86.迷宮探索とは
第2章始まります
すでに星なし転移者は書き上げていましたので、通常通りの投稿になります
私は腕に嵌めた時計と、小指の指輪を見る。
君は今、何をしている…?リオ
その頃のエリーは
『ひゃっはー』
『久しぶりだ』
『楽しいぞ』
『あははっ』
迷宮の中で溢れた魔獣を…
蹂躙していた。
樹海にはイナゴがいない。もしいたとしても秒も生きられないだろう。樹海とはそういう場所だ。
樹海の外縁部のさらに外は人が訪れる場所だ。
しかし魔力素はそれなりに濃い。だからイナゴが発生する事がある。
樹海近くのイナゴは大きさが約1mで、群れは1000万匹ほどで群れる。流石にそれでは全てが食い尽くされる。
そうすると森人が困る。
だから、発生を観測すると即座に殲滅にかかる。
その知識があるので、覚悟を決めて待っていたら…
街に飛来したイナゴは小さかった。
赤ちゃんの群れかと思ったが、周りの人は顔を青くしている。
マジか…あれはイナゴじゃ無いだろ。だって10cmしかない。しかも少ない。たったの100万匹とはな。
過剰に備えてしまったか。
それでもこの街は迷宮の活性化で…助からないだろうな。
ま、跡形もなく消えることは無いな。再建は必要だが。
エリーも、もちろんルシアーノやシルバ、ミーシャにロイグリフも…
樹海周りのイナゴと同じだと考えていた。
大きさも数も盛大に勘違いしていたのだ。
もっとも、人間にとってはそれでも充分な脅威であるのだが。
なので、久しぶりに暴れられると喜んでいたミーシャやロイグリフ、シルバはガッカリしていた。
もっとも、ミーシャとロイグリフは城壁の上でイナゴを焼き払いまくっていた。
イナゴの群れは濃い魔力素を連れて来る。必然的に我々は魔力が溢れる。
人間には魔力の限界がすぐに来る。
しかし、奴ら聖獣は周囲と、何よりも主から魔力の供給を受けている。
だから魔力は枯渇せず、いくらでも使える。
人間の魔術師が魔力枯渇で倒れ込み、薬で補充しても出来ることには限界がある。
体力も気力も、薬では補充出来ないからな。
その点、奴らは体も丈夫だ。今も2人で城門の上からイナゴを駆逐している。
ま、抜けて来るヤツも沢山いるからな。
俺は屁の火炎放射器でノアの背後を焼き尽くす。超音波でイナゴの居場所は分かるからな!
しかも、ミーシャの子供たちが3匹ほど付いている。ノアと猫と俺に。
ミーシャも過保護だ。
子蜘蛛は俺たちの周囲2mくらいの範囲に蜘蛛の糸で結界を張っている。
その結界に触れたイナゴは絡め取られる。そして、この蜘蛛の餌になるのだ。
栄養価が高いからな!こんがりと焼けたイナゴもなかなか美味らしい。俺は要らないがな。
しかも、俺らの攻撃は蜘蛛の糸を焼かない。うまく出来ている。そうして街中に展開した探索者はイナゴを殲滅するべく駆け回った。
ガイルは大丈夫か、と見たら…どうやらアクセサリーや短剣、そして剣の防御が仕事をしていた。
元々、防御は捨ててそうだと増しましに付けていた防御が役に立ったようだ。
あの剣は敵を認識して斬りかかる習性がある。
短剣も同じだ。
ノアは小盾を右手に装備し、利き手の左手で剣を振るう。
俺の防御や子蜘蛛の防御もあるからイナゴは近寄れない。だから剣から魔法の刃を飛ばしている。
火魔法を剣に纏わせ、風魔法で火の斬撃を飛ばす。
うん、精霊王の加護は役立ってるな。
猫も口から火を吐いたり、前脚で猫パンチを繰り出しながら炎を飛ばしていた。
俺は尻から屁の火炎放射器だぞ!
イナゴの群れは最後尾がやって来たら次の街に移動する。カイラスに行くんだろうな。
それなりに数は減らしたが、まだまだ多い。
それに、な。やはり来たか。
『おい、シルバ。喜べ!魔獣が迷宮から溢れるぞ!』
主も嬉しそうだ。
ちなみに主は積極的には何もしていない。
大規模な風魔法でイナゴを誘導する程度だ。それを俺たちが火炎放射器のように焼く。
ちなみに、煩いからと眠らせていたディスタンシアは起こした。そして主の周りを縦横無尽に駆け回っている。
意思を持ってイナゴを斬る。
ただその小ささに
『つまらねー』
とほざいた。
だから
『なんだ、魔剣のくせにあんな小さなイナゴも斬れないのか?』
と煽ったら
『あぁ?我には物足りないだけだ。斬れるわ!』
簡単に乗った。
で、主の周りでイナゴを斬っていた。
どうやら遊んでいる。体の真ん中で真っ二つにするのがブームらしい。
普通に斬れよ!と思うが仕方ないな。
『主よ、ノアと迷宮に行こう!』
「ふふふっ予想外に早く迷宮に入れるね!」
喜んでる主を見てホッコリした。
今まさに、街は崩れそうになっているのに…
なんとも魔の抜けた会話だった。
「ミーシャとロイグリフも呼んだから、じきに来る。溢れそうだから先行しよう」
主もノリノリだ。
シルバなんてしっぽがゆーらゆらだぞ?
