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長生き魔法使いは暇を持て余す  作者: 綾瀬 律
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閑話 ールイー

 僕は悲惨な幼少期を過ごし、生きる明確な目標もないまま生きていた。死にたいというほどでもないけど、生きたいという理由も無かった。

 敢えて言うなら、ライの為と兄様の為か。

 自分自身は幸せになることは出来ない。僕の体には実験の後であるつぎはぎが至る所にある。それはもう人の皮を繋ぎ合わせたような、見るに耐えない姿だ。

 しかも血管までつぎはぎで、体の中の傷はいまだに治っていない。時々、疼くように痛む。


 僕はライだけじゃ無く、家族の誰にも裸を見せたことはない。僕にその実験を施した人間はすでに故人だ。僕の体の傷は僕しか知らない。

 だから僕はお風呂にも入らない。簡単に体を流すことくらいしかしたことが無い。1人では入れないし、だからといって人の手を借りるなんてあり得ない。ライですらダメなんだから。


 僕は幸せになることも出来ずに漫然と生きていくのだろう。そう思っていた。


 リオと出会って、僕の生活は文字通り一変した。そしてイナゴの襲撃を乗り切ってリオに再開して。一緒に迷宮に潜った。とても充実した楽しい日々はやがて終わりを迎える。リオが樹海に帰ってしまったのだ。

 リオに会えず空虚な日々を乗り越えられたのは、会いにいく目標があったから。



 そしてリオたちが樹海に帰ってから数ヶ月後、剣を売って欲しくて樹海まで会いに行った。でもそこにいたのは子供のリオじゃ無くて、渋くてとても魅力的な聖獣リオの人の姿。


 熱のこもった目でリオを見る。間近にある顔を見て頬が熱を持つ。

「リオ、僕の体には実験の跡がたくさんある。女性と結婚することはないよ」

「傷なんてどうとでもなるだろ?」

 魔術で着いた傷は治せないのだ。

「魔術の傷は治せない…」

 リオは僕の胸元を開く。そこにも傷があった。恥ずかしいがリオならば。

 リオはその傷を細くて長い指でなぞるように僕の胸を撫でる。目をつむっているその顔は銀色のまつげが揺れた。

 やがて手を離すと服を元に戻す。


「僕はあと1年で成人する。リオとその…」

 恥ずかしくて言い淀むと、リオはまっすぐに僕を見た。

「独りでここまでたどり着けたらな!傷なんて俺たちは何とも思わん。俺はそもそも人じゃないからな」

 リオはいつだって僕に目標をくれる。

 生きる目標だけじゃない、今度は幸せになるための目標だ。


 それからの数日はまたとても楽しい日々を送った。だってツリーハウスだ!びっくりだよ。しかも寝る時にカエラという子が僕に張り付いた。なんで?と思ったら

「パパの匂いが濃いから…」

 だって。なんか嬉しかった。ちびっ子を抱きしめて寝る。とても温かい。


 楽しい時間は過ぎて

「リオ、15才になったら…いや、15才の誕生日はここで過ごすよ!」

 リオは僕の頭を撫でると

「1人で辿り着けたら…な!」

 やっぱりリオはリオだ。決して僕が僕自身を甘やかすことを許さない。

 なのにリオは僕たちに少し甘い。


 だって帰り際、

「おい、忘れ物だぞ!」

 そう言って渡してくれたのは一振りの剣。えっ…これは。僕は心臓がドキドキした。リオを見る。面倒くさそうに、でも僕をしっかりと見て

「ここまで来たからな!せいぜい強くなってまた来い」

 僕は堪らなくなって剣を抱えたままリオに抱き付いた。


「ウザいぞ…」

 そう言いながらも優しく髪を撫でる手はとても優しかった。あのミクロネシアンがリオのそばにいることも納得できる。だって彼は国に帰ることも、人とも結婚できるのだから。なのに国には帰らず、リオのそばにいる。それが彼の答えなんだろう。


 僕は顔を上げると、リオが涙を布で拭ってくれた。聖虫の蜘蛛の糸。もう、相変わらず色々とバグってるんだから。僕はリオにキスをする。

「人の子はそういう愛情表現が好きだな…」

 と言った。僕は目をパチパチした。人の子?うん、考えないぞ!


 ノワールに見送られてシェイパーに戻った。ラウロア師匠はもうずっと小躍りしてたよ。なんせ樹海には貴重な薬草や魔獣がいっぱいいたから。


 シェイパーからカイラスに戻り、自室で着替えをしている時にあれ?と思った。いや、気のせいか…?

 そのまま特に気にせずに過ごしていた。

 季節は巡り、気温が上がった。魔塔の部屋の中にはライしかいないから、インクで袖が汚れたからシャツを捲った。

 その時、ライが僕の腕を見て驚いた。何?


