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013 王妃様のお茶会

 ルトラウト様が滞在なさっている間、わたくしの主な仕事はルトラウト様の接待でございましたので、ルトラウト様をお連れして領地のあちらこちらに行ったり、トロレイヴ様とハレック様の稽古姿を見て一緒に萌えたりと充実した日々を送ることが出来ました。

 そうして、ルトラウト様がご帰国なさる日、わたくしはお土産としまして、四人で撮った写真をお渡しいたしました。

 本当でしたらトロレイヴ様とハレック様のツーショットの写真をお渡ししたかったのですが、もし誰かに写真が見つかって不貞を疑われるのを回避するために、わたくしも交えての四人での写真にいたしました。


「またお手紙を書きますわね」

「ええ、わたくしも。お元気で、ルトラウト様」

「グリニャック様こそ、お元気で」


 わたくし達はもう親友のように抱き合い別れを惜しみつつも、きちんとルトラウト様の乗った馬車が屋敷を出ていくのを見送りました。


「ニアってば、すごく寂しそうな顔してる」

「そうですわね、ルトラウト様とは話も合いましたし、今後お会いできることもそうそうないでしょうから、お別れするのが寂しいですわね」

「私達がいるだろう?」

「それとこれとは話が別ですわ。女の友情と殿方への愛とはまた別物なんですのよ」

「そういうもの? まあ、ニアが僕達を見てルトラウト様となんだか妙に盛り上がっていたのは気になるけどね」

「それは乙女(腐女子)の秘密というものでございますわ」

「乙女の秘密か、まあ、隣国の次期正妃と仲良くなるのはいい事だがな」

「それなのですが、なんだか雲行きが怪しいようですわよ」

「「え?」」


 わたくしはトロレイヴ様とハレック様に、レーベン王国の第一王子が学園で男爵令嬢にご執心になっていることをお話しますと、お二人は呆れた様にため息を吐き出しました。


「そのレーベン王国の第一王子は頭は大丈夫か? 男爵令嬢なんて、側妃にするのも難しいだろうに」

「ええ、ですので、どこかの伯爵家の養女にして正妃にするのではないかと仰っておりましたわ」

「厄介だね」

「まあ、男爵令嬢から次期王妃になると言うのは、平民が聞いたら喜びそうなサクセスストーリーではあるけどな」

「そうですわねえ」


 まさに夢物語ですものね、本にして出版したら売れそうですわよねえ。


「まあ、隣国とはいえ他国の事だ。首を突っ込むわけにもいかないだろう」

「そうだね」

「それにしても、長期休みが終わるまであと半月か。そろそろ帰り支度をしなければならないな」

「楽しい時間が経つのはあっという間ですわね」

「今年は、ニアがベランダから体を乗り出すことは無かったね」

「もうっ、それは忘れて下さいませ」


 身は乗り出しませんでしたけれども、ルトラウト様と一緒にベランダでお二人の会話に耳を傾けたことはございましたわよ。

 ええ、二人で思いっきり萌えましたわ。

 ルトラウト様の客室はわたくしの部屋の近くに変更していただきましたので、夜遅くまで二人でトロレイヴ様とハレック様のカップリングについて語り明かしましたのよ。

 本当に、前世に戻ったようで楽しい時間を過ごすことが出来ましたわ。

 それにしても、前世では年上だったルトラウト様が今世では同い年なんて、本当に奇遇ですわよね。

 なんでも、前世では三十路まで生きてらして、最期は過労死なさったのだとか。

 まったく、過労死するほど働くなんて、いやですわねえ。

 今世では王妃、いえ、側妃になるのでしょうか? とにかく重労働をなさらないようになるとよろしいのですけれどもね。

 まあ、わたくしも女公爵になりますので人の事は言えないのですけれどもね。

 その後も数日間エヴリアル公爵家の領地で楽しく過ごし、良く学び、わたくし達は王都に帰ることになりました。


「ではお爺様、お婆様、またお会いいたしましょう」

「次に会うのはグリニャックの結婚式かの」

「そうなりますわね。学園を卒業したらすぐに結婚する予定ですので」

「楽しみにしておるぞ」

「それまでお体を大切になさっていてくださいね」

「うむ」


 その後、わたくし達は荷物を積んだ馬車に乗り込み、王都へと帰還することになりました。

 帰り道は何事もなく順調に進み、予定通りの日程で王都に帰ってくることが出来ました。

 久々の王都ですが、やはり領地とは違った賑やかさがございまして、通りすがった市場は活気に満ち溢れておりました。


「こういう光景を見ると、帰って来たって感じがするね」

「そうですわね」

「そういえば、この長期休暇の間に、来年の九月に、デュドナ様が即位することが決まったんだったな」

「そうみたいですわね」

「まあ、デュドナ様にはもうお子様もいるし、国王陛下も引退を考えてもおかしくはないんじゃないかな? ウォレイブ様も学園を卒業したらすぐにプリエマ様と結婚する予定だし、残る姫君達は一時的に女大公の地位を与えられるとは思うけど、もう婚約者は決まっているんだし、学園を卒業したら降嫁するだろう?」

「なんだか順調すぎて怖いぐらいですわね」

「平和が一番だ」

「そうですわねえ。本当にそうだと思いますわ」


 アルエノ様、長期休暇の間に反省してくださっていればよいのですけれども、どうでしょうか?

 わたくし達はエヴリアル公爵家に着きますと、先ずわたくしの荷物が降ろされて、次々と屋敷の中に運び込まれて行きます。


「じゃあ、また学園でね」

「数日とはいえ会えないのが寂しく感じてしまうが、その分、会えた時は嬉しく感じるものだ。今は我慢しよう」

「ええ、そうですわね。では、お二人とも、学園でお会いいたしましょう」


 馬車はそのままトロレイヴ様とハレック様の荷物を乗せて、それぞれの屋敷へ向かいました。

 わたくしは久しぶりの我が家に、ほっと息を吐き出しまして、帰宅の挨拶をするためにお父様の所へ向かいました。

 お父様はいつものように執務室にいらっしゃるようで、執務室の扉をノックいたしますと、中から侍従が扉を開けてくれました。


「お父様、ただいま戻りましたわ」

「無事に帰ってきてくれて何よりだ。父上達はお元気だったか?」

「はい」

「それはなによりだ。それに、グリニャックの手腕でレーベン王国のアンベルク公爵領との個人的な輸出入の話も纏まったと聞くし、いつ儂が引退しても問題はなさそうだな」

「まあ、お父様ったら、気が早いですわよ。……そういえばお母様はまだ王宮に?」

「ああ、長期休暇ぎりぎりまで王宮に滞在してプリエマを見張るそうだ。もっとも、最近はプリエマは積極的に講義に臨んでいるとのことだぞ」

「まあ、何か心境の変化でもございましたの?」

「ブライシー王国の王妃様がいらっしゃっただろう? その王妃様にお会いしてから変わったらしい」

「そうなのですか。プリエマにとっては良い刺激になったのですね」

「ああ、ありがたいことだ。……そうだ、早速だが、明日王妃様主催のお茶会がある。グリニャックの帰還が間に合えば是非出席して欲しいと言われているので、出席するように」

「わかりましたわ」


 その後、領地であった事などの報告を致しまして、わたくしは私室に戻ることに致しました。

 私室では、ドミニエルとリリアーヌが荷ほどきをしている最中でございまして、わたくしは邪魔にならないように部屋のソファーに腰かけますと、その様子を何とはなしに眺めておりました。

 今回の旅行では、リリアーヌとドミニエルにわたくしが前世の記憶がある事と、薔薇世界の趣味があることがばれてしまいましたが、他言するような者達ではありませんので、二人の口からお母様達にバレるという事はないでしょう。

 それにしても、王妃様主催のお茶会ですか。

 プリエマやお母様も招待を受けているはずですし、久しぶりに会えますわね。


「グリニャック様、こちらの包みは如何いたしますか?」

「あ、それはわたくしが」


 わたくしはリリアーヌからトロレイヴ様とハレック様の写真が貼り付けられたアルバムの束の包みを受け取ると、一人で寝室に入って、丁寧に包みを解くと、ドレッサーの引き出しの一番上に丁寧に仕舞いました。

 それにしても、今回の領地への旅行は得るものが沢山ございましたわね。

 国は違いますが、前世の腐女子仲間と再会することが出来ましたし、将来の女公爵としての仕事の一環のように、個人的な輸出入の段取りを組むことも出来ましたし、本当に有意義な長期休暇でございましたわ。

 その後、荷ほどきが終わるまでわたくしは寝室でアルバムを取り出して、領地で新しく撮った写真を眺めて、艶めいたため息を吐き出しておりますと、寝室の扉がノックされました。


「グリニャックお嬢様、夕食のお時間になりますので、お着替えを」

「わかりましたわ。荷ほどきは終わりましたの?」

「はい、滞りなく」

「そうですか、ご苦労様です」


 わたくしは荷物の整理が終わったばかりの衣裳部屋に入りますと、旅行用のドレスから部屋着用のドレスに着替えまして、食堂に向かい、お父様と一緒に夕食を頂きました。

 その後、また私室に戻りますと、疲れを取るようにゆっくりと湯あみを致しまして、寝着に着替えますと、早めに寝室に入り、またアルバムを取り出して写真を堪能致しまして、ベッドに入り目を閉じました。

 翌日、昼食を兼ねたお茶会という事で、外出用のドレスに着替えたわたくしは王宮に向かいました。

 王宮につきまして、王妃様の離宮に参りますと、メイドにサロンへと案内されまして、そこに参りますと、既に多くの方々が集まっておりました。


「王妃様、本日はお招きありがとうございます」

「グリニャック様、帰還が間に合って何よりですわ。楽しんでいってくださいね」

「はい」


 わたくしは王妃様に挨拶を致しますと、お母様とプリエマの姿を探し、発見致しますと近づきまして、空いている席に座りました。


「お久しぶりです、お母様、プリエマ。それにウォレイブ様もエドワルド様もお元気そうで何よりですわ」

「久しぶりですねグリニャック、領地では有意義に過ごせましたか?」

「はい、お母様」

「お久しぶりです、お姉様。お会いしたかったです」

「プリエマも元気そうで何よりですわ」


 ふむ、確かにプリエマの様子が少し変わりましたでしょうか?

 なんといいますか、纏う雰囲気というものが変わったように感じますわね、より高位貴族の令嬢らしくなったと言えばよいのでしょうか?

 この長期休暇中に何があったのかはわかりませんが、成長するのは良い事ですわね。

 その後、お茶会の参加者全員が揃いますと、王妃様がお茶会の開始挨拶をなさいまして、お茶会が開始されました。

 今回のお茶会は昼食も兼ねておりますので、出される料理も軽食と言うには少々重めのものとなっております。

 けれども、それらに構わず、わたくしは給仕にパウンドケーキを取っていただき、一口サイズに切りながら頂いて、アイスティーを楽しんでおりますと、プリエマがパスタを口に運びながら、何かを言いたそうにわたくしを見て来ておりました。


「プリエマ、なんです?」

「……(ごくん)。あのですね、お姉様、私、気が付いたんです」

「まあ、何にでしょうか?」

「いままで、何故かお姉様に勝つことに固執してきましたが、そのような事に関係なく、自分を磨くことこそが大切だという事にです」

「そうですか、それは何よりですわね」

「キャメリア様は本当に素晴らしい淑女でいらっしゃいました。あのような方がお母様だったらと本当に思えてなりませんわ」


 プリエマの言葉に、わたくしは膝の上に置いておいた扇子を軽く広げて口元に持って行き、お母様の様子を窺います。

 お母様は気にした様子もなく、カヌレを一口大に切って口に運んでいる所でございました。

 うーん、本人は気が付いていないようですけれども、今の発言はお母様を貶しているのですが、諫めるべきでしょうか?

 けれども、お母様が何も仰らない所を見ると、こういった発言をするのは初めてではないようですわね。

 ブライシー王国の王妃様にはお会いしたことはございませんが、プリエマがこんなに傾倒するなんて、余程素晴らしい方なのでしょうね。

 好戦的な国王を宥めて戦争を出来るだけ回避していると、『オラドの秘密』のファンブックにもございましたし、有能な方なのは間違いないでしょう。

 その後も、プリエマはどれだけキャメリア様が素晴らしかったかを語りまして、挙句の果てにはまたお会いするためにブライシー王国に行ってみたいとまで言い出す始末でございます。


「プリエマ嬢、大公妃になったら外交でブライシー王国に行くこともあるかもしれないよ」

「本当ですか! ウォレイブ様!」

「うん」


 実はずっと席にいらっしゃったウォレイブ様がそう言うと、プリエマは目を輝かせて、それはもう嬉しそうにアイスティーを優雅に見えるように飲んでいます。


「プリエマ嬢にそこまで惚れ込まれるなんて、母上に手紙を書いたら喜ばれそうだ」


 これまた、実はずっと同席していたエドワルド様が仰いました。

 まさか、本気でハニートラップを仕掛ける気でしょうか? せっかくウォレイブ様との結婚の話がまとまっておりますのに、止めていただきたいですわね。


「キャメリア様も私にお手紙を書いて下さるって仰って下さっているんですよ。私も必ずお手紙を出しますってお約束したんです」

「そうですか」


 うーん、なんだか不穏ですわねえ。

 まあ、プリエマの好きにすればよいと思いますけれども、今更ウォレイブ様との婚約を止めるなんて言い出しませんわよね?

 なんだか心配ですわ。

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