59 VS朱雀
探索を続けること十分後――突如として強力な熱気と魔力を感じ取った。
「これってまさか……」
「嫌な気配ね」
「やっぱり、そうだよね」
それに気付いたのは俺だけではなかったようで、雫たちは警戒態勢を取っていた。
「――くるぞ」
俺がそう告げた直後だった。
「ピィィィイイイイイ!」
高い鳴き声と共に、炎を纏う巨大な鳥が現れる。
ただならぬ気配に、俺はすぐさま鑑定を使用した。
――――――――――――――
【朱雀】
・討伐推奨レベル:90
・羽ばたきにより火精霊【火翼鳥】を召喚する他、強力な火魔術を使用し、強力な再生能力を有している。
――――――――――――――
「「「レベル90……!」」」
鑑定で情報を確かめた三人が表情を変える。
「この圧……間違いなくコイツがここのボスね」
ミツキが緊張した面持ちで言った。
「まさか、こんなに早く遭遇するとは思わなかったわ。蓮夜、作戦があるなら聞かせて――」
「…………」
「――蓮夜?」
無言のままあること考え込む俺を不思議に思い、小首を傾げるミツキ。
その様子に気付き、俺は意識を現実に引き戻した。
「何でもない、気にするな。それより作戦だったな」
「ピィィイイイイイイ!」
指示を出そうとした直後、朱雀が雄叫びを上げながら翼をはためかせる。
すると、そこから十羽を超える小型の火の鳥が召喚された。
――――――――――――――
【火翼鳥】
・討伐推奨レベル:55
・朱雀により召喚された火精霊。中級までの火魔術を使用可能。
――――――――――――――
再び鑑定を使用すると、そこにはこう書かれていた。
「……ふむ」
(眷属の召喚……暗界の吸血鬼に近いタイプか。とはいえレベルは高くない)
俺一人で全て片付けることも可能だが……
数分前に魔物相手に戦っていた三人の姿を思い出した俺は、小さく笑って告げた。
「取り巻きは三人が相手にしてくれ。本体は俺が倒す」
「はい!」「了解よ!」「おっけー!」
この三人の実力なら特に心配はいらないだろう。
火翼鳥の群れを相手取る三人を尻目に、俺は朱雀と向き合った。
「というわけで、お前の相手は俺だ」
「ピィィィ!」
朱雀はさっそく翼をはためかせ、幾つもの火魔術を放ってきた。
一つ一つは強力だが、俺にとっては躱しさえすればなんともない。
隙を見計らい、俺は瞬間構築の魔法陣を展開する。
「【超越せし炎槍】」
放たれた炎の槍は、見事に朱雀の体に命中したが――
「ピィィィィィ!」
直後、予想外の展開が起きた。
朱雀の雄叫びと同時に、その体を覆う炎の純度と量が増していく。
その炎に阻まれた結果、なんと上級魔術では僅かにダメージを与えることしかできなかった。
「これは驚いたな。火はお前の土俵ということか。なら――」
ニッと笑い、俺は目の前に新たな魔法陣を展開する。
それは先ほどの火魔術と異なり、少し濁った赤色をしていた。
「――操血魔術はどうだ?」
瞬間、血で出来た数十の刃や槍、矢が生み出される。
操血魔術は自身、および魔力から変換した血を自由自在に操ることのできる便利な魔術。
特に火魔術と異なり、固体を生み出すこともできるのが特徴だ。
「いけ」
縦横無尽に放たれた刃の群れが、次々と朱雀の身を刻んでいく。
「ピァァァアアアアアア!」
朱雀から大量の血が流れ出す。
この調子なら――と思った矢先、異変に気付いた。
「――ふむ」
与えたはずの傷が、片っ端から治り始めている。
朱雀の再生能力は想像以上に優秀なようだ。
(このままでは埒が明かない。なら、いっそのこと――)
「グラム、準備はできているか」
『はっ、もちろんでございます!』
「内包している魔力のうち、3割を剣に注げ」
『たった3割ですか? この生意気な焼き鳥を倒せばそれで終わりですし、もう少し注いだ方が確実では?』
「考えがある。お前は黙って従え」
『は、はい! かしこまりました主様!』
グラムに命じ、剣に魔力を注ぐ。
そして、
「魔術武装――【纏炎剣】」
顕現するは燃える魔剣。
朱雀は火に耐性があるが、それにも限界があるはずだ。
「上限を超えた火力には耐えられないだろう?」
危険を察知したのか、朱雀は慌てて上空へ逃げようとする。
が
「甘いぞ」
俺は残っていた操血魔術の武具を鎖に変化させ、浮遊する朱雀を捕えた。
「――これで終わりだ!」
「ピ、ピィィィィィ」
一閃。
真っ二つになった朱雀は、断末魔を鳴らしながら消滅した。
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『一定の熟練度を満たしました』
『スキル【操血魔術Lv3】に進化します』
システム音が連続で鳴り響く。
レベルが一気に7上がり、操血魔術のスキルレベルも2つ上がった。
確認も程々に。
雫たちに視線を向けると、彼女らも無事に火翼鳥の討伐を終えていた。
「ふぅ、なんとかなりましたね……」
汗を拭う雫の隣で、琴美が剣を振って汚れを払いながら口を開く。
「これで攻略完了だねっ! イレギュラーダンジョンはすごく大変だって話だったけど……私たちにかかればこんなもんってことかな?」
達成感からか、少し調子に乗った発言をする琴美。
しかし、俺の中では朱雀に遭遇した時の――否、このダンジョンに入った時からの違和感が拭えずにいた。
(この感覚、まさか――)
そんな俺を不思議に思ったのか、ミツキが話しかけてくる。
「どうしたの、蓮夜? そういえば、戦う前も変だったけど――」
「誰か、来てくれ!」
その瞬間だった。
俺たちが来たのとは別の通路から、四人の男性探索者が駆け寄ってくる。
その慌てた様子は、まるで何かから逃げているかのようで――
「そんなに慌てなくて大丈夫だよ。ボスはもう――」
琴美の発言を遮るように、そのうちの一人はそのまま叫んだ。
「――この先に、ダンジョンボスが現れた!」
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