こうして、街をさらに蹂躙する予定の迷宮から溢れた魔獣を迎え撃つ。
視界にジルが映る。全身鎧を着ている。
「リオ!」
「街は任せた!俺たちは迷宮から溢れ出した魔獣を狩に行く!」
「待て、リオ!危ない。増援を!」
「待てないぞ!もう来る」
ジルを見ながら先に進む。
迷宮に繋がる地下通路は封鎖されている。しかし、その前にはたくさんの探索者がいた。
普段は迷宮に潜っている探索者たちだ。魔獣が溢れることを見越して、ここで持ち堪える気だ。
さらに俺たちの後ろからはガイルを始めとする沢山の探索者たちがこちらに向かっていた。
俺は合流したミーシャとロイグリフを見て
『俺らは突撃するぞ!』
「もちろんだ」
「楽しみだ」
いよいよ、だな。
閉められていた地下へ続く扉が弾け飛んだ。
雪崩を打って出て来たのはゴブリンの群れ。その後ろからコボルトにオーク、鬼や鹿、飛獣に猿もいる。
ブラックドックと呼ばれる犬もいた。全ては魔獣。
「わおぉーーーーん!」
シルバの遠吠えで一瞬動きが止まる奴ら。すかさずミーシャとロイグリフが切り込んでいく。
魔獣を蹴散らしながら、迷宮に足を踏み入れた。
*****
ジルベルト様からその話を聞いて青ざめた。いや、違うか。どこかで納得している自分がいる。
―リオが仲間たちと迷宮に向かった。そしてその行方は不明だ―
そうか、リオ…君は自分の守りたいものは守り切ったんだね…とそう思った。君は生きてるのか?
街はイナゴに蹂躙された。
どれ程の被害か確認が出来ていないのだ。衛兵や国軍、領軍の被害は軽微だ。
何と言ってもリオの剣がある。どうやら剣だけでもかなりの防御があったようだ。
カイラスのラウロア老師から急ぎの手紙が来て分かった。短剣にもアクセサリーにもだ。
だから買い占めた。それぞれに何が一つは行き渡るように。
その後にスカーレット様が買った蜘蛛絹のハンカチやポーチにすら防御が組み込まれていた。
さらには布や糸にも。
だから布はハンカチの大きさに切って、剣やアクセサリーが行き渡らなかった者に腕に巻くように伝えた。
糸も剣の柄に結びつけたり手首に巻いたり。
それで衛兵5千に国軍1万、領軍1万の上層部には行き渡った。
指揮官は死守しなければならないからだ。
ジルベルト様とスカーレット様にはリオがノリノリで作ったと言う全身鎧を着てもらった。
大きさはもちろん、自動調整でかつ軽く。繋ぎ目も滑らかで動きやすいと言っていた。
お守りしなければ。
こうして迎えたイナゴは街の家や商店、市場を破壊した。もちろん兵士たちにも被害は出た。
庶民も犠牲になった。家に入り込まれたらもう逃げ場はないからだ。
イナゴが次の街へと移動した後、街はその形を留めていなかった。
木造の家は壊れ跡形もない。
中まで食い尽くされた人はその身に付けていた衣服だけが残されていた。
口や耳、目から侵入した奴らは体内から食い荒らす。
どれほどの被害なのか見当もつかない。それでも、予想より遥かに少ない被害だと言える。
そんな時、ついに迷宮から魔獣が溢れ出して来た。
探索者たちが向かったが、それでも抑えきれなかったか。我々は疲弊していた。
住民を逃しながらわれわれも街を捨て、撤退を余儀なくされた。
ランカウイの家ももうダメだろう。
最後の生きている住民を守りながら、衛兵部隊も撤退した。
ジルベルト様が住民の一部は王都へ連れて行くと言ってくれた。
同じランカウイ伯爵家が管理する街では、シェイパーの住民な賄えない。
もっともそれなりに被害が出ていたから、そこまで多くの住民はいない。いないが、ジルベルト様の好意を受け入れた。
王都までは国軍に守られての旅だ。1ヶ月ほどかかる。
自然、体力のある者に限られるだろう。
私は彼らを見送ると、イナゴの被害を受けなかったカイラスとは反対にある街に向かった。
衛兵部隊と領軍も一緒だ。
その街はスカイプ。辺境の街とあって堅牢な城壁に囲まれている。
私たちランカウイ伯爵家の別邸がある。また、当然だが衛兵の建物もある。
まずはそこに行く。衛兵たちはスカイプの衛兵本部に、領軍はランカウイの別邸に向かった。
シェイパーに何かあれば、ここが拠点となる。人をやって受け入れ体制は整えていた。
こうしてスカイプに着いたのは、シェイパーの街の騒動から5日後の事だった。
ひゃっはー!
誰よりもエリーがはしゃいでいたとかいないとか…
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