64.ギルドの公示
ルシアーノとリオノール(エリー)が一生懸命に剣を作っている日の前日。
探索者ギルドから公示がなされた。
「ー2日後から当面の間(期限未定)探索者ギルドは新規の依頼受注及び斡旋を中止する。災害に備える為、緊急においては、衛兵組織と連携をすることをここに公示する。備えよー」
一見すると、何のことやら…だ。脳筋集団の探索者なら尚更。ただ、この公示を見て違和感を感じるものもいる。
これは町に止まれと言ってるのか、と。
まさにその通りで、わざわざ備えよと付け加えたことでも分かる。何かしらの災害が近い、と。
その何かしらのはいわゆる天災ではない事も。予想できる災害ならば魔獣の横断か、またはアレの飛来くらいだろう。
聡いものはそうピンと来た。
もっとも聡くないものの方が圧倒的に多い。
なので、街中ではこんな会話がなされていた。
「なぁ、なんかギルマスの名前でギルドが出してたよな」
「ん、あぁコージだな」
「おうよ、そのコージってやつだ。で、あれは何だ?俺たちは衛兵になるのか?」
「おい、お前のこの極悪顔で無理だろ!」
「あんだとーごらっ!」
「ブハッ違いない」
こんな風で、そもそも何を話していたのかを忘れるのだ。大抵は。
そしてやっぱり脳筋なガイルもなんだかよく分からんな。どうしたらいいのか。と思った。
ふとリオなら答えを教えてくれそうだと考える。自然と足は市場に向いた。
市場の中の中央寄りの角にその店はある。
少し奥まった場所に机を置き、見やすいように後ろは少し高くなっている。
机の前側には布が垂れ下がり店の名前が書かれている。武器は置いていない。あるのは短剣と時計とアクセサリーだ。
しかし、剣も売っている。ガイルはその剣を買った。それのお陰で命がある。あの剣はとんでもない代物だ。間違いなく。なのに、店主であるリオは特別なものを売っているという認識が皆無だ。
びっくりするくらい皆無だ。頭は悪い方だと自覚している俺ですら分かる。
その店に足を向ける。預けた剣のことも聞きたいからな。
いつものように椅子に座ったリオは剣を作っていた。そして、あの孤高の存在であるノワールが当たり前のように寄り添う。
黒の騎士と呼ばれるノワールはその見た目の不気味さ(全身黒くて目元しか見えない)と威圧感から、避けられている。しかも、どうやらギルドの受付に無理やり依頼を押し付けられていたとか。
何やら機嫌が悪そうだと思っていたが、それはケガによる苦痛ゆえだったようだ。
その孤高の存在がパーティーを組んだという。しかも相手はまだランクの低い子供。
良くも悪くも目立っていたからな。その話はギルドでも話題になった。
その相手がまだ子供のリオだった。
市場に店を出すリオ。商業ギルドにも加入しているのだろう。どうやら午後早くに店を閉め、探索者として活動しているらしい。
売っているものも個性的だ。そもそも時計なんてかなり珍しい。
それが短剣やアクセサリーと並んでいるのだから尚更だ。
そんな店で急きょ、手に入れた剣がまた凄かった。それなりに稼いでいる俺には高すぎる金額では無かったが、それにしても、だ。
ツラツラとそんなことを考えてリオを見ていた。ふとノワールが顔を上げた。俺を見て軽く頷くと
「リオ…」
話しかけた。ん、そう言えば…何やら威圧感が薄れたか?リオといるからか分からないが、明らかに表情も穏やかだ。不思議なもんだな、とまた思った。
「ん、ガイルか?どうした…あ、剣か」
そういや主に渡してそのままだったな。
(主…例の迷宮産の剣はどうした?)
(あぁ呪いだったな。直してある)
(なんて言う?)
(そのまま言えばいい)
(分かった)
ポーチの中に預かった剣が確かにあった。しかも当たり前だが完璧だ。いや、むしろ性能をあげてるじなないか。まぁこっちも時限措置だ。
「ほら。呪いだったぞ。お前、嫌われてんのか?」
相変わらず空気の読めないリオノール(エリー)だった。
「う、いや…そんな事はないと思うが」
「そうか、ほら…」
「おうってなんかキラキラしてるぞ?」
当たり前だろ?世界一の魔術師が手を加えたんだぞ?迷宮産だか知らんが、主の錬成に勝てるわけが無い。
「当たり前だろ。ちゃんと直したんだから」
ノワールはすでに打ち直したと言っても過言では無いと思った。明らかに性能も上がっている。
でもリオだし、と思っていた。
「そ、そうか?で、いくらだ?」
ん?という顔をするリオノール。ノワールは気が付いて
「修理したから、金を取らないと」
「そうなのか?うーん…いくらだ?」
「…」
ノアにも分からなかった。
ガイルも首を傾げている。分かるわけないよな、脳筋だし。
大概、失礼なコウモリだ。
そこに救世主が現れた。
「やぁ、リオ」
国軍の兵士と言っていたジルだ。
「おう、ジル。どうした?」
店に来るのだから何かを買いに来たのだろう、とノワールは思った。リオは何故かキョトンとしている。それが可愛いと思ったのだった。
「ちょうどいい、なぁ教えてくれ!」
「私に分かる事なら。なんだい?」
「剣の修理とは幾ら貰えばいい?」
色々と省略し過ぎなリオノールだった。
「迷宮産の剣にヒビ、でリオが直した。幾ら貰えばいい?」
ノワールの拙い説明にジルベルトは目を白黒させた。そもそも迷宮産だからヒビなんて普通入らない。
そして、それを直した?
マジマジと目の前の小さな子供を見る。特徴的な色の魅力的な目だ。真っ直ぐで澄んだ目は困っていると言っている。
迷宮産の剣を直せるのに、いくら取ればいいか分からない、のか。
そのギャップが何故かたまらなく可愛らしい。
ジルベルトは優しい気持ちになって
「そうだな、それは金貨5枚ほどだろう」
えっという顔をする。高い、とか言うんだろうな。そもそも壊れない筈なのだから、当然修理もできない筈だ。それを理解していないのか、全く不思議な子だ。
リオは悩んで
「なら…うーん」
チラッとノアを見る。頷かれた。
「金貨5枚でいい」
「だそうだ!」
「おう!」
ガイルはお金を払った。




