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縁結びもお仕事の一環


「あら、フローラ、ご機嫌ね」


 誰もいないと思ってクルリと回ったところをリリエンルローン様に見られた。


「ご、ご無沙汰しております」


 寄りにも寄って令嬢の中の令嬢であるリリエンルローン様に見られるとは!!!

 恥ずかしさでずっと礼をしていたいと思ったが、彼女から許可が下りてしまえば顔を上げない訳にもいかない。そして更なる追い打ちが私を待っていた。


「そんなにご機嫌な訳を聞いてもよろしくて?」

「その、次の授業が四大魔法でして…」

「あら、授業が楽しみだったの。あなたとても可愛らしいわ」

「恐れ入ります……」


 リリエンルローン様の後ろに控えている人が婚約破棄騒動の時と同じ騎士様だった。私の不作法を周りにばれない様に注意してくれたあの騎士様だ。リリエンルローン様は毎日同じ使用人と騎士を連れているわけではないのでご挨拶の度に会えるわけではないけれど、だからこそお会いできるとちょっぴり気分があがるのだ。


 その人に、浮かれた子供みたいなところを見られた……。


 いつもは緊張するリリエンルローン様との会話も脱力感から気の抜けたものになる。貴族との会話は苦手だ。いつだって美しい言葉で着飾っているが、その言葉の裏を理解していないとどんどん会話がかみ合わなくなる。けれど私は既に投げやりな気持ちだったので裏を読むことを放棄した。


「魔法と言えば、聖女にしか使えない魔法というのがあるのでしょう?」

「ええ、でも癒しの魔法や結界魔法など利便性の高い魔法は聖人にも使えます。私はヴェルヘルミーナ神の神子なのでお見せできるものと言えばこの程度ですよ」


 そう言って手を蕾の形にして中に息を吹き込んだ。

 そっと手を開くと多種多様の花が手からあふれ出す。


「まあ!」

 使用人の女性がエプロンを広げてどんどん零れる花を受け止めてくれた。こういうのは観客が飽きる前に終わらせるのが基本なので、両掌の花を散らすようにふっと息を吹きかける。花は解けて花びらになり空に飛んで行った。


「その花、入浴の際浴槽に浮かべたり、飲み水やお茶に入れて飲むと美容の効果が出るので、よろしかったらどうぞ」

「まあ!!」


 ただ女神の泉程の効力はないと一応付け加えてそそくさとその場を退散した。


 後日、リリエンルローン様に贈った花の話を聞きつけた女生徒がひっきりなしに訪ねてきて学園中逃げ回ったのは誤算だった。


 さて、聖女の魔法というのは多種多様で、その人にしか使えないものも存在する。私の場合人と人との相性が見えたり、神殿にいる別の聖女は魅了の魔法を持っていたりもする。愛の女神の神子にふさわしい能力といえば聞こえはいいが、私的に医学と治癒の神の恩恵の方が役立つと思っている。ちなみに医学の神は男神で母が生前信仰していた神様だ。血筋のお陰か、時々気まぐれにその恩恵が受けられたりする。


 花強請りから逃げてきた空き教室に顔を髪で隠した女生徒がいることに気付かなかった私は慌てて彼女に挨拶をした。


「失礼しました。先客がいるとは思わず…」

「気になさらないで。あなたが噂の聖女様ね」


 女生徒はコリンナと名乗った。家名を省略したが、貴族の出であることは制服とその立ち振る舞いから見て取れる。


「匿っていただくお礼にお話をききますよ。コリンナ様、随分忍耐されたようですね」


 神聖魔法は約8割が人に分からないものが多い。見たり聞いたりという自分の五感で感じ取るものは尚の事、インチキ扱いされる。そういった魔法で彼女を見ると、憂鬱の影で彼女が見えないほどだった。


「わたくしが陰気なのはいつもの事です」


 そう言ってコリンナははにかんだ。

 悩みを打ち明けたくない人もいるだろう。まだ頑張りたい、そういう人の心をつまびらかにするのは悪趣味だが、この年代は小さなことでも大きな悩みにしてしまう。

 私は3つの視力に影響を与える魔法を使った。


 1つ、悩みの元を特定する魔法。この魔法を使うと視線が誘導される。自分の視線が彼女の右頬に向かった事で髪で顔を隠している原因を把握する。


2つ、想いの糸を見る魔法。想いの種類によって糸の色は違うのだが、今回は薄紅の糸がどこかへ伸びている。糸の先を辿らないと両想いか片想いか分からない。


3つ、相性確認の魔法。知る限り私だけが使える魔法。彼女が関わってきた人と彼女の相性が見える。人によって色の濃さだったり数字だったり表し方は様々。

赤い糸の相手を見つけ、心の中でガッツポーズをした。


「では、せめてものお礼にこちらを差し上げます」


 私は先日花を出した魔法より2段階上の魔法を行使した。


 コリンナには両片思いの男性がいる。

 怪我の痕か痣かは判断できないが、彼女は自分の顔の右頬に引け目を感じて素直になれない。

 神様、彼女の憂いを取り去ってください。


 長く長く吹き込む息が手の中でクルクル回り、質量を感じたところで手を広げる。


「すごい……」


 手の中の青色の薔薇をコリンナへ差し出した。


「花びらを一枚浮かべた水をタオルに浸して寝る前に5分、朝に5分毎日続けてください。きっと女神さまがあなたの悩みを叶えてくれます」

「……」


 数日後、廊下ですれ違ったコリンナは髪を華やかに結い、1人の男子生徒の元へ駆け寄っていった。あの日の願いを叶えてくれた神様がどなたかは分からないが、この国にある医学の神の祭壇にお礼に向かうことに決め、予定を立てた。


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