71.ネオ・エリクサー
時間は少し遡る
俺は箱庭で目を覚ました。
隣にはもふもふの狼にもこもこの蜘蛛、そして狼越しにリオだ。
違うか、コウモリのリオを抱いているリオの主だ。
手を伸ばしてコウモリのリオを撫でる。
温かい。
羽が動くと手を叩かれた。
『気安く触るな!』
羽繕いを始めた。なんだかそんなリオを見て心から安心した。
安心して両手で抱きしめたら
『ウザイ!』
暴れられた。無視して頬ずりすると固まった。
だから思う存分、その羽とふわ毛を堪能した。
しばらくして離すと、せっせと毛を整えている。そんな姿も愛らしい。
「エリスリオノール…」
ピタっと止まった。
その白目のない目で俺を見る。あぁリオの目だ。全てを見透かすような、透明で魅力的な目。
『主か…全く』
それだけ言ってまたせっせと羽を整える。
なんだかおかしかった。やっぱりリオはリオだ。それが人じゃなくても。うさぎじゃなくても。
リオはリオだ。その事に安堵した。
虹色に輝く羽はすっかり元通りで、倒れていた大きさより少し大きくて。
今度はそっと両手に包むとその体を全部確認する。嫌そうに体を捩るが無視して観察した。
お股も確認だ。うん、可愛い鈴さんがいた。
漸く安心した。
リオは狼と蜘蛛を見ると
『お前らも治癒魔法を使ったのか?へんな魔力が混ざってる』
『変とか言うなよ、全く』
『そうだぞ?』
『じゃあ不格好?』
『『…』』
ぴょんと飛ぶと狼の頭に着地し、羽で頭を撫でた。狼は気持ち良さそうに目を細める。しっぽが俺の足を叩く。
その後は蜘蛛のそばに降りて羽に包み込んだ。僅かに隙間から見える蜘蛛の脚は弛緩して伸びた。
『まぁ、たまにはお前らの不格好な魔力もいいだろう』
リオは空気が読める系のコウモリなんだな、とノワールは思った。
そんなノアを見ていい子だなとミーシャとシルバは思った。空気を読まないというか、読む気がない。それがエリーだ。
細やかな気遣いをするのに、空気を読まない。そのギャップにたいていの奴が惹きつけられる。
全く…な。
そう思いながらも、ミーシャもシルバも。エリーが大好きだった。
エリーの温かい羽に撫でられると蕩けそうになる。
エリーの温かい羽に包まれると幸せな気分になる。
なんだかんだと面倒見がいいのは、聖獣たちの誰に対してもで、あのロイグリフだってエリー大好きっ子だ。
好きすぎてウザくて避けられてるのだ。
俺はリオを見て安心すると、リオの主が起き上がった。
そして、あっと思う。違う、リオの姿じゃない。
コウモリのリオばかり見てたから気が付かなかった。
その人は20代前半くらいの、長い銀髪をした美しい人だった。冷たく見えるほどに整った小さな顔。
これがリオの主、か?
そう思ったら納得した。
全く敵わない。
容姿も能力も、器も全て。
そしてなんだか嬉しくなった。
「リオの主は、ルシアーノ殿はこんなにも素敵なのだな…良かった。さすがはリオだ」
そう口にした。
ルシアーノ殿は驚いて俺を見る。その顔は冷たさのかけらもない、純粋で素直な表情で。
その姿をとても幼く見せていた。
ふっと笑う。まるで雪解けを迎えた春の陽射しのような…温かい笑顔だった。
俺は目が離せなかった。そうか、そうなのか。
リオが全身全霊で慕うのも、リオを慈しむルシアーノ殿も。
とても温かい。
輝くばかりの容姿も相まって、心が高揚した。
『当たり前だろ、俺が仕える主なんだからな!』
ドヤって胸を張るコウモリはただただ可愛いだけだった。
その後は少しルシアーノ殿と話をして、元の森に送って貰った。ルシアーノ殿は
「僕はまたしばらく塔にいる。いよいよとなったらまた戻るよ」
と言って、リオはコウモリのまま元の体に入った。
その際にリオが
「爆発で散らばった鉱物を亜空間にしまっておいたからな、後で分けるぞ」
…あんなケガをしながら鉱物を保管した?
やっぱりリオはリオだった。
そこからはまるで何事も無かったように、また薬草を採取し帰って来た。
薬草とは関係無さそうな花を摘んでいたが何だったのか?後で聞こうと思ったノワールだった。
そしてギルドに納品して、宿に戻るとあのネオ・エリクサー作りだ。
意識を失うように目を瞑ったことは覚えている。
目を覚ますとベッドに寝ていた。体には首元まで毛布が掛けられている。
そして毛布の中にはもふもふした狼がいた。
リオを探すと小さな背中が見えた。何かの作業をしている。
あ、薬…。眩いばかりに輝く薬。俺の鑑定では劣化版エリクサーと出た。
焦ったのと安堵したのと。目を瞑ったら寝てしまったようだ。
毛布から狼が顔を出す。俺の匂いを嗅ぐと
『シルバだ!名を呼ぶことを許そう』
驚いた。偉く渋い声だったから。
「シルバ…?」
問い掛ければしっぽがわさわさ揺れた。そのままベットを降りるとリオの足元に丸まった。
「大丈夫か、ノア」
背中を向けたままのリオに聞かれた。
「あぁ。ベットに運んでくれたのか?重かっただろ」
「風魔法で浮かせてたからな、それほどでも無い。ってかノア。お前もっと食べろ。見た目よりガリガリだぞ」
骨太なのか、見た目はそんな風に見えなかったが…ノアは軽かった。
「そう、だな。リオの料理を食べてたら太りそうだ」
「まだまだ太った方がいいぞ」
そう答えてフラスコを机に置くと振り返った。
リオの置いたフラスコは虹色に輝いて、神々しい紫になった。
「それは…」
超万能薬だった。
俺の目線に気がついたリオは
「あれば便利だからな!」
便利だからでエリクサーを作るリオはやっぱり凄い。
ミーシャもシルバもエリクサーなんて作れない。むしろ作れる聖獣はエリーと他に数体のみだ。
ノワールはそろそろ人間をやめるんじゃないかとミーシャは思った。
こちらを見るとその目で
「大丈夫だ、ネオ・エリクサーだって充分だ。ただな、蘇生はエリクサーにしか出来ない。万が一に備えて、ノアの鼓動が止まったら自動でエリクサーを投与するような仕組みを構築したぞ!」
またとんでも無いことをしれっと言うエリーだった。
ノアは単純に自分を守ろうとしてくれるリオの気持ちが嬉しかった。
『エリーはノワールが可愛いんだろう』
無駄にいい声で蜘蛛が喋る。
俺をチラリと見ると
『ミーシャだ。名を呼ぶことを許す』
「ミーシャ…」
何気にノワールは聖獣に人気だった。
聖獣が例え略称でも名を呼ぶ許可を与える…それは人として認めた証
エリー 俺っちヒメハルコンいっぱい保管したぞ
ミーシャ 俺もだぞ!
シルバ すやぁすやぁ…
爆睡してるシルバだった
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