「ルイ、腕が…」

 ん?ライがシャツを捲る。あ…えっ、まさか…?僕はもう片方の袖も捲る。ライが目の前にいることにも構わず、シャツの胸元を開く。

 そんな、まさか…。胸元のペンダントが淡く光っている。優しく、温かく。

 ライが抱き付いて来る。僕はライと抱き合って泣いた。


 ライからある提案があったけど僕は断った。だってやっぱり…ね。

 そして僕は15才の誕生日は樹海に1人で行くと宣言して家を出て、シェイパー経由で樹海へと向かった。


 大丈夫、リオの剣がある。それに僕は強くなった。深呼吸して樹海に入った。僕はいっぱいいっぱいで、だから肩の上に乗る綿みたいな蜘蛛が何かしているのに気が付かなかった。



 そう、1人で来いとは言ったものの心配したエリーがミーシャに頼んで子蜘蛛から連絡をさせていたのだ。シェイパーの街からならかなり正確に魔力を追えるが、気が付かないこともあるからと念の為に頼んだのだ。


 エリーの記憶力はとてもいい。双子の誕生日ももちろん覚えていた。だからちゃんと超音波をいつもより遠くまで展開していた。

 すぐに分かった。そしてルイの肩にいる子蜘蛛から連絡を受けたミーシャが密かに見守った。




 僕は体つきもだいぶしっかりしたからか、危なげなく魔獣を倒し(群れが行かないようミーシャたちが誘導していた)、森人の集落に辿り着いた。

 その集落の入り口には人型のリオが待っていた。僕は嬉しくて恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくてリオに抱き付く。


 ウザいとは言わず

「良く来たな、ルイ。15才の誕生日おめでとう!」

 その言葉は、生きてきた中で1番嬉しい言葉だった。

「ありがとう、リオ!僕は成人したよ!!」

「あぁ。ルイは俺と主の子を望むか?人の子が欲しいなら…ルイが、聖獣の子が欲しいなら俺が抱くが?」


 相変わらず雰囲気も空気も読まないエリーだった。


 僕は真っ赤になりながらも決めていたから、こう答える。

「どっちもだよ!」

 リオはそれを聞いて驚いて、ほんの少し口角を上げると

「ルイの好きなように」 

 と言った。案内されたのはリオの家じゃない?

「ノエルとカエラに突撃されるのはな…」

 それは確かに。


 ソファでお茶を飲み(1杯2万円なり)ほっと一息つくとリオにお願いをした。リオはそうか、とだけ言うと僕を抱き上げた。

 えっえっ…これって俗に言うお姫様抱っこ?いや、恥ずかしいよ!

「降ろして!」

「なんでだ?」

 通じない。

「は、恥ずかしいから…」


 リオは僕を見て

「これからつがうのに?」

 そ、それは確かに。う、でも僕は免疫がなくて。あわあわしている内に服は脱がされていた。リオもいつの間にか裸だ。

 浴室で降ろされるとリオは僕の全身をくまなく観察する。僕はもうどうしていいか分からずもじもじしていた。


 やがてリオは頷くと僕を椅子に座らせて体を洗ってくれた。いや、それは…。僕には何が普通か分からない。分からないけど違う気がする。

 だって股を開いて些細に観察して洗う。お尻も広げて見られて…もう恥ずかしくて堪らない。

 ただ、リオの目は真剣で、だからなんとか持ち堪えた。

 体を洗い終えると髪の毛だ。


 あ、この匂いは…緊張で分からなかったけど。そうか、リオ…君は本当に。

 僕を洗い終えると自分もサッと体と髪の毛を洗って、僕をそっと抱き上げてお湯につかった。これがお風呂なんだ…あったかい。


 リオは僕を足の間に座らせてる。僕はリオを見る。淡い銀色の虹彩はとてもきれいで、整った顔立ちは大人の顔で。細身だけどしっかりとした体もカッコよかった。

 その胸に頭を預ける。

「ありがとう、リオ。初めてのお風呂はリオと入りたかったんだ」

「そうか」

「石けん…あの匂いは」

「好きだろ?ジャスミン」

「何で分かったの?」

「1番反応がな」

 凄い!僕のことを知ってくれてる。



「傷も治したからな!」

 傷?あ…そうだ。

「リオ、僕の傷。ここに来るまでに殆ど治ってた」

「剣に付与した治癒の魔力だな」

 えっ…?剣に??でも…

「魔術でついた傷は治せない筈」

「傷を付けた魔術よりも更に高度な治癒の魔術なら治せるぞ!」

「知らなかった…」


「気にしてたからな。幼い頃についた傷は一気に治すと酷く苦痛なんだ。1年後に、ルイがつがいたいならきれいな方がいいだろ?今後の出会いだってあるかもしれない。だからゆっくりとな。剣の治癒魔力に釣られてペンダントの魔力にも治癒が乗った筈だ。

