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第一話

「ですから……! わたくしこそがリシェル・クローデッドだと申し上げているのです! まったく……何度言っても信じていただけないのだから、お話しになりませんわ! レオーネ様はソフィアに(だま)されているだけなのですわよ!」


 翌日の夜。

 王宮の一室に、ソフィア——義妹の金切り声が響き渡った。

 彼女の左右に立つのは、ひどく疲れた様子のリシェルの父と義母だ。


「この子の言うとおりですわ! そもそもこの子の実の父がそう申していますのに、どうして信じていただけませんの!?」

 義母は義妹と一緒になって声を張り上げ、一方の父は、「いや、それは……」と、(ひげ)を撫でながらおろおろし続けている。


「レオーネ、いったいこれをどうするつもりだ」

 呆れ気味に溜息を吐いたのは王だ。

 レオーネが(ステラ)として宣言した緊急事態は、オセアノを捕らえ、リシェルを保護したことにより一旦は解除された。

 しかし問題はいまだ解決しておらず、レオーネはクローデッド家全員の拘束を昨夜のうちに命じ、今夜、すべての問題を決着するべく場を(もう)けたのだ。


 ——まさか陛下までご同席なされるとは思わなかったけれど。


 星と花嫁の問題がこの国にとってそれほどまでに重要なことを、この時、リシェルはあらためて実感した。

 それと同時に、今回の件でクローデッド伯爵家の恥を世間にさらしてしまったことに、えもいわれぬ苦しみや申し訳なさを覚えていた。

 結局、母の遺言——願いとはまったく真逆の方向に事が進んでしまったのだ。


 そのような状況下でも救われたのは、エリオの身の安全が保証されたことだろうか。

 彼はまだ幼いということで別室で待機させられているが、これで義妹の手からエリオを守ることができたのだと、リシェルは安堵した。


「失礼します。発言をお許しください」

 王の背後に控えていた側近のひとりが、一歩、前に出た。

「ここで一度、問題をまとめさせていただいてもよろしいでしょうか」

 金色の長髪をポニーテールのようにした、眼鏡をかけた青年だ。

 歳はレオーネと同じくらいだろうか。ひとさしゆびで眼鏡の(つる)をさわる仕草に、どこか気むずかしそうな印象を受ける。


「つまり、ここにふたりの星の花嫁(フィオーレ)様がいらっしゃる。ひとりはクローデッド伯爵夫妻がお認めになった花嫁。そしてもうひとりは(ステラ)であるイルデブラン隊長がお認めになった花嫁。二人は義理の姉妹で、どちらかが本物の花嫁であるリシェル様。そしてどちらかがその義妹のソフィア様である。——ここまででお間違いはありませんか?」


「ええ、そのとおりよ! まあ、わたくしが星の花嫁(フィオーレ)であることは明白だけれど!」

 (えら)そうに(あご)を上げた義妹だったが、「お静かに」と、王の側近の彼にたしなめられた。


「なによ、その態度! わたくしを誰だと——」

「続けます。そしてそのお二人の花嫁ですが、どちらの胸元にも花の精霊の紋章が描かれている。さらに幼い頃にイルデブラン家で魔に襲われた際にできた古傷も、どちらの背にも存在している。それで間違いありませんね?」

 視線を向けられ、リシェルは「はい」とうなずいた。


「ソフィア、あなた、なにを図々しく……!」

 怒りを露わにした義妹が、リシェルを突き飛ばす勢いで詰め寄ってきた。

「あなたの身体にあるものは、わたくしを真似て描いたものでしょう!? さっさと認めなさいよ、あなたが偽物だって!」


 そこでレオーネが、リシェルを(かば)うようにして立つ。

「やめろ。金輪際、彼女に直接話しかけることは許さない」

「はあ!?」

 義妹が驚きに目を見はる。

「何をおっしゃられるのです! なぜそのように理不尽なことを——」

「覚えておくがいい。俺の花嫁を侮辱(ぶじょく)することは、俺自身を侮辱するも同等の行為だと」

「なっ……!」

 義妹は顔を真っ赤にし、怒りに口をぱくぱくさせた。


「だ、だからレオーネ様! あなたはソフィアに騙されているのだと何度言えばわかってくださるのですか!」

「今すぐ黙るか、俺に黙らせられるか、どちらがいい?」

「——っ……!」

 レオーネは腰に下げた剣の(つか)に手をそえた。

 彼の怒りが本物だと認識したのだろう。義妹はさすがに言葉を失ったようだった。


「さてレオーネ、もう一度問うが、いったいこれをどうするつもりだ?」

 王が溜息を重ねた。

「そもそもこの国において、(ステラ)その花嫁(フィオーレ)の存在はなによりも重要だ。花嫁であるリシェル・クローデッド嬢が十七になるまであとわずか。こちらとしては一刻も早く、星であるおまえと結婚し、この国に新たな祝福を授けてほしい」

 だが、と王は続ける。

「自らが花嫁だと主張する者がふたり。どちらもその可能性があり、どちらも嘘を吐いている可能性もある。……わからぬぞ、これは。ただ言えることは、決して(たが)えてはならぬということだ」


 王はレオーネに向けて、なかば挑戦的に微笑んだ。

「さて、おまえはどうする?」

 それはまるで、レオーネの(ステラ)としての力量を計ろうとしているかのようにも感じられた。


「陛下、それに関しましては、策を講じてあります」

 レオーネは王の前でひざまずいた。

「ほう。それはどのような?」

「どちらが真実の花嫁であるのか、ものの数十秒で判明する方法です。しかしその方法、少々危険を伴いまして」


 途端に義妹が顔色を青くした。

「そのような策が本当にあるというの!? そもそもそれの答えが正しいとは限らないじゃない!」

 レオーネはその声を無視し、王に願う。


「危険を伴いますが、決して負傷者を出さないとお約束いたします。少々驚かれる手法かもしれませんが、それですべてが明らかになりますので、どうか私にお任せいただけませんでしょうか?」


 しばし考え込むような素振りを見せた王だったが、やがてうなずいた。

「よかろう。(ステラ)である権限を、ここでも存分に使うがよい」

「感謝いたします」


 立ち上がったレオーネは、騎士団の団長や、各隊の隊長を集めた。

 彼等にあれこれ指示を出し、最後の舞台を整え始めたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 国の管理が杜撰なせいで起きてることなのに、やっぱりトップが無能なんだな。
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