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ドブに捨てられたみんなの時間


「おい!!!お前!!!!」

「はい殿下」

「無礼者!!こっちを向け!!!」

「殿下、状況を見てください」

「私を差し置いて優先される状況などない!!!」

「王族ってすごいな」

「当たり前だろう!おい、さっさと話を聞く姿勢をとれ!この無礼者!!」


 私は両手の中の火の玉を、慌てて飛んできた教師の指示に従ってゆっくり四散させていく。

 殿下が間違ってもこちらに手を出さない様にと先生は冷や汗と唾を飛ばしながら騎士に言った。まあ、これうっかり飛ばしたら住宅2棟くらい完全燃焼しちゃうもんね。


「何を考えているんですか。柵にかけられた札の文字が読めないのですか。危険度4の授業中と書いてあったはずです。殿下の最近の態度は目に余ります。あなた方の仕事は子供のあとをついて歩くだけですか。この事は王宮へ正式に抗議文を送らせていただきます」


 ガタイの良い騎士が全員小さくなっている。先生はもうお爺ちゃんなのに、こういう時貫禄がすごい。

 そんな大人のやり取りが視界に入っていない訳ではないだろうに、殿下はそちらを見もしない。


「で、何の様ですか?」

「お前、ローザに何を言った!」

「はい?ローザリンデ様?最近見てもいませんが。何かありました?」

「少し前から全く連絡が取れない」

「行方不明ですか?」

「寮には毎日帰っているらしい。ただ、顔を合わせても時間がないとか何とか言って…」

「避けられてるんですね」

「黙れ!無礼者!!お前のような非情な者と一緒にするな!!」


 殿下は何故こうも声が大きいのだろうか。語尾が強くて会話をするだけで疲れる。

 とはいえ、私は聖職者。会話を求めてくる人の人格でシカトするわけにもいかない。


「ローザリンデ様が殿下を避け始めたのはいつ頃ですか?」


 殿下は指を折って日数を数えた。ちょうど以前私にリリエンルローン様の居場所を聞いた数日後だ。


「殿下、多分それ愛想つかされたんだと思います」

「なんだって?ローザが?ありえないだろう。俺は王子だぞ?俺が俺である以上ローザは俺から離れない」

「陛下の息子だからといっても王位継承権を独占しているわけではないですよね?」

「バカはこれだから…。いいか?王子は俺だけだ」

「はい。ですが、王女なら他にもいらっしゃいます」

「あ?」

「王女殿下は2名いらっしゃいますよね?」

「だから何だ?」

「………いえ、ですから。殿下、入り婿という言葉はご存じですか?」

「だから、何故王子の俺がいるのに婿という言葉が出てくる。もう少し会話できるようになってからものを言え。馬鹿ものがッ」


長い長いため息をこれ見よがしに吐いた殿下。

あれ?私が分かってないのか?まあ確かに貴族の言葉の裏をよんだりするのは苦手だけどさ。でもこれってそのレベルの話じゃないようにおもうのだが。

とはいえ、私には貴族の暗黙の了解を全て把握できていない自覚がある。あと殿下とまともに会話が出来たためしがないという自覚も、残念ながらしっかりあった。


「とにかく私には尊き血を持つ方の考えは分かりかねます。いっそのことお父様にご相談になられてはいかがでしょう」

「性欲が溜まっているんだ!こんなこと父上に言えるか!!」


 最低だーーーーー!!!!


 もう会話による疲れが吹っ飛ぶほどすがすがしいドクズっぷり!こりゃローザリンデも逃げるだろう。


「全く、時間を無駄にしたっ」


 こっちのセリフだよ!!!!


深呼吸でもしてんのかというほど長いため息をまた吐いて、殿下は去っていった。マイブームだろうか、そのため息。

そして授業を邪魔されてまことに時間を無駄にされた生徒と教師が残された。


「この国終わったな」


 そうつぶやいたのは誰の声だったか。誰も声の主を特定しようとはしなかった。何故って、特定したら注意しないといけないが、みんなその声に同感だったからだ。


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