、と思ったリオノールだった
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