桜の樹の下には…
以前、私が住んでいた(正確には母と二人暮し)借家には、庭に桜の樹がありました。
そう話すと「えー、家でお花見出来るじゃない!素敵ね」などと言われたのですが…とんでもない。そんな呑気かつ風流なものじゃない。
まず桜の花びらが…地面に張り付いて無惨な最期なのが悲しい。
さくらんぼをつつきに、カラスを始め、野鳥が来る。糞害。
極めつけは…葉桜になった途端、落下してくる…虫!
大の虫嫌いの私には恐怖でしかありませんでした…。しかも。この桜の樹、やたら伸びる。何にも与えたりしてないのに。
ある日、玄関チャイムが鳴ったので、出てみたら、繋ぎに〈電力会社〉の腕章をつけた男性が立っていて、
「こちらの桜の樹ですが、もう少しで電線に触れそうです。枝を剪定して頂く事は可能ですか?」と言われました。
母が大家さんに連絡すると…「自分達でどうにかしてくれ」と丸投げ。
怒った母は近所の友達から脚立を借り、ホームセンターから枝切りハサミを購入し、枝の切断に臨んだのです…。あれは忘れもしない、初夏の日曜日。朝っぱらから脚立にのぼる母、それを押さえる私、気合いのみで枝を切る母…。
引っ越すまでに何度か戦いました。
おまけに!
その家の裏にはとある会社があったのですが、そこの社員達がインスタントにお花見をしていたんですよ。うちに生えてる桜の樹で。
ちょうど、裏からも見えるポジションにあったので。そこまではいい。
またまた母が怒ったのは、お花見してた男性が立ちションを、我が家の家の壁にした事!
非常識にも程がある…。
対して母は衣料用ブリーチを、そこの壁に撒きに行く、という無言の抗議で追い払いました。
更に後日談が…。
数年の後、我々は引っ越しました。
といっても近所なのですが。
仕事帰り、道をてくてく歩いていた私は「ん?」となり「あぁっ!?」となりました。
なんと!
私達が何度言っても放置だった大家が、私達が出た途端、桜の樹を伐採したのです!
家に帰った私は速攻母に報告。
「何!ふざけやがって」
突撃に行った母が持ってきたのは、果たして「伸びて、危ないから切ってください、と言われた、だって」という業者さんの言葉でした。
二人して、脱力。
あの桜の樹の下には、我々の地味な苦労が埋まってる…。
いまはもう無くなった桜。
なので、桜の花は少し、苦手です。
嫌いではありませんけどね。
あれは遠くから愛でるものであって、庭に植えるものではありません。
桜・サクラ・さくら…
その下には、何が埋まってる?