64 VS青龍
かつての炎の獅子戦において、俺は雫たちと共闘を果たし討伐を成し遂げた。
探索者として彼女たちと息を合わせて強敵を倒した時の感覚は、何とも言えない充実感があった。
それはかつて、一人でどんな相手でも倒すことができた大魔王時代には叶えられなかったこと。
そして今、その次の段階――かつて敵対した好敵手と、強敵を前に共闘するというワクワクの展開が存在していた。
このチャンスを逃すわけにはいかない!
この状況でなお諦めることを知らない様子の鷹見を見て、俺から彼への評価は上がっている。
それを踏まえての提案だったのだが、鷹見は怪訝そうに眉をひそめた。
「僕とお前が、共闘だと……?」
「そうだ。もっとも、俺についてこれないと言うなら無理は言わないが」
「っ、そんなこと簡単に決まっているだろう! 馬鹿にするな、やってやる!」
予想通りの反応。鷹見の瞳に闘志が燃え上がる。
よし、許可は取った。
そんなわけで、俺は改めてグラムを握り青龍に向き合う。
「お前に任せるのは一撃だけだ。体が満足に動かなかったとしても、それだけは成し遂げてみせろ」
「当然だ!」
鷹見の声に確かな決意が宿る。
その様子を見て、俺は小さく頷いた。
そんな形で青龍との戦闘が開始された。
青龍は主に風魔術を中心とした攻撃を放ち、時には尾を振るってくる。
渦巻く風が剃刀のような鋭さを帯び、空間を切り裂いてくる。
速度、破壊力ともに恐ろしい――が、歴戦の戦士たる大魔王にとって、回避するのは容易だった。
隙をみて、グラムで何度もカウンターを浴びせていく。
しかし風の鎧を突破するのがせいぜい。
鎧によって速度が落ちた刃では硬質な鱗を突破することができず、二撃目を入れようとした瞬間には、周囲の風の鎧が移動し再度その身を覆う始末だった。
『主様、想像以上に厄介ですね』
「ああ」
(今の俺のレベルでこの守りを突破しようと思えば、魔力の大半を使用する必要があるな)
最大火力の纏炎剣なら不可能ではないだろうが、それでは後が続かない。もし一撃で仕留められなかったら、反撃の余地すら失うことになる。
だからこそ、俺は別の手段を考えていた。青龍の防御は完璧に近いが、どんな防御にも弱点はある。
それを見極め、正確に狙い撃つ。
「ルァァァアアアアアアアア!!!」
一度距離を置いたタイミングで、青龍がひと際強力な風魔術を放ってきた。
大気が震え、渦巻く風が巨大な竜巻となって俺に向かって迫る。
それを見た俺は、ここが転機だと確信した。
「瞬間構築――【超越せし炎槍】」
ごく短い詠唱と同時に、俺の前に炎の魔法陣が展開する。
そこから放たれたのは深紅に輝く炎の槍。
「ッッッ!?」
放たれた超越せし炎槍が風の魔術を貫く。
眩い光と共に二つの魔術がぶつかり合い、そして炎が勝利した。
予想通り、魔術勝負ならこちらが優っていたようだ。
炎の槍はそのまま鱗に命中し爆発を起こし、砂塵が舞った。
「……ルゥゥ」
しかし砂塵が晴れた時、鱗には火傷痕がついているものの、突破するとまではいかなかった。
青龍の体表に黒く焦げた跡が残るが、致命傷には至らない。
あの様子だと、すぐにでも再生されるだろう。鱗の上で再生が始まっているのが見えた。
だが、ここで俺は小さく笑う。
「問題ない――お前の鎧を振り払えた時点でな」
風魔術の行使と、【超越せし炎槍】の爆風によって青龍の一部から風の鎧が消滅する。
再び覆い直すまでに生まれた数秒の隙間、それこそが俺の狙いだった。
つまり、
「今だ!」
俺の声に反応して、鷹見の姿が砂塵の中から現れる。
「――【天衝牙】!」
鷹見は雷を纏うように現れると、青龍の鱗に穂先を突き刺す。
一秒にもみたないわずかな時間、鷹見の槍と鱗はせめぎ合い――次の瞬間、とうとう鷹見の槍が鱗を突破した。
鱗が割れ、穂先が青龍の体内に侵入する瞬間、目を見張るほどの輝きが放たれた。
「ッッッ!?!?!? ガァァァアアアアアアアア!」
「くぅっ!」
これまでになかった悶え苦しむような叫び声が空間を震わせる。
直後、ようやく再展開された風によって鷹見の体が吹き飛ばされる。彼の体が弧を描いて宙に浮かび、背中から壁に激突した。
しかし、その表情には達成感が浮かんでいた。
「この手応え! 僕たちの勝ち、だ……」
徐々に声量が衰える鷹見。
そんな彼の視線には、ようやく生じた大きな穴すら、炎によって再生する光景があった。傷口から炎が立ち上り、破壊された鱗がゆっくりと再生していく。
「馬鹿な! あれだけのダメージすら、回復するなんて……」
絶望した様子の鷹見。
その顔からは、先ほどまでの闘志が消え、諦めの色が浮かび上がる。
しかしその横で俺は笑った。
「いや、計算通りだ――操血魔術」
俺は手から血を伸ばす。
深紅の液体が形を変え、鋭い矛となって伸びていく。
それは風の鎧を突破し、傷がふさがるより早く穴の中に潜り込んだ。
「いったい何を……」
「決まっているだろう? 硬い相手を倒す時は、内側からと相場が決まっている」
そう答えながらも俺は魔力を送り続けた後、告げる。
「広がれ」
「ッ、ガァァァアアアアアアアア!!!」
パキンパキンパキン! と音を鳴らしつつ、四方八方に分かれた矛が青龍の内側から飛び出す。
予想通り、外側とは比べ物にならないほど、内側は柔かったようだ。
とはいえ、巨躯を誇る青龍を倒すために、これだけではまだ足りない。
青龍の体が痙攣しながらも、依然として立っている。
(ここからが、操血魔術の真価だ)
俺が操血魔術を欲した理由は、その応用性の高さにある。
武器などの固形に姿を変えるのはもちろん――逆に、一度固形にしたものを魔力に戻すことも可能なのだ。
つまり、
「なんだ!? 魔術同士が繋がって、まるで魔法陣みたいな形に……」
鷹見の言葉通り、俺は複数の矛を繋げ、青龍の内部を中心とした一つの魔法陣を作り上げた。
血の矛同士が糸のように繋がり、複雑な幾何学模様を形成していく。
そう、これが操血魔術のもう一つの応用法。
一度放たれた魔術自体が、次の魔術を放つための源として活用できるのだ。
確認した後、固形化した血を魔力に戻す。
魔法陣から紅い光が放たれ、青龍の内部が赤く輝きはじめた。
「さあ、終わりにするとしよう」
魔力を込めていくと、魔法陣が徐々に鮮やかさを増し、その光が青龍の鱗を透かして外にまで漏れ始める。
いつものように変数の調整を行うが、大きく異なる点が一点。
纏炎であれ超越せし炎槍であれ、威力、規模、指向性などを目的に合わせて変化させるのだが、今回は規模と指向性を極限まで抑えていく。
これは敵の内側から、永遠に続く業火によって燃やし尽くす地獄の奥義。
その名も、
「術式変換――【永劫の獄炎】」
燃え盛る炎が、内側から青龍を燃やす。
まるで骨を浮かび上がらせるように、青龍の体の内側から光が放たれる。
その光は次第に強くなり、龍の体が内側から崩壊していった。
「ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
最後の断末魔を上げ、青龍は崩れ落ちた。
その体が光の粒子となって散っていき、やがて完全に消滅する。
そのまま青龍は燃え尽き、見事に討伐は完了するのだった。




