79.ジルベルト・アルバサルク
私はアルバサルク国の第3王子として生まれた。
上には兄が2人と下には弟と妹。
長兄が王太子として、次兄は長兄の補佐として育てられた。
私は軍務を司る国軍の兵士として従軍し、隊長に登り詰めた。
それなりの魔法とそれなりの物理と、合わせた剣で敵を屠る。
国境に駐在していた時期もあるが、周辺は落ち着いている。だから迷宮周辺の監視をするために、シェイパーという街に駐在している。
王都と行き来をしながら、迷宮やその周辺を監視する。
迷宮の魔獣は外の刺激によって溢れ出すことがある。
魔獣の大規模な行進や、飛獣などの飛来により引き起こされることが多い。
だから迷宮都市周辺の監視は必要なのだ。
シェイパーに赴任してそろそろ半年という頃。
不思議な出会いがあった。
国から支給された剣がそろそろヤバい。ヤバいと思いながらも使っていたら、運悪くアイアンリザードと行きあってしまった。
その表皮はとにかく硬い。
持っていた剣も鋼に刃の部分はミスリルの丈夫な剣だったが、やはりダメになった。
王都に帰らなければならない。予備の剣はあるが、何か売ってないか?
無いと思いながらも市場を見に行けば、とても質のいい短剣が売っていた。
なんと素晴らしい。
これが剣だったら良かったのに…そう思って剣は無いかと聞けば、取りに行けばあると言う。
まだ少年の店主はすぐに取りに行ってくれた。
買わないかもしれないと言うと、当たり前だと帰って来た。
剣が持つ人に取って大切だと分かっているのか。そして持って来た剣は素晴らしかった。
ミスリル100%…マジか。
普通ミスリルの剣と言えば刃の部分にだけミスリルが使われた剣のことだ。
それがまさかの…だ。
値付けに困っているとランカウイ伯爵家のヘルフリッチ殿がやって来た。
…店主は彼に値段を聞いている。いいのか?人任せで。ひとまず金貨10枚を払った。
その柄はとても良く手に馴染む。なんだか凄いぞ!
リオと名乗った少年店主に挨拶をして王都に帰った。また会いに行こう、そう決めて。
その後、何度も顔を合わせた。
大きくて目尻が跳ね上がった魅力的な目は、真っ直ぐで。多分、私の事も知らないだろう。
1人の人として向き合ってくれるリオとの会話はとても楽しい。
売っているものも全て素晴らしい物ばかりだ。
そんな折、探索者ギルドで悪質な依頼の押し付けや襲撃があったことが判明した。
違う組織とは言え、国の機関だ。いつもは王都にあるグランドマスターが出張って来た。
彼はランカウイだから、里帰りでもある。そもそも、このシェイパー周囲の土地を収めるのがランカウイ伯爵家だ。
辺境伯であるので、実際は侯爵家と同格。
隣のカイラスは魔導都市とも呼ばれ、スナイパル侯爵家が収める。
シェイパー自体は迷宮で成り立っている街だが、アルバサルク王国からするとなかなか重要な街だ。
探索者ギルドの不始末により、無期限でギルドが閉鎖された。新規の依頼受注と紹介はできなくなった。
もっとも迷宮都市だから、それで即探索者がいなくなることはない。
無いが、影響はあるのだ。
そんな折、かねてから警戒していた魔獣の活発化が報告された。ボアの群れとジャイアントトードの群れだ。
どちらも平常時には考えられない数や大きさだった。
これは、近いな。
すぐに迷宮に潜らない探索者を外に出さないための公示が出された。
素晴らしい案だ。そして、備えを進める。
それがリオの剣だ。なんと、1000本も作れると言う。
リオが?あの細い体で…?
でも期待してしまう。
そして、予想以上だった。薬草まで買えたのだ。それを聞き、せめて短剣だけでもと買いに行けば、剣もあると言う。
買った。何故かなめらかな石けんも買った。
これならこの街を守れる。そう思ったがリオにそんなのは幻想だと言われる。
分かっていたつもりだ。しかし、確かに迷宮も影響を受ける。磁場の乱れは魔力素を高めてしまう。
ならば、迷宮都市であるシェイパーこそ、最大の被害を受けるだろう。
一緒に守ってくれるかと聞けば、守りたいものだけだ守ると言う。
隣のミクロネシアンか?
しかし、その目は曇りがなく真っ直ぐで。守ると言ったなら守り切るんだとそう分かった。
ならば良し。
私は出来ることをするまでだ。
衛兵本部で、私にも薬草を売ってくれと頼むと薬も作れると言う。
作って欲しいと頼めば、その場で作るでは無いか!