 さっき、体の内部に残っていた傷も治したから。堂々と裸になれるぞ!」

 堂々と裸に…ぷっもう、リオはやっぱりリオだ。

「人前で裸にはないならないよ!」

「今なってるだろ?」

「リオは特別だから」

 さっきの些細な観察は傷を治すためだったんだ。


 リオは納得したように頷くけどなんか違う気がしたルイ。

 正解だ、エリーはやっぱり子育ての成果かな、と思っていたのだから。



「リオ、傷のことも…匂いも、色々とありがとう。大好きだよ…」

 リオの反応が怖くて最後は小さな声になった。

「おう、俺もだぞ!大切(な子ども)だからな」

 朗らかに返されて凄く嬉しかった。僕はリオにとって大切なんだ!心が湧き立つ。そして体の奥がなんか変な感じがした。

 あ…顔が赤くなる。リオが

「顔が赤いぞ?」

 僕の体の変化に気がつく。恥ずかしい…手で隠そうとすると

「恥ずかしくない。正常な反応だ!」



 エリーは人の体の仕組みは分からないけど、オスの体の反応は聖獣だって同じ。つがう前に昂るのは自然だと分かっていた。

 ただ、ルイは思春期を迎えてもそういう反応が無かったので戸惑ったみたいだ。だから正常な反応だと伝えたのだ。



 僕は顔を真っ赤にしたままリオに抱きつくと唇を合わせた。リオ、リオ、リオ…。

 リオが僕をまたお姫様抱っこしてお湯から上がる。

「たくさんの初めてを、リオと…」




 エリーは子育ては初めてを教える、そういうもんだ、と思っていたので力強く頷いた。

 そこはコウモリなので、人の感情までは分からないのだった。



 リオに抱かれて浴室を出る時には体も髪も乾いていて、毛布を体に巻かれていた。部屋に入るとベットに降ろされてそのままリオの腕に抱かれる。

 毛布を取って素肌を触れ合わせる。恥ずかしいのに、それ以上に嬉しくて。リオを求める。そしてリオの手が僕の体を…。こうして僕の初めては優しく過ぎた。


 肌を触れ合わせて眠り、食事をして散歩をしてまた肌を触れ合わせ…。幸せな時間を終えると、そこには美しい人がいた。ルシアーノ様だ。

 相変わらずの雰囲気と美しさ。僕を見てリオを見ると

「可愛い子、少し待っててな?」

 そう言ってリオを連れて消えた。どうしたのかな?

 僕は頷いて樹海を散策する。森人に案内されながら。


 

 ルシアーノはもちろん、エリーを連れて交わったのだ。何においてもエリーが1番。それはエリーも一緒なので、好きにさせていた。



 夕方に戻るとルシアーノ様は満足そうに、リオは心なしか疲れていた。

「今日からは僕だね?」

 耳元で囁かれて真っ赤になる。そしてその夜はルシアーノ様の華奢で美しい体と。本当に夢のようだ。大好きなリオと初めてを経験し、ルシアーノ様まで。

 魔術師でルシアーノ様に憧れない奴なんていない。こんなに身近に感じられるなんて奇跡だ。


 こうしてボクの15才の誕生日は優しく温かく過ぎて行った。





 その半年後…

 樹海のすぐ外側の商店がある一角に、塔が出来た。



 魔塔出張所



 ラウロア師匠が作ったのだ。

 ここは宿泊先スペースが完備されている。そして、ボクとライ、師匠はここに住んでいる。

 僕の腕には生まれたばかりの赤ちゃんがいる。どうしていいのか分からずオロオロしていると、子供が5人に孫18人いる師匠があやしてくれる。母親はいないので、代わりに魔ヤギの乳を与えている。栄養が豊富で魔力も豊富。リオの子供たちや異種族で母親がいない子たちはみんな魔ヤギの乳で育ったとか。


 リオは今、ルシアーノ様と塔に住んでいる。そこから飛んで毎日、僕と子供に会いに来る。子供はリオの羽に包まれるとスヤスヤと寝る。リオは僕も羽にくるんでくれる。

 大好きなリオと僕の、そしてルシアーノ様と僕の子供だ。1人では大変だからと、白コウモリの子はリオが、ルシアーノ様との子はルシアーノ様が育てている。いや、ほぼリオが育てている。



 恐ろしい魔獣を閉じ込めた樹海に子供の声が響く。


 今日も世界一の魔術師は暇だなんて言ってる時間もないほどに子供たちに翻弄され、白コウモリに育児が下手だと責められ…楽しく過ごしている。



 人生を諦めた僕は腕の中にリオとの子を抱く。こんな奇跡が起こるとは思わなかった。リオに寄り添って

「リオ、奇跡をありがとう」

 と言う。

「ルイ、奇跡とは諦めずにたゆまぬ努力をした人に付いてくる結果なんだ。苦しさに負けず生き抜いた。それは誰でもない、ルイが成し遂げた事だ。今の幸せもルイが自ら望んで掴んだ。だから自分を褒めてやれ」



 やっぱりリオはリオだ。

 毒舌なのに僕にはなんだかんだと甘いリオ、大切な言葉はいつだってリオがくれる。

 これからも…ずっと大好きだよ!




挿絵(By みてみん)

エリー捕獲!

ルイとの前にエリーで前哨戦だよ?

ふふふっ

久しぶりに人型になったら…主に拉致された



*読んでくださる皆さんにお願いです*


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