77.石けんを売ろう2
僕はどうなってもいい、ずっとそう思っていた。
でもライは?僕が傷付いたら、ライも苦しそうだった。
僕が死んだら?
ライは…。ライが死んだら、僕は生きる意味を失う。
だってライは僕の正しい姿をした半身だ。
虐待されることのない正しい姿。
それを失うなんて耐えられない。僕が魔力を押さえ込まなければ…ライを失う。
それなら絶対に失わないように…。
ライを探して彷徨った手は確かに握られた。温かい…そうか、僕は、僕は…。
だから強くなりたくて剣を売って欲しいと言った。
でもリオは断った。
剣を振る資格が無い。そうだ、僕には剣の心得はない。
ならば、今からでも。
目標が出来た。僕にとっての目標はそのまま生きることだった。でも、これからはライの為に生きよう、それはライを悲しませない為。
結局は僕の為になる。
僕が穏やかだとライも穏やかだ。きっとライの為…それは自分に返ってくる。
ならば、新しい目標に向かって進もう。
「ライ、これはお前のだ」
ライにもペンダントが手渡された。
違う匂い…これは何というか、情熱的な匂い?
「お前たちに足りないもの、だな」
分かるような気がする。僕たちには圧倒的に生きる気力が足りない。
やっぱりリオは凄い!
大きな狼をその細い腕で軽々と抱えて首に顔を埋めている。なんだかその仕草が子供っぽくて…笑えた。
そうだ、僕たちはまだ13才なんだ。
心が軽くなった気がする。
「ルイ、最近は調子が悪かっただろ?早く拠点に帰れ!時間は無い。魔力を押さえ込めよ?」
「ん…」
リオは狼を抱えたまま、僕の手を狼の腹に当てる。ライの手も。
すると狼からごく細く絞った魔力が流れて来た。
『俺の魔力に乗せて細く動かせ!』
喋った?!
『おい、聞こえてるのか!』
僕は慌てて魔力を、流れてくる細い魔力を全身で感じとり、自分の魔力を乗せる。細く細く、ライを傷付けないほどに細く細く…。
額を汗が流れ落ちる。
抑え込め!自分のものに…細く、細く…。ふわりとライの魔力が乗った。
温かいライの魔力は僕を包み込むようで、それに勇気をもらい流し込む。細く、細く。
『まぁまぁ、だな』
ふと魔力の流れが途切れた。
額にも背中にも汗をかいていた。でもなんというか、やり切ったような爽快感がある。僕にも出来た!
「練習しろよ?そばに一緒に練習出来る相手が居るんだ!すぐだぞ」
そうだ、僕にはライがいる。頷き合った。
「石けんのお金…」
「おう、各50個だな。200個で、値段は…」
マズイ。値段どうするか?
そこに救世主が来た!
「ヘルフ!値付けを相談だ。これはいくらがいい?」
相変わらず人任せなコウモリだった。
「リオ、これは…香り付きの石けん?なんていい匂い。しかもなめらかだ」
ヘルフは少し考えて
「銀貨2枚、取れるな」
双子の見立て通りか。
「1個でか?」
「あぁ」
いや、石けんより高そうなリボンで結んである…が、いいのか?
「その、リオ…リボンは…」
「ただの蜘蛛の糸だ!」
「…銀貨3枚だな」
「なんで蜘蛛の糸が銀貨1枚なんだよ?」
「…リオ、それでも破格に安い。大丈夫、買う、よ」
ノアは手元の紙に
銀貨3枚が200個
銀貨6枚が100個
銀貨600枚
金貨6枚
と書いて顔を上げる。
計算もバッチリだな!頭を撫でるとノアは頬を染めて
「金貨6枚…」
双子は躊躇なく支払った。
沢山買ってくれたからな!オマケはアレだ。
「ルイ、ライ…石けんはコレに入れたぞ!」
いつものイヤーカフだ。
ルイとライと向かい合うように付ける。
「寝る時も、アクセサリーや時計、短剣も外すなよ!」
リオが言いたい事が多分、分かった。
僕の調子が悪いこと、アクセサリーや時計に短剣まで外すなよと言ったこと。
拠点であるカイラスに帰れと言ったこと。巻き込まれるのは必死なんだろう。ならば、備えるだけだ。
ライと兄様たちを守る為に。
僕は
「リオ、落ち着いたら、また来る…」
「おう!」
伝えようとしている事は大変な事なのに、リオは全くいつも通りだった。
当たり前にまた会えると思っている。嬉しかった。
そして、初めて生きたいと思った。
ふと僕の肩にふわっと何かを感じた。
そこには真っ白なふわふわがあった。えっと…綿?
「何かあったら連絡を取れるように、な」
ライの肩にもいる。
「聖虫の子供だ!ペーペーだがな」
聖虫にペーペー?
「ぶはっ!」
思わず吹き出した。
リオはいつだって斜め上だ。それがとてもおかしかった。僕は初めて声を上げて笑った。
聖虫の蜘蛛と子供たちは魔力糸で繋がっている。
どこで何をしているか、や伝えたいことも伝えられる。それが魔力糸の役目だ。
また、魔力糸で引き合えば、仲間の所に飛べる。
緊急時には蜘蛛の糸を展開して結界も張れる。簡単な治癒魔法も使えるのだ。
聖虫の子供はまだ半人前。
大きさもせいぜい50cm程度だ。それでも人よりは遥かに強い。1匹ミーシャが渡したのなら、それでいい。
双子は
「「これのお金…」」
見事にシンクロした。ペンダントか、別に金は要らんがな。
「金は要らん!また何か買うなり、人に宣伝してくれ!」
「「…分かった」」
やっぱりシンクロしたぞ?
「そろそろ店を開けるからな!早く帰れ」
ノアの言い方は追い出すようだけど、店の外に人の気配を感じて言ってくれている。
だから嬉しかった。
リオは言葉を飾らない。
「「また来る!」」
最後までシンクロして帰って行った。
ふー抱き上げたままのシルバに顔を埋める。くっ癒しだ…もふもふがこんなに癒しだとは。
主のことを笑えないぞ!
「しかし、な。シルバのもふは凄いな!」
『ふふふっだろ?見直したか!』
「あぁ、1日いちもふは必須だな」
楽しそうなリオだった。
幕を開ける。
そこには冒険者と思われる女性4人組が立っていた。
「ん、客か?」
「そうよ!短剣を見に来たの」
「あぁどうぞ!右側にある」
ぞろぞろ入って来た。
「わぁアクセサリーよ!」
「ねぇ凄くなめらかな石けんもあるわー」
賑やかだ。
俺は膝の上にシルバを抱えてもふる。
チラチラと女性たちの視線を感じるが無視だ!シルバはもふらせないぞ。
「短剣が欲しい…私は2つ」
「私も2つ」
「私は1つ」
「私も1つ」
「小金貨10枚だ」
「安い、な。あのアクセサリーは?」
「石が、中に付いてる小さいのは銀貨5枚、他の指輪は銀貨7枚、それ以外のアクセサリーは銀貨9枚だ」
「安いわ!私はネックレスを買う」
「私はバングルと指輪」
「指輪も素敵ね!」
わぁわぁきゃあきゃあと言いながら
短剣6本
ネックレス2個
バングル4個
指輪大2個
指輪小4個
石けん8個
売れた。
ノアは手元の紙に
短剣 小金貨10が6本 60
アクセサリー 銀貨9が6 個 54
石けん 銅貨4枚が8
銀貨7が2個 14
銀貨5が4個 20
銅貨8枚が4 16枚が2
小金貨60枚
銀貨20枚と68枚
84枚
銅貨32
「会ってるぞ!」
一人一人の金額を告げて金をもらいお釣りを渡す。
普通の箱に入れて木の繊維から作ったリボンを巻いて渡した。
ミーシャの糸は貴重だと散々言われたからな!
「可愛い包みね!」
「おう、ありがとな!」
手を振って帰って行った。
「石けん売れた…」
「だな!」
ノアが俺を見てもじもじしている。
「ノア…その」
なんだ?じっと見ていると
「俺に、も…香り付きのペンダント。俺用の…欲しい」
なんだ、そんなことか!もちろん作ってあるぞ?
カバンから出してノアに渡す。ペンダントと瓶だ。
「もちろん、作ってあるぞ!ノア用の香りだ」
ノアは蓋を開けて香りを嗅ぐ。
「これは…リオ、凄く好きな匂い、だ」
だろだろ?
「オレンジとベルガモットだな…スッキリと爽やかで、目が覚めるような香りだ」
ノアの頬が色付く。
早速首にかけて一滴たらした。ふわりと柑橘系の香りが漂う。
嬉しそうに笑った。
「俺には無いのかと…」
「まさか!ノアは仲間だ。1番に作ったぞ」
ノアはオレの頭を撫でた。俺の方が遥かに年上なのに、変な奴だな。
ま、撫で撫でも悪くは無いが。
少し、ちょっとだけ…頭を撫でられて嬉しかったのは内緒だぞ?
ツンデレってるエリーだった
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