しかも、なんと透明できれいな薬なんだ。
青みがかったそれは、最高品質の欠損まで治せる薬だった。
思わずリオを抱き上げて高く上げる。リオは軽くて、驚いたような顔が子供らしくて可愛かった。
降ろせと言われたので降ろしたが、腕に抱きしめた。
すると何故か頭を撫でられた。それが嫌じゃなく、むしろ嬉しかった。
この子は相手が誰であろうとも変わらないのだと。
それからヘルフが頼んだ豪華な食事を食べた。奮発したな!もっとも1番食べて欲しい筈のリオはほとんど食べず、従魔に上げていた。
更にはあのミクロネシアンにたくさん食べろ、と渡していた。
母親か?
そんなリオにほっこりしたのだった。
食べ終わるとリオはまた市場に戻って行った。
我々は顔を見合わせる。
「リオの見立てでは、かなりの被害が出るな」
「そうだな…まずは薬を作るか、防御を固めるか」
「しかしの、イナゴの魔獣は家の壁さえも壊して侵入する。防御は無理じゃな」
「ならばどうしろと?」
「魔法じゃろうの」
そうか、イナゴは脂分が多くてよく燃える。
「しかし、カイラスは自分達の街を守るだろう?」
「そうじゃの…魔法職を侵入してくる城壁に集めるしか無いじゃろ」
「纏わりつかれたらヤられる」
「魔法職の周りに防御の探索者を配置するか」
「剣を振り回すのは危ないな」
「やはり魔法職だな」
ここは 迷宮都市だけあって魔法職も少なくは無い。しかし、本職の魔術師はカイラスに集まっている。
今いる探索者を逃さないようにするしか、ないな。
「迷宮に潜ってる奴らにも、退避命令を!」
「はい!」
「薬と、武器。防具もだ。確かリオの店の前が防具屋だ」
それぞれが本格的に動き出した。
いよいよ、イナゴの大発生を発端とした魔獣の大発生は…近い。
その頃、リオノール(エリー)はノワールと市場に戻っていた。
「リオ、この街はどうなる?」
「さあな。俺には分からん。無くなっても不思議じゃ無いが…主が関わったならば、まぁ無くなりはしないだろう。時間はかかるが復興はする。ただ、迷宮次第だろうな」
「ルシアーノ殿が?」
「直接の手伝いはしないぞ?お前たちの街だ。余所者の出番じゃ無い」
「…俺のせいか?」
「いや、ノアのしたいようにと言ったのは俺だ。そして俺にどうして欲しいか聞いたのは主だ」
そんな会話をしていた。
市場に戻る。
幕を開けた。ノアは単語の練習。俺は盾を作っている。いわゆる小楯だな。体に纏わりつくイナゴを抑え込める。
ミスリルなら沢山あるからな。
念の為、ノアにはヒメハルコン100%の小楯を作ろう。
なかなかいい鉱物だな。
柔らかいのに硬い。しなやかなのに強い。そういうのはいい武具になる。
どうせだし全身鎧でも作るか!
ノリノリのエリーだった。
午後はポツポツと石けんやアクセサリーが売れた。
俺が小楯を作っていたら、向かいの店にヘルフとジルが買い物に来ていた。
なんか店の親父が直立不動だ。笑えるな!
密かに笑っていたら親父と目があった。なんか涙目だが知らん。
その時の俺は小楯に飽きて、盾と全身鎧を作っていた。
なかなか楽しいもんだな。
「リオ、それは…盾と鎧か?」
「そうだぞ!今日は暇だしな。そろそろ外に出るが」
「その盾は売り物か?」
これか、売るほどでも無いが…暇だからと結構作ったな。
「売ってもいいぞ?ノリノリで作ってたからな!」
こうして小楯に盾、全身鎧まで買ってくれた。
ジルはいい奴だな!
「ジル、沢山ありがとな!これはオマケだ。屈んでくれ」
屈んだジルにイヤーカフを付ける。
「防御と薬を少し、噛んだり、塗り込むだけでも効果のある薬草も入ってるからな。いざという時に使えばいい。後は着火剤だな。それから、防御に体の周りに空気の層を作って燃やす機能も付けた」
ジルは目を丸くしてからまた俺を腕に抱き上げた。
顔を寄せるジルの熱が感じられる。だからおでこを合わせた。守りたいものは守るぞ?
コウモリに二言は無いのだ!
守りたいものは…ノアとヘルフとじいじとジルと…ソマリもオマケでいれるか!
宿も入れとくぞ、あ、ガイルもか
意外といるもんだな…
探索者ギルドのマスターマロウは入っていない…
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