17 魔道具を作ろう!
凍結竜を討伐し、無事に目標であったスキル【魔力凍結】を入手した。
おかげでようやく、魔道具作りに入ることができる。
テンションが上がったまま、俺は炎の獅子の魔石を素材袋から取り出した。
「ふむ。このままだと少しサイズが大きいな。いくつかに分けて研磨してから使いたいところだが、残念ながら今は手元に刃物がない……ん?」
俺の目に留まったのは、たった今倒したばかりである凍結竜の死体だった。
最大開放の超越せし炎槍をぶつけたため胴体には大穴が開いているが、口元の鋭く巨大な牙は健在なまま。
あれに魔力を込めれば、簡易的な刃物になるかもしれない。
「悪いな、もらっていくぞ」
牙を根元から折り、魔力を通していく。
うん、問題なく使えそうだな。
その後、俺は炎の獅子の魔石を3つに分け、手のひらサイズに研磨していった。
よりレベルの高い凍結竜ではなく炎の獅子の魔石を使用している理由は、単純にこれから俺がしようとしていることと相性がいいからだ。
「さて、これでひとまずの準備は完了か」
一通りの用意を終えたタイミングで、俺は魔力を練り上げて術式を展開する。
「術式変換――超越せし炎槍」
モンスターがいない中、どうして超越せし炎槍の術式を展開したのか。
それは当然、魔道具作成にこの魔術が必要となるからだ。
俺は魔力を練り上げつつ、術式に質の高い火属性の魔力を満たしていく。
だが、いつものように限界ギリギリまで注ぐことはしない。
そんなことをしてしまえば、次の工程で破綻するのが目に見えている。
ある程度、魔術の火力を高めたタイミングで、俺はさっそく入手したばかりのそのスキルを発動する。
「魔力凍結、発動」
通常であれば、その名の通り敵が術式を展開している最中に発動することで魔力の流れを止め、妨害するための力。
今回はそれを応用する。
凍結の性質を持ったその魔力を、俺は自分が展開した術式に向かって発動した。
「――術式凍結」
瞬間、キーンと、超越せし炎槍の術式が発動直前の状態で静止してしまう。
魔力の供給を止めても、消失や暴発は起こらない。
「よし、とりあえず第一段階は成功だな。続いては……」
ここでようやく炎の獅子の赤い魔石を取り出した俺は、その表面と術式を重ね合わせる。
そしてそのタイミングで、再び魔力凍結を発動する。
「術式付与」
すると、シュゥゥゥゥゥと焼印を押されたかのような音を鳴らしながら、術式が魔石に付与されていく。
数分後、魔石の表面には見事、付与した術式が浮かび上がっていた。
それを見届けた俺は、成功を確信して笑った。
「うん、うまくいったな。これでこの魔石は超越せし炎槍が放たれる直前の術式を内包した魔術石に生まれ変わった。これで後は、誰かがこの魔術石に魔力を注いで凍結を解除すれば、自動的に超越せし炎槍を放つことができるはずだ!」
探索者ギルドのアイテム売買所で見たところ、こういった攻撃魔術が付与された魔道具は少ししか置いていなかった。
地球ではまだ、自ら魔道具を作ろうとする者が少ないのだろう。
ダンジョン内で入手できる限られた魔道具しか置かれていない中、この魔術石を売り出せばボロ儲けは間違いない。
まさしく完璧なアイディアだ!
自分の天才的頭脳に恐れおののいていると、ふと大切なことを思い出す。
「っと、そうだった。この魔道具を使うのは俺じゃないんだから、レベルの低い奴が使ってしまえば反動でダメージを負う可能性があるな」
もちろん、それを解決するための方法は知っているが。
「魔石の反対側にも、出力時の衝撃を相殺する術式を付与してっと……よし、できた。これで今後こそ、誰でも発動可能な魔術石に仕上がったはずだ!」
満足しつつ、俺は2つ残された炎の獅子の魔石に視線を向ける。
「やっぱり、炎の獅子は火耐性を持つモンスターなだけあって、火属性魔術とはかなり相性がいいな。これが他の魔石だったなら、術式を付与する際に壊れてしまったはずだ」
結果として、あの時魔導書ではなくこちらの魔石をもらっておいてよかったのかもしれない。
まあ、それはさておき、
「残る2つも超越せし炎槍の付与はできるだろうから、そうするとして……他の魔石はどうするかな」
仮に俺が氷属性の魔術を発動することができれば、超越せし炎槍以上の高火力な魔術を凍結竜の魔石に付与してやったというのに……!
まことに無念だが、その機会はまたいずれに回すとしよう。
「まあ、魔道具作成はかなりの魔力と集中力を必要とするから結構な時間がかかる。続きを作りながら、どうするかゆっくりと考えるとするか」
そう方針を決めた俺は、そのまま思う存分、魔道具作成に没頭するのだった。




