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神官長だけ良識人

 授業中、開いている窓から光が入ってきて私の机の上で一通の封筒に姿を変えた。教師は一瞬こちらに視線を寄越したが見ないふりをして授業を進めている。


『白のフローラへ

 参拝者の対応応援願いたし。

 貴殿も神殿に所属する以上、こちらの要請に応えるのは当然の事。

 早急に向かうように。

 紫のエルマー』


 最近同じような手紙のやり取りが続いて、正直もううんざりしてきた。幸い今の授業は神聖魔法とその成り立ちについてだったので、ノートを一枚破いて手紙を書いて行く。


『親愛なる神官長殿

 ご挨拶を省略する無礼をお許しください。

 最近私の元に時と場合を考えずに神殿から手紙が届きます。

 内容は全て紫神官から、参拝者の対応要請です。

 こちらは国民の血税で学業に励む身故、代替案にて応じさせていただきます。

 空いている相談室に紫神官の配置を提案します。

 そもそも彼らは普段何をしているのでしょうか。

 会議室の椅子に座っているところしか見たことがありません。

 同じ椅子に座るなら、相談室の椅子でも問題はないかと。

 彼らもきっと神官長からの指示を待っている事でしょう。

 授業中にも関わらず私の目の前に手紙を送ってくるほどです。

 その心意気をどうか汲んで差し上げてください。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。

 白のフローラ』


 手紙を鳥の形に折ってから息を吹きかけ、教師がこちらに背を向けたところを見計らい窓の外へ飛ばした。

 何人かの生徒に見られたがみんな黙っていてくれた。良い人たちである。


 その日の夜、部屋の窓を通過して入ってきた光にうんざりしながら消そうとしていた灯りをそのままに、手紙を開いた。


『白のフローラへ

 こちらへ届くはずの手紙の返事の送り先を間違えていた。

 以後、十分に気を付ける様に。

 貴殿の提案で老体に鞭打つことになった。

 紫のクルトは腰痛持ちだというのに4時間相談室の椅子に座り続けるという苦行を行ったのだ。

 身内に対してすらここまで配慮が出来ないのなら、外での奉仕活動など以ての外。

 今すぐ戻れ。これは命令である。

 紫のエルマー』


 ふむ、確かに私は腰痛というのに悩まされたことがない。分からない事にこそ慎重であるべきだろう。

 私は急いで筆を執り、手紙を書いた。


『親愛なる神官長殿

 月が頭上に昇る夜、いかがお過ごしでしょうか。

 私は本日騎士科と魔法学科で模擬戦を行いました。

 クタクタな身体を早くベッドへ投げ出し、女神の癒しの中で夢を見たいと願うばかりです。

 さて、早速本題に入らせていただきます。

 詳しくは別紙参照の程お願いいたします。

 私の懸念はただ一つ。

 紫神官の神聖力の衰えについてです。

 本来人は日中勉学や職務に励みますが、彼らは身体を起こしているだけで不調に見舞われ、且つその不調を自ら癒すことが出来ない様子。

 人に手を差し伸べる為にはまず自己管理の徹底すべしと本日の合同授業でも習いました。

 また、彼らは白紫青赤黄の序列の覚え間違いをしている様子。

 年齢による衰えを非難するつもりは毛頭ございませんが、神殿は老人保護施設ではございません。

 必要ならご家族への連絡や、施設への移住を勧めするのもまた一つの勇気であると進言します。

 白のフローラ』


 書いた手紙と一緒に紫神官から送られてきた手紙も折りこんでいく。窓の外に手紙を放ってから、待ち望んだベッドへ身体を預けて眠りについた。


 翌日学校長から呼び出され、私は神殿に向かう事となる。

「やだなぁ~、怒られるやつかなぁ~」

 うだうだ独り言を言いながら長い長い階段を登りきり、神殿の神官が既に並んでいるところに入っていく。


 白を中心に右に紫、左に青、更に外側の右に赤、左に黄という配置は全神官が集まる時にはお決まりの並びである。


 私の前に並ぶ聖女から上着を受け取ってそれを羽織ると神官長が前に出てきて話を始めた。


 要約すると、全神官の神聖力と健康診断を実施するとのことだった。


 激務から逃れたかっただけなのに、逆に面倒な事になってしまった。


 しかもせっかく来たんだからと仕事まで振られて散々である。


 ちなみに紫神官は2人青神官に降格と1人退官させられたらしい。今回は痛み分けだろう。うん。



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