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横暴な神の置き土産

「聖女様の瞳の色、若草色でしたっけ?」

「え?……え?!」


 同級生に言われて慌てて手鏡で確認すると本当に色が変わっていた。瞳の中で時折星が瞬くように光が泳ぐ、不思議な若草色。金色ならまだいい。来たとしか思わない。でも若草色に心当たりはないのだ。


「本当に誰よ?!」

 

 突然叫んだ私に声をかけてくれた女生徒は「え?だれとは…?」とおっとり焦っていた。けれど悪いが今はお貴族様と同じ時間の使い方をしてはいられないので早口に退席の挨拶をして廊下を駆け出した。

 

「もー!!!来るなら先に言っ……」

 ガクンと身体が前のめりに倒れそうになった。

 もう自分の意思では満足に身体を動かせない私は重力に従って倒れていく。


「おっと、あれ?フローラ様?大丈夫?」

「……」

「フローラ、だよな?」

「暫し待て」

「ん?うん」


 自分の手を何度か握り、足踏みをして動作確認を行った。自分が自分の意思とは関係なく動いて喋る。2年に1度の頻度でおこる神の遊びに付き合わされる方はたまったもんじゃない。


「……ふむ、なるほど」

 そうつぶやいた神が誰なのか、私自身分かっていないのだからアレンス様はもっと混乱しているだろう。それよりさっき抱きとめられちゃったよ!ひゃーっ!


 スタスタ歩く私の後を、アレンス様は心配そうについてきてくれた。身体が乗っ取られているので後ろを確認できないが、何となくわかる。


「それにしても、随分変わった神殿だ。おい、お前。神官長はどこにいる」


 振り返ってアレンス様にそう言った私にアレンス様の視線は鋭くなる。


「ここは神殿ではありませんよ。それよりあなたはどなたですか。姿が私の友人そのものだ」

「ん?神殿ではない?この娘は神子のはずだろう」

「……」

「なんだお前、依代術を知らんのか」

「よりしろ…?」

「降神は?」

「おりがみ…いえ、存じ上げません。あの、失礼ですが、あなたは…」

「ユースリール。あぁ、いい。うるさいのは好かん」


 その名を聞いて跪こうとしたアレンス様を手で払いながらユースリール神は今度は目的地が決まったように歩き出した。

 アレンス様は省かれた挨拶に冷や汗をにじませながら、医学と薬学の神であるユースリール神に話しかけた。


「あの、こういうことはよくおこるのですか?」

「依代術のことか?娯楽好きのやつはよく下りるが、我は下りん。うるさいのは好かん。あぁ、ここか。入るぞ」


 アレンス様はユースリール神の後に続いて薬草学室に入った。入室するや挨拶もせずに好き勝手に戸棚をあける女生徒に困惑する教師を宥め、アレンス様が事情を説明するが教師は当然すぐには信用しなかった。


「ここには危険な薬草はないけれど、だからと言って適当に使っていい訳では」

「あぁ、別の保管場所があるのか。あそこだな」

「あぁ、ちょっと!!!」


 先生はオロオロとアレンス様とユースリール神を交互に見て控えめに抑止の声をかけていた。

 

 可哀想に。神殿所属の者と王族が我が物顔でやってきたら普通こうなるよね。


「なんだ、純度が低いな。おい、ちゃんと満月の夜に採取しろ」

「え……、満月の夜に取ると薬効に影響が?」

「ここは薬学が停滞してるのか?」


 そんな話をしながらも欲しいだけ薬草をとったユースリールはどんどん調合を始めていく。その頃には教師は必死に工程をメモしていた。


「あ、今の水はどれほどの量でしたか?」

「猫の一口分」

「ね…、は、はい!ね、こ、の、」


 どうでもいいけど流石にスカートなので胡坐はやめてほしい。上着をそっと膝にかけてくれたアレンス様の素晴らしさよ。


 出来上がった丸薬を風魔法で乾燥させたものをユースリール神はアレンスに渡した。そして振り向いて教師に一言。


「残りはお前が仕上げろ」

「は、はい!それで、これは何の薬ですか…?」

「3年後に来る流行り病の治療薬だ。量産に励め。死ぬぞ」

「え?!ちょ!!」


 言いたいだけ言って帰っていったユースリール神は、本当に降神慣れしていないようだ。


「せめて座ってから帰るくらいの気遣いをさぁ……」

意識の切り替わりは眩暈が酷いので、2年に1回のヴェルヘルミーナ神は寝てる間に入って私が次に眠ったタイミングで出ていく。これが常連さんとの差だ。


眩暈が収まってくると、自分の状況が視野に入る。

暖かい……?


「フローラ?」

「……ひゃあ!」

「おかえり」


 先ほど同様に抱き留めてくれたアレンス様は相変わらず笑顔が素敵です。

 いつの間にかフローラ呼びになっている事に照れながら私はなんとか一言絞り出した。


「ただいま戻りました……」


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