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異形転生  作者: 島田のはち
第1章
2/23

02

端末から放たれた光が円輪状になってわたしの体を囲い、頭から足先までをゆっくりとなぞると花びらのように霧散して消えてしまった。


『プレイヤー情報を正常に読み込みました』


端末から流れた自動音声に画面を確認すると、この世界の文字なのか、見たことのない形で画面に『オズ』と表示されていた。画面をタップすると鍵穴のような表示が動き別の画面に切り替わる。そこにはまるでゲームのステータス画面のような文字がズラリと並んでいた。


「これは…」

「端末の中身ってこんな感じになってるんだ…」


興味深そうに端末の画面を覗き込むリド達の頭越しにわたしも画面を確認する。名前や年齢、職業ジョブ、そしてよくわからない文字列が並んでいる。


全能魔術師スペルマスター…。上位職業ハイジョブどころか伝説職業レジェンドジョブじゃない…」


ありえない、とでも言うような声色で呟いたアンネの表情は心無しか暗い。先程説明してくれた、プレイヤーはこの世界では珍しい職業ジョブを保有しているというのはこういうことだったようだ。

スマホの画面で職業ジョブの項目をタップする。小窓が開いて職業ジョブの説明文が表示されるが、要約すると『全ての魔術を無条件で行使することができる職業ジョブ』らしい。


「アンネ。本来魔術はどんなふうに行使するものなの?」

「そうね…。簡単に言うと、マナっていう自然界のエネルギーを体内に取り込んで魔力に変換した後、魔術ごとに異なる術式を理解・構築して、術式に魔力を込めることで初めて発動できるの」

「じゃあこの全能魔術師スペルマスターっていうのはその過程をすっ飛ばして魔術を行使することができる職業ジョブってこと?」

「すっ飛ばすなんて次元じゃないわ。魔力を込めて術式の名前を詠唱するだけで術式の階位ランク関係なく行使できるのよ。貴方達の世界の言葉で言えば“チート”ってやつね」

「成程」


因みに、階位ランクというのは術式の難易度を分かり易く識別するために付けられた指標のことらしい。

リド達の話が本当なら、プレイヤーは全員がこのレベルの職業ジョブを持っているということだ。それを不当に行使して犯罪に悪用しているということならプレイヤーが嫌われ恐れられているのも納得がいく。

スマホの画面を見ながらアンネが「コレが貴方が使える魔術の一覧ね」と指差したのは理解できていなかった文字列だった。アンネ曰く上から階位ランクの低い順番に並んでいるらしい。


「ねえねえオズ!試しに使ってみてよ!」

「そんないきなり使えるかな…」

「大丈夫よ。全能魔術師スペルマスターなら魔力の感覚さえわかれば使えるはずよ」


言いながらアンネがわたしの左手に自分の右手を重ねる。淡い光と共に体温とはまた違う温かい感覚が手のひらから全身へと広がる。これが魔力の感覚なんだろう。

魔力が全身に広がる程体が発光していく。熱も同時に溜まっていく感覚から、体内に魔力を溜め過ぎるのも良くないと直感で理解し、慌てて右手に意識を集中させて魔力を集め、先程画面を見ていた時に目に付いた魔術の名称を口に出す。


「『スプラッシュ』!」


右手を向けた先、何もない空間に水が現れ大きな渦を巻いて膨らみ、通路一杯に溢れて弾けた。勢いよく弾けた水が通路だけではなく、十分に離れた場所に放ったにも関わらずわたし達にまで水飛沫が飛んできて四人全員が一瞬でびしょ濡れになってしまった。


「……まさか、余波だけでこんなことになるとは……」

「……それだけ威力が大きいってことよ……」


リストの上の方にあった魔術だったから階位ランクの低いもののはずなのに、こんなことになるとは全く思っていなかった。


「アンネが同じ術使ってもこんな威力出ないんじゃないか?」


服を絞ったり頭を振ったりしながら水を払うリド。そんなにも違うのかとアンネを見つめながら首を傾げると、彼女は深く溜息を吐いて前髪を掻き上げながら『ウインド』を唱えて全員の服をあっという間に乾かしてくれた。だが、唱えた瞬間に発動したわたしとは違い、アンネの魔術は発動までに数秒の間があった。


「当たり前でしょ。魔術の威力と発動時間は術者の魔力適応力に比例するんだから。わたしとオズじゃ大違いよ」

「「魔力適応力?」」


リドと同時に首を傾げる。端末を確認してもステータス画面にはそんな表記は無い。きっとこういう数字では見えないものなのだろうと自分で答えを出して、端末の画面からアンネへ視線を戻す。


「魔力適応力っていうのはどれだけマナが体に馴染み易いかの基準のようなものよ。マナが体に馴染めば馴染む程体内を魔力が循環する時によりスムーズに行き渡るの。そうすれば術を発動する時、術式に魔力を込める速度が段違いに早くなって、自然と術の発動が早くなるのよ」


わたしには自覚は無いが、きっとアンネはさっきわたしに魔力を通した時に感覚としてその違いを理解したのだろう。


「凄く詳しいね、アンネ。お陰で助かるよ」

「この辺は魔術師として持っていて当然の基礎知識よ。殆どのプレイヤーは知識を得ずに感覚で使ってしまうから魔力暴走を起こしがちなの」

「魔力暴走…」

「えぇ。言葉通りの現象よ。暴走の規模は人によって異なるのだけれど、プレイヤーのように強い人が暴走すれば災害級の暴走が起こるわ。現に過去、プレイヤーの魔力暴走で領土の半分が更地になった国もあるもの」

「教科書にも載っているくらい有名な話です」


乾いた服や髪を整えていたミナが壁に立て掛けていた杖を持ち直しながら教えてくれる。教科書っていうことはこの世界にも学校があるんだろうか。少し興味がある。が、今はそれよりも…。


「魔力の扱いを覚えないとだね」

「安心しなさい。オズに訓練は必要ないわ。さっき端末に『魔力最適化』のパッシブスキルがあったから」

「え?ホント?」


端末を見直すと確かにスキル一覧の中にアンネが言ったスキルが確かに並んでいた。


「パッシブスキルって…常時発動型の、あの…?」

「えぇ。つまり、オズが魔術を使う時、自動でそのスキルが魔力制御をしてくれるわ」

「ほう…」


それでさっきも然程違和感などを覚えずに魔術を行使することができたのか。しかし、なんだかこれは……。

端末に並ぶスキルの一覧にサッと目を通す。魔術に関してはわたしはあまりわからないけれど、何十と並ぶスキルを見ているだけでもなんだかゲームと錯覚してしまいそうだ。


「なんだか、自分が自分じゃないみたいだ…」

「……それがプレイヤー達が犯罪に手を染める原因なのかな?」

「わからないけれど、でも…一要因ではあるかもしれないね」


現代の人間ならゲームに親しんでいるいるだろうけれど、それだけで犯罪に手を染めるようなことがあるだろうか。…考えてもこの世界に状況がわからない現状では考えるだけ無駄か…。

いつまでも洞窟の中で足を止めるわけにもいかないので、全員の身支度が終わったタイミングで歩き出す。


「そう言えば…今更だけど、オズって装備もかなり上等なものなんじゃないか?」

「?そうなの?」

「そうね。全身一式、魔術師用の特化装備なんじゃない?特にコートはわたしなんかじゃ絶対に手が出ないだろうし、持てたとしても宝の持ち腐れ間違いなしの代物だわ」

「おおぅ…。そんなに高価なものなのか……」


海魔族の見た目の方ばかりに目が行っていたが、どうやらわたしの今の服…というか装備自体かなりチートな代物だったらしい。

青い肌が際立つような真っ白の生地で統一されたコーディネートの装備。襟高の半袖シャツに太腿に金の刺繍が入ったパンツ、フードの付いたロングコートは袖と裾の部分に豪奢な紺色の刺繍が入っている。

端末に情報が入っていないか確認してみれば、ステータス画面にはしっかりと同じ名前の装備品が並んでいた。みんなにソレを伝えれば「やっぱシリーズ装備かあ」と揃って脱力してしまった。

実を言うとわたしはあまりゲームに関しては詳しくはない。身内はあまりやらなかったし、学校で同級生から少し話を聞くくらいだが、それでもシリーズ装備が何かはなんとなくわかる。どんなゲームでも大抵入手が困難であることが多く、しかも一式揃えることでより強力になるものだったはず。

端末の装備画面でコートの項目をタップして詳細画面を開く。少し前を歩いていたアンネも気になるのか隣に並んで画面を覗き込んでくる。二人で画面を見ながら詳細を確認していくと、やはりというか、シリーズ一式で装備することで得られるセット効果が存在していて、コート、インナー、パンツ、指輪のセットで『属性強化』と『詠唱破棄』のスキルが付与されていることが判明した。


「『詠唱破棄』っている?」

「通常の階位ランクの魔術ならオズはいらないわね。でも古代魔術って呼ばれるものだけはどれだけ魔力適応力が高くても詠唱が必要なの。理由としては、現代魔術と比べて術式が非常に複雑で行使自体が難しいからって言われているわ」

「詠唱無しでは扱いが難し過ぎるから、詠唱することで少しでも安定させる必要があるってことかな」

「多分ね。でも普通なら古代魔術に触れる機会なんて無いから、知識として知ってるだけの魔術師が殆どよ」

「そっか」


念の為スキル一覧にある魔術をアンネに確認してもらったが、流石にわたしが行使できる魔術の中にも古代魔術は無いようだ。それにはわたしも安堵の息を吐いた。


「おーい!そろそろ外に出るぞー!」


先頭を歩いていたリドの声が洞窟に響き、その声にミナが嬉しそうに駆けていく。アンネと視線を交わし、ミナの背中をゆっくりと追いかける。緩い坂になった道を上って行けば強い光が差し込んでいて、久し振りの光に少し目が眩む。歩調が緩んだわたしの手をアンネが引っ張って、漸く抜けた洞窟の外には、広大な草原が広がっていた。

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