56.ガイルの憂い
俺はA級探索者のガイルだ。鉄のガイルとか呼ばれている。こっ恥ずかしい二つ名だが、割と気に入っている。
俺は剣士だ。ガタイの大きさと、重装備を見て防御系だと思われるが、剣士だ。
周りからしたら重装備だが、俺は全く気にならない。なんせ筋力上昇のスキルを持っている。しかもパッシブだ。常に入っているスキルは好きに切ることが出来る。
実は小楯も持ってるが、俺の腕力に耐えられる盾がなかなか無い。たまたま迷宮でドロップした小楯は小さいが、俺の力でも割れもせずヒビも入らない。
だから装備している。
重装備も俺が全力で振り回して敵に当たっても、殆ど傷が付かない。これも迷宮のドロップ品だ。
もっとも、臨時で組んだパーティーに餌として置いていかれ、死にそうになりながら倒したボスからドロップした。
喜んでいいのか悩ましかったが、ブツは良かったからな。その臨時で組んだパーティーは、俺を放置した後に迷宮で魔獣の群れに当たって死んだらしい。
俺は基本、ソロだ。好きでソロな訳じゃない。周りが俺の動きに合わないのが原因だ。俺は最前衛で剣を振り回す。いっそ斧にしたらとよく言われる。しかし、俺は剣士だ!
だから斧ではなく、剣で斬りたい。
この間、市場で不思議な子供に合った。俺を見ても怖がらない。片目は傷で潰れている上に、ガタイがいい。それだけで怖い要素は満載だ。
だからか、子供には大抵泣かれる。
なのに、あの店主は俺の顔が見えてないのか?ってくらい、普通だった。隣に座るノワールを見て、彼が?と驚いた。
黒の剣士と呼ばれる不気味なノワールはある意味有名だ。
大抵、眉間に皺を寄せて威圧感増し増しで歩いている。孤高の存在という認識だ。
顔のほとんどはマスクで覆われているが、その薄い水色の目はとても澄んでいる。
だからか、体目当ての男や女に良く擦り寄られていた。明らかに嫌がっていたが。
そのノワールがパーティーを組んだと風の噂で聞いた。しかも相手はまだ子供。
ノワールと子供が余りにも釣り合わなくて、ガセだろと思っていた。そのノワールが店主の隣で大人しく座学をしていた。
心なしか穏やかな顔で。
とても驚いだが、それよりもアクセサリーが欲しい。
「いらっしゃい!」
「ここに変わったアクセサリーがあると聞いた」
「何が変わってるか分からないがあるぞ」
俺はアクセサリーを見てから、ネックレスを指して
「俺が付けられるように出来るか?」
と聞いた。
「出来る。鎖を長くするか、チョーカータイプにするか選べる」
「チョーカー?」
聞いたことがない。あいにくとオシャレには疎いのだ。
店主はカバンから何かを取り出す。
「こんな感じだな」
俺はマジマジと見る。
「そんな感じのでサイズを大きく出来るか?」
これなら俺でも付けられそうだ。
「ん?サイズは自動で調整するから必要ない」
「はっ?自動で?」
「そうだぞ?便利だからな」
「…」
便利だからで出来るのか?魔法は苦手だから分からん。
「着けてみるか?」
俺は頷くと店主が首に回して着けてくれた。すぐに短剣の刃に俺を映してくれる。なんで短剣に姿が映るんだよ…?
「見えるか?」
「お、おう…」
そもそも短剣の刃に姿が映せることが有り得ないのだが、何でもなさそうな顔をしている。
そこに映った俺はなかなかサマになっていた。
「こ、これはまた凄いな!」
俺はチョーカーの自動調整と短剣の刃に姿が映ることを指して言ったが店主は嬉しそうに
「だろ?似合うぞ!ワイルド感増し増しだ」
と答える。なんか、意味を分かってないのか…?まるでごく普通に対応された。
「そ、そうか…」
俺はなぜか顔を赤くなるのを感じた。なんて心地よいんだろうな、この店主は。
俺はチョーカーを外すと
「これが欲しい」
「おう、今用意するからな」
店主は材料を出すとサクサクと作った。作りながらブツブツと
「…治癒を込めるか。…対魔法防御と魔法反射も…」
チラチラと俺を見ながら作業をしている。
リオノールが付けた付与はどれも魔術師に頼めば一つで金貨1枚はするような付与なのだが、もちろん本コウモリは知らない。
リオノールは片手間で出来る程度なのだ。
俺は店主に話しかけた。
「このブレスレットか?これも欲しいぞ…こっちも青い石がきれいだ」
「おっ、それもか?いいだろ?ラピスラズリだ」
ラピスラズリ?
「はっ、ラピスラズリ…王の石か!待て、いくらだ?」
慌てた。この大きさなら金貨10枚とかか…。
店主は首を傾げて
「銀貨9枚だ。チョーカーもバルグルもな」
銀貨?まさかな、聞き間違えか。
「金貨9枚?」
「銀貨9枚だ。金貨な訳ないだろ」
「…」
思わず店主をガン見する。銀貨と言って、買うと言えば金貨だ、なんで古典的な詐欺もあるが。
まったくそんなそぶりは無い。
「ならこれも欲しい」
「お、ありがとな」
「短剣を見てもいいか?」
自分の姿が映る短剣なんて、気になるに決まってる。
「いいぞ?剣帯は付きで小金貨15枚、ベルトも付けたら18枚だな。剣帯の色は選べるぞ!」
俺は短剣を色々な角度から眺める。
「それもまた素晴らしいな」
刀身は歪みも無く真っ直ぐで、ピカピカに磨がれていた。
「刃こぼれ防止なんかの基本仕様は付いてる」
それの何が基本なんだ?と俺は思ったが何も言わなかった。普通は追加で金貨を出して魔法付与付をしてもらう筈なんだがな…。
「ベルトのセットで革は…どの色がいいか。やっぱり黒かな」
無難な色を言えば
「赤にしとくな」
俺の希望は全無視で応える店主。
俺は戸惑ってノワールを見た。なぜか頷かれた。まぁいいか?
渡された剣を剣帯ごと付ける。ベルトはポーチを掛けるために斜めに、と思ったら待ったをかけられた。
「腰につけた方が動きを阻害しない」
俺の腰に付けてくれる。
「どうだ?」
「ああ、いいな」
これは確かに使いやすいし、邪魔にならない。店主はドヤ顔だ!しかも赤が意外なほど似合っていた。
ノワールを見て
「合計はいくらだ?」
ノワールは
「小金貨19枚銀貨6枚」
チラッと店主を見上げる。店主は口元を僅かに緩めてノワールの頭を撫でていた。はっ…黒の騎士が子供に頭を撫でられてる、だと?
「その調子だ!良く出来たな」
「…」
俺は唖然としながらも金貨2枚を払って、おつり銀貨4枚が返ってきた。
「ありがとな!」
「いい買い物が出来たぞ。俺はガイルだ」
「リオだ!」
手を挙げて俺はいい気分で店を出て行った。
翌日、俺は臨時でパーティーを組んで討伐依頼に行く事になっていた。
剣を見るとごく僅かにヒビが入っていた。日課の素振りをしている時に、いつもと音が違うと気が付いたのだ。
これはダメだ。予備の剣は無い。迷宮産の剣にヒビなど何故だ?
その時は急いでいたから、取り敢えず市場に走った。
俺は魔法が苦手だが、付与程度ならできるぞ!
その付与がとんでもなく高性能だと知らない聖獣ズ
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