61 VS白虎
雫視点です。
蓮夜と別れた後、広間に到着した雫たちは、すぐにその魔物と遭遇した。
「ガルァァァアアアアア!」
全身を白色の毛並みに覆われた巨大な虎が、強烈な咆哮を上げる。
僅かに血を流す右前足以外、その姿には傷一つ見当たらない。
先程の男性探索者たちいわく、死力を尽くした末にようやく与えられたダメージがアレであり、生まれた僅かな隙に命からがら逃げ出したのだという。
雫は恐る恐る鑑定を使用する。
――――――――――――――
【白虎】
・討伐推奨レベル:85
・高速移動からの鋭い爪や牙による攻撃を得意とし、咆哮による広範囲攻撃手段も持つ。
――――――――――――――
(聞いていた通りの情報ですね……あの時を思い出してしまいます)
その姿やサイズ、獣型魔物という特徴から、雫は以前パーティーで戦った炎の獅子を思い出していた。
しかし、白虎から放たれる圧倒的な威圧感は、あの時とは比べ物にならない。
(でも――)
雫は深く息を吐き、手に持つ杖を強く握りしめる。
(私たちも、あの時とは違う)
その決意を胸に秘めていた時、ミツキの力強い声が響く。
「事前の作戦通り、あたしと琴美が前衛で、雫は後ろから援護をお願い! 足にダメージを負っているから、機動力は殺がれているはずよ!」
「おっけー!」
「はい!」
三人は即座にミツキの指示に従い、態勢を整える。
本来ならこういった場合、最もレベルの高い琴美か後衛の雫が指揮を執る。
しかし雫は経験が不足しており、さらにこちらの最大火力である琴美が攻撃に集中できるよう、別れる前に蓮夜から受けたアドバイスによってこの布陣となった。
また、蓮夜が告げた琴美の性格面も考慮してとの言葉に、琴美が「なぁー!?」と不満を露わにする場面もあったが……それはさておき。
先ほどの冒険者たちが僅かとはいえ、傷を与えてくれていたのが大きかったのだろう。
格上である白虎に対しても、ミツキと琴美はなんとか互角に渡り合えていた。
「はっ!」
ミツキの剣が白虎の前足を狙う。
それを避けようとした白虎の動きに合わせ、琴美が反対側から斬りかかった。
息の合った連携に、雫は思わず感心してしまう。
(今です!)
二人の攻撃で生まれた隙を見逃すまいと、雫は杖を掲げる。
「【逆巻く水砲】!」
「ガウッ!?」
放たれた水の槍が、白虎の脇腹を直撃する。
逆巻く水砲は水属性の中級魔術であり、その貫通力の高さが特徴だ。たとえレベル差があっても、隙を作り出すことくらいはできる。
雫は正確なタイミングを計りながら、何度も魔術を放っていく。
そんなやり取りが何度か繰り返されたその時、ついに白虎の体勢が大きく崩れた。
「今よ、琴美!」
ミツキの指示を受けた琴美は笑みを浮かべながら、一歩前に踏み出した。
「これでも喰らっちゃえ! 術式変換――【地を割る落雷】!」
先日の配信で暗界の吸血鬼を討伐した、あの雷属性の上級魔術が放たれる。
眩い光が広間を照らし、轟音と共に白虎に直撃した。
砂煙が立ち込める中、琴美は満足げな表情を浮かべる。
「ふっふーん、こんなところかな!」
録画用のカメラに向かって、得意げにポーズを取る琴美。
しかしその瞬間、雫とミツキは同時にある違和感に気付いた。
「油断しないで、まだ終わっていないわ!」
「レベルアップ音が鳴り響いていません!」
「え? ――――ッ!」
これだけの格上を倒せば、確実にレベルが上がるはずだ。
それが起きていないということは、まだ討伐できていないという証。
そう理解した次の瞬間――
「ガルァァァアアアアアアアアアア!」
「きゃぁっ!」
「っ」
「――――!」
轟音のような咆哮が広間に響き渡った。
その衝撃波によって砂埃は一瞬で吹き飛び、雫たちの体にも少なくない衝撃が襲い掛かる。
近くにいた琴美とミツキは特に大きなダメージを受けたようで、二人とも膝をつく寸前だった。
咆哮が止んだ時、そこには全身を焦がしながらもなお、闘志を失っていない白虎の姿があった。
「うそ! 今のでも倒せないなんて……」
「想像以上のタフさね……」
戦々恐々と汗を流す二人。
雫もまた、冷や汗を流しながら次の手を考える。
(どうしましょう……本来の作戦では、ことみんさんの魔術を命中させることを軸に考えていました。しかしそれでも倒し切れない以上、別の手段を考えないと……)
だが、ここにいる中で最もレベルが高いのは琴美だ。
そんな彼女の最大火力が通用しないとなれば、これ以上の作戦なんて――
「……あ」
その時、雫は自分の手に視線を落とした。
そこには蓮夜から託された指輪が嵌められており、ある考えが脳裏に浮かぶ。
(これなら、もしかしたら……!)
突拍子もない作戦が雫の頭に浮かぶ。
しかし彼女の本能は、それしかないと告げていた。
「時間を稼いでください!」
「……え?」
「雫?」
突然の指示に、琴美とミツキが首を傾げる。
しかし雫の真剣な表情を見て、すぐに納得したように頷いた。
「何か考えがあるのね?」
「はい! なのでなんとか時間を稼ぎ、敵の隙を作ってください!」
「わかったわ!」
ミツキが先陣を切り、それに続く形で琴美も白虎との戦いを再開する。
先ほどの上級魔術でダメージは確実に与えられていたのか、白虎の動きは以前より鈍くなっていた。
その間に、雫は思い浮かんだ作戦を実行に移す。
それはこれまで彼女が見てきた中で最も強く、最も難易度が高く――そして最も美しい魔術。
(まずは……!)
「【逆巻く水砲】」
慣れ親しんだ水の中級魔術を展開する。
続いて、蓮夜から託された指輪に意識を向ける。
(次は――)
「【渦巻く火焔】」
指輪から蓮夜の魔力を引き出しながら、二つ目の術式を展開。
そしてここからが、真の勝負だった。
その難易度は非常に高いが、不思議と雫には「できる」という確信があった。
(だって私は一度、これを成功させています)
あの時は確かに蓮夜の助けがあってこそだった。
それでも、成功した感覚は確かに自分の身体に刻み込まれている。
雫はその記憶をなぞるように、二つの術式を組み合わせていく。
「それって、まさか……」
「うそ……」
雫が何をしようとしているのか理解した二人から、驚きの声が上がる。
しかし構わず、雫は準備を進める。
「いきます!」
ミツキと琴美の連携攻撃が見事に決まり、白虎の動きが止まった瞬間を捉えて、雫は力強く宣言する。
「術式邂逅――――【絢爛たる蒼炎】!」
重なり合った術式が崩壊し、放たれたのは渦巻く蒼い炎。
それは白虎の身体を貫き、その場で爆発を巻き起こした。
吹き荒れる爆風。
そして、待望のレベルアップ音が鳴り響く。
それは今度こそ、白虎との戦いに勝利した証だった。
「まさか、貴女がそれを使えるなんて……すごいわね、雫」
「うんうん、見事に勝利、だねっ!」
「はい!」
驚愕と称賛が入り混じった表情で駆け寄ってくる二人に、雫は満面の笑みを浮かべて頷く。
そしてここにはいない、あの人物に思いを馳せた。
(そちらは頼みます――蓮夜さん)
【大切なお願い】
先日より新